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第15話 馬の前に人参作戦です

 食堂では既に伯爵夫妻とクリスが席についていた。


「遅くなってすみません」


 私が謝るとワイン伯爵は笑みを向ける。


「いや、かまわないよ。よく眠れたかい?」


「はい。おかげさまで」


 日本にいた頃は通勤のため早起きしていたから今朝は睡眠時間をたっぷりと取った。

 通勤の苦痛から解放されただけで嬉しい。


 異世界ライフ万歳だわ。

 下手に勇者とかいない世界で良かったかも。

 勇者になってたらこんな清々しい朝を貴族の屋敷で朝食なんてなかったよね。


 朝食を食べ終わると村長たちが集まるまで私はクリスとリビングにいた。

 リビングには太陽光が入りクリスの銀髪がキラキラと輝いている。


 やっぱり銀髪って神秘的よねえ。

 クリスタルなんて変な名前って思ったけど意外とクリスにはお似合いの名前なのかも。


 そこで私はあることに気付く。

 日本語が大陸共通語でこの国でも日本語が使われているなら、なぜ人の名前は外国風なのだろうか。

 漢字の名前でもよくない?


「ねえ、クリス。教えて欲しいことがあるんだけど」


「何ですか?」


「あのさ、この国では大陸共通語を使っているわよね? 漢字とかあるのになんで人の名前は漢字を使わないの?」


「ああ、それは人の名前は『古代語』を使っていた時期の名残りですから」


「古代語?」


 新しいキーワードが出てきたわね。


「はい。現在はダイアモンド王国は大陸共通語を公用語にしてますがその前にはダイアモンド王国の独自の言葉を話していたのです」


「へえ、そうなんだ」


「大昔はそれでも良かったんですが人口が増えて大陸の中の国々の人が他の国に行くことも増えてそれで大陸共通語を作ったんです」


「作ったって誰が?」


「昔の偉人と呼ばれるゴッドという人物です」


 つまり神様ってことね。

 なんとなくこの世界がどうやって作られたか分かるような気がするわ。


「それでその『古代語』の影響で人物の名前は漢字じゃないのね」


「はい。そうです」


 人物の名前から考えてその古代語とやらがどんな言葉か想像できるようだわ。


 そこへワイン伯爵がリビングにやって来た。


「アリサ。村長たちが集まったよ」


「分かりました。ありがとうございます」


 私は昨日シラーとシャルドネに書いてもらった書類を手にするとワイン伯爵の案内で屋敷の会議室に向かった。

 会議室に入ると村長たちが私を見る。


 ワイン伯爵も一緒だから村長たちは頭を下げた。

 私は村長たちに椅子に座ってもらい、まず統一様式の紙を配った。


「皆さんにはいつもお仕事を頑張っていただきありがとうございます。私はワイン伯爵の娘のアリサ・ホシツキ・ロゼ・ワインです」


 私の言葉に村長たちは騒めく。


「ワイン伯爵の娘? 伯爵様にお嬢様なんていたっけ?」


「わしは初めて聞いたが……」


 そんな声が聞こえる。

 そりゃそうよね。私がワイン伯爵の娘になったのは昨日の話。

 村長たちが知らなくて当然だ。


「コホン、アリサはわけあって私の養女になったのだ。紹介が遅くなってすまなかったな」


 ワイン伯爵の言葉で騒めきは収まる。


「それで私たちに用事があるのはお嬢様ですか?」


 一人の中年の男性が発言する。


「ええ、そうです。実は皆さんに頼みたい仕事があります」


「仕事ですか?」


「はい。今回提出していただいた村の収穫物の量や売買記録などの再提出です」


「再提出?」


「領主に提出する書類はただ書けばいいというわけではありません。分かりやすい書類というモノが基本です。そこで皆様には今配った様式に合わせて数量や金額などを書いて提出してもらいたいのです」


 私の言葉に村長たちは困惑気味だ。

 まさか女性の私に書類の再提出をしろと言われるとは思っていなかったのだろう。


「でも報告は一度したんだし。この様式を使えというなら最初に言ってもらわないと」


 村長の一人が明らかに「面倒くさい」という顔をして発言する。


 フッ、その程度の苦情は想定済みよ。


「連絡が遅くなったのは私たちの落ち度です。なので今回は特別により早く正確な書類を提出した上位3名の村長には特別に功労金を出します」


「功労金?」


「はい。一番早く正確な書類を出した者には20万円、二番目と三番目の者には5万円を差し上げます」


 村長たちの顔色が変わる。

 年収100万の村長たちにとっては20万円は大金だ。


「しかし条件はあります。期間は五日後の正午までの提出で提出が遅れた者や書類の内容に不備があった場合は罰金として5万円を伯爵に支払ってください」


 村長たちは騒めきだす。

 本当はこんなやり方はやりたくないのだが今回は国王への報告期限が迫っているので仕方ない。

 これぞ「馬の前に人参作戦」よ。


「いいですか?実績報告は何より正確さが求められます。書類の見直しは必ずしてくださいね」


 私はとびきりの笑顔で村長たちを見つめる。


「時間はもう今から始まっていますよ」


 私の言葉に村長たちは慌ててワイン伯爵に帰りの挨拶をして屋敷を飛び出して行った。


 ふう、これで五日後にはまともな報告書類が集まるでしょう。 


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