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第150話 音楽に異世界はありません

「ん? 話?」


「そうよ、あなた。アリサ様はあなたにお話があって来たのよ」


 レイラ夫人がクラシック公爵に言い聞かせるように言う。


「そうだったのか。君はアリサと言うのか。分かった、話を聞こう」


 クラシック公爵がそのままソファに座ろうとするのをレイラ夫人が止める。


「あなた。まずは身なりをきちんとしてきてください。そのままではアリサ様に失礼です。お話はその後です」


「ん? そうか。分かった」


 レイラ夫人の圧力ある言葉に促されてクラシック公爵は部屋を出て行った。

 どうやら普段はレイラ夫人の言葉にクラシック公爵も従うようだ。


「ごめんなさいね。もう少しお待ちになってくださいね」


 レイラ夫人は私に笑顔を見せる。


 まあ、話を聞いてくれるなら待つけどさ。

 クラシック公爵が公爵としてやっていけてるのはこのレイラ夫人の力も大きい気がするわ。


 20分後、部屋に現れたクラシック公爵を見て私はあんぐりと口を開けてしまった。

 先ほどのもじゃもじゃ頭は綺麗に整えられて衣服も公爵が着ていそうな上品なダークグレーの服に変わっていた。


 クラシック公爵って少し年齢はいってるけどイケメングループに充分入るわよ。

 普段からこの姿なら女の人にもモテそうな気がするわ。


 そこで私は先ほどのクラシック公爵の音楽しか興味の無さそうな頭を持った行動を思い出す。


 でも中身があれでは付き合える女性は限られるか。

 そもそも既にレイラ夫人がいるしね。


「先ほどは失礼しました。アリサ様。改めて挨拶させてもらいます。私はデニス・クラシック公爵です」


「首席総務事務官のアリサ・ホシツキ・ロゼ・ワインです。こちらこそよろしくお願いします」


 ようやくまともに挨拶できたわ。


 クラシック公爵夫妻と私はソファに座る。


「それでお話というのは?」


「はい。実は今現在、国の制度などのいろいろな改革を考えてまして。その改革をしていくのに国の収入を上げる案を考えています」


「ふ~ん」


 クラシック公爵は興味無さそうに紅茶を飲みながら相槌を打つ。


「具体的には現在慣例として侯爵以上の者は税金を納めていませんが、今回はその高位貴族からも納税をさせようと思っています」


「ふ~ん」


「その根拠はダイアモンド王国の法律書には『国民は等しく納税の義務を負う』とあるからです。高位貴族も『国民』ですから」


「ふ~ん」


 クラシック公爵は相変わらずの興味ありません状態だ。

 そこで私は話を変える。


「クラシック公爵様。公爵様は才能のある音楽家を見つけた場合はどうしてますか?」


「うん? まあ、その人物の状況にもよるけど、才能があってもまだ自立できていない音楽家には支援をすることもあるよ」


 それはいわゆるパトロンというやつね。

 思ったとおりだわ。


「なるほど。ではまだ発見されていない才能ある宝石の原石を見つける気はありませんか?」


「才能ある宝石の原石?」


 クラシック公爵の表情が明らかに変わった。

 その茶の瞳には光が宿っている。


 よし、興味を引けたわ。


「ええ。私が考えている改革の中には教育制度の改革も含まれます。今、現在は学校に通える子供たちが限られているのはご存知ですか?」


「ああ。家が貧しくて学費が払えなかったり、家の仕事を手伝うために学校に行けない子供もいると聞いている」


 やはり人脈の広い公爵だけあって世間のことに疎いわけではないようね。

 助かるわ。


「そのような子供たちが全て学校に通えるようになればその中の才能ある子供たちが今よりも多く発見できるとは思いませんか?」


「ふ~む。確かにそうかもしれないなあ」


「それにその才能ある宝石の原石たちを集めて専門的な学校を創立することもできるようになるかもしれません」


「専門的な学校? 確かにそれがあれば今まで以上の支援を若い才能ある者にできるな!」


 クラシック公爵は興奮したように話す。


 もう一押しだわ。


「公爵様の納税したお金がこの国の全ての宝石の原石たちの明日を生きる原資になるのです。どうかそのために他の高位貴族の方々も納税してもらえるように説得するのに力を貸してくれないでしょうか?」


「うむ。それは実に良いことだと思う。埋もれた宝石の原石を見つけるのも私としてもやりたいことのひとつだったからな」


「では『高位貴族の納税』に関してご協力していただけるということでよろしいですか?」


「ああ。私の友人たちにも協力してくれるように頼んでおくよ。もちろん必要なら国王様にも助言しよう」


「ありがとうございます。クラシック公爵様」


 私は頭を下げた。

 クラシック公爵に話したことは嘘ではない。

 いずれ私は教育制度の見直しもしたいと思っているのだ。


「それで私もアリサ様に聞きたいんだが先ほどの曲はどこで覚えたのだ?」


「あれは私の祖国の曲です」


「祖国?」


「はい。私は元々はこの国の生まれではありません。遠い島国の出身です」


 私の言葉にクラシック公爵は驚いたようだったがすぐに笑顔になった。


「なるほど。遠い異国の音楽か。だが音楽に国境はない。アリサ様の演奏をもう一度聴かせてくれないだろうか?」


 国境がないというより異世界はないってことかな。


「私の拙いピアノでよければ」


「ああ。アリサ様の音楽は私の心を揺さぶる。ぜひ頼む」


 私はクラシック公爵の希望を受け入れてもう一度ピアノで曲を弾いた。

 今度は別のポップスの曲だ。


「おおおおお!!! この曲も書かねばあああ!!!」


 クラシック公爵は再び部屋を飛び出して行った。


 やっぱりちょっと変わった人ね。

 でも協力してくれることになったからいいかな。


 私はレイラ夫人に別れの挨拶をしてクラシック公爵邸を後にした。



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