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第145話 同じ誕生日です

 今日は役所の休日。

 私とクリスは約束した通りに初任給でワイン伯爵への贈り物を買いに王都へ出かけることにした。


 ブランとゼランにクリスと出かけることを話すと「一緒について行こうか?」と心配してくれたが私は「サタンがいるから大丈夫です」と断った。

 あの二人といると二人の正体がバレないかと私の方が心配になってしまうし。

 それにたまにはクリスとゆっくり話をしたい気分でもあった。


 王都に来てから慌ただしく首席総務事務官と総務副事務官として二人とも働いていたのであまりクリスとゆっくり話す時間がなかったからだ。


「ねえ、クリスは馬に乗れるの?」


 私は王都まで歩いて行くかサタンの馬に乗せてもらうか迷って隣りを歩くクリスに聞いた。

 クリスが馬に乗れないなら歩いて行くしかない。

 ブランたちは馬車を使ってもいいと言ってくれたが私用に王家の紋章入りの馬車を使うのは気が引ける。


「大丈夫ですよ。乗馬は子供の頃から得意ですから」


「へえ、そうなの。じゃあ、馬で行けるわね」


 なんかクリスは文官を目指していたから勝手に文系男子のようなイメージがあったが意外と運動能力はいいのかもしれない。


「サタン。クリスの乗る馬を借りられるかな?」


「……はい……ご用意できます……」


「じゃあ、馬小屋に行きましょう」


 私たちは王族専用の馬小屋に着いた。

 サタンはクリス用に鹿毛の馬を馬小屋から連れ出す。

 そして私とサタンが乗る栗毛の馬も小屋から出した。


 私はサタンの手を借りて馬に乗った。

 サタンもヒラリと軽い身のこなしで私の後ろに乗る。

 クリスも無事乗れたようだ。


「……では出発します……」


「よろしくね。サタン」


 サタンの馬は勢いよく走り出す。


 あれ? こんなスピード出してクリスはついて来れるかな?


 私は若干不安になって後ろの方を振り返るが、ちゃんとクリスはサタンの馬についてきている。

 王宮の門をくぐり抜けて二頭の馬は王都の中央街道に向けて走る。


 王宮と王都の街の間には少し距離があるのだ。

 王都の街の家々が見えるとサタンは馬のスピードを落とした。


「……アリサ様……どこに行かれますか?……」


「えっとね。ホシツキ市場の生活用品が売っているようなところに行ってくれる?」


「……分かりました……」


 サタンは馬をホシツキ市場へと向かわせた。

 やがて以前来たホシツキ市場に着いた。


 サタンは市場の前で馬を降りて私も馬から降ろしてくれる。

 クリスも問題なく私たちの後をついて来たようだ。


 サタンは自分の馬とクリスの馬を馬の預かり所に預けて来るからここで待っているようにと私とクリスに言って私たちから離れた。


「ねえ、クリスはお父様に何をあげるの?」


「私は財布にしようと思います。この間、父上がそろそろ財布が古くなったから新しくしようかと言ってたので。母上にはハンカチです」


 ふ~ん、クリスは財布とハンカチかあ。

 私は自分の考えていた物とクリスの贈り物が被らなかったことにホッとした。


 私が考えていたのは筆記用具だ。

 ワイン伯爵に「仕事頑張ってください」との意味も込めて決めたのだ。

 ローズ夫人には本の栞を贈ろうと思っている。


「私はお父様には筆記用具にするわ。お母様には本の栞ね」


「それはいいですね。アリサからの贈り物なら父上も母上も喜びます。それにもうすぐ父上の誕生日なので」


 え? 誕生日?

 そういえばワイン伯爵の誕生日なんて考えたことがなかったわ。


「お父様ってもうすぐ誕生日なの?」


「はい。5月3日が誕生日です」


「へえ。そうなのね。そういえばクリスの誕生日を聞いてなかったけどいつが誕生日なの?」


「私は6月10日です」


「え? マジで!?」


「どうかしましたか?」


「私の誕生日も6月10日よ」


「え? 私と同じですか?」


 そう、私の誕生日は6月10日。今度の誕生日で24歳になる。

 はあ、またひとつ歳をとるわねえ。

 いや、それよりもクリスと同じ誕生日って方が驚きよ。


「そうみたいね。クリスは13歳になるんだっけ?」


「そうです」


 この国は12歳で成人とはいえ、13歳で国の中枢で働くなんてクリスが優秀じゃなかったらできないわよね。

 それにしても私が13歳の頃は何をしていたっけ?

 そうだ。小説を読み始めて本に夢中になった頃だ。


 まさか自分がその時に読んだ小説みたいに異世界転移するなんて思わなかったな。

 しかも異世界に来ても普通に仕事をするとはね。


 まあ、唯一手放しで喜べるのはイケメンの多い世界に来たことかな。

 それだけは神様にお礼言うわ。




 それだけか。




 私がクリスと市場の入り口でサタンが来るのを待っていると誰かが私の肩にぶつかった。


 イタッ! 誰よ!


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