第156話 役所は漫画も使います
私は総務事務省に出勤してジルに言った。
「昨日、ホット公爵に言われたんだけど『高位貴族の納税』の原案ができたらホット公爵に資料を渡してほしいの。それを使ってホット公爵が他の高位貴族たちを説得するから」
「分かりました」
「あと、今度の首席会議には高位貴族の代表を数名会議に参加させたいんだけど、そういうことはできる?」
「はい。今までも重要な案件を決める場合はその専門家などを同席させることはありましたから可能だと思います」
「そう。ならそういう方向で手続きを進めてね」
「承知しました」
ジルは自分の席に戻って各事務官へと指示を出していく。
さて、そういえばギークに任せておいた『乗合馬車の運行』の予算は計算できたかしら?
う~ん、誰かを聞きに行かせてもいいけど、具体的な話になったら私が聞かないとだから二度手間になるわよね。
よし、ギークの所に行ってこようっと。
「クリス。ちょっとオタク事務省のギークに会いに行って来るから席を外すわ」
「はい、アリサ。分かりました」
私はクリスに声をかけてオタク事務省に向かう。
オタク事務省の受付にギークに会いに来たと言うと受付の人が言った。
「ギーク首席事務官様は今は「マンガの宮」に行かれています」
「マンガの宮?」
「はい。今日は漫画の最新刊が納入される日でこの日はギーク首席事務官様はマンガの宮で最新刊のチェックをされるのです」
そういえば前にブランたちが言ってたわよね。
ギークを首席オタク事務官にする時にこの国の漫画本を全部集めるのが条件にされてそれ専用の宮殿を作ったとか。
漫画本のチェックって言ったって単に最新刊を読みたいだけよね、きっと。
「サタン。マンガの宮がどこにあるか知ってる?」
私は今日も影のごとく私の護衛をしているサタンに聞く。
「……はい……」
「悪いけど案内してくれない?」
「……分かりました……こちらです……」
サタンが歩き出したので私はサタンについて行く。
それにしてもギークもブランたちにすごい条件を出したものよね。
私はオタク事務省から廊下をくねくねと曲がりそのマンガの宮に辿り着いた。
見た目からしてなかなか大きそうな宮殿だ。
だがその宮殿を見て一目である特徴に気付いた。
窓が極端に少ない。
これって本とかを日光から守るためかしら?
「……ここです……」
私はサタンに言われた扉から中に入った。
その瞬間思わず私は叫んだ。
「すご~い!!」
マンガの宮の中には本棚が整然と並べられてギッシリと本が置いてある。
その数はパッと見ただけでも数万冊はあるであろう。
私はひとつの本棚に近付いて漫画本を見てみた。
手に取ってパラパラとページを捲ると日本の漫画本とあまり変わらない。
私の手に取った漫画本は恋愛漫画のようだ。
私も時間があったらここで漫画本読むのもいいな。
「なんだ。アリサか。ここまで来るなんて僕に何か用?」
私は声がした方を見るとギークがソファに座っていた。
ギークの手にはもちろん漫画本がある。
「読書の邪魔してごめんなさい。『乗合馬車の運行』の件の進み具合を聞きにきたんだけど。それにしてもこの漫画本の数はすごいわね」
私が周りの本棚を見ながら言うとギークは機嫌良さそうに言う。
「僕が首席オタク事務官になる条件だったからね。でもここには漫画本以外にも小説もあるよ」
「へえ。そうなんだ」
「本当は他人にはここの本は触らせないんだけど、アリサは興味あるならここの本を読んでいいよ」
「ホント!?」
「ああ。アリサは特別さ」
ギークはニコリと笑う。
その笑顔は十代の年相応な少年の純粋な笑顔で思わずドキっとする。
なんだ、ギークだっていつもその笑顔でいればいいのに。
「アリサは漫画を馬鹿にしないからな」
ギークの呟くような声に私は反応する。
「あら、漫画だってひとつの文化だし、それに漫画から得る知識もあるわ。それに私のいた国では役所とかだって制度を分かりやすく説明するために漫画を使うこともあるわよ」
「え? 役所で漫画を使うのかい?」
ギークは驚いた表情になった。
私がいた職場も難しい制度を漫画で説明するパンフレットを作成したことがある。
この国にはそういった物はないのかな。
だったらそれを活用しない手はないわよね。
「ギークも漫画で役所の制度を説明する物を作ってみたらどう?文字だけでなく絵があった方が分かりやすいってこともあるのよ」
「なるほどね。うん、その考えはいいかも。オタク事務省には漫画の研究者もいるし」
漫画の研究者? 漫画家のことかな?
「ギークは今、何を読んでるの?」
「これは異世界転移の話の漫画さ」
私はギークの言葉にドキリとした。