第141話 休暇は計画的に取りましょう
私が総務事務省でいつものごとく書類と格闘しているとジルが声をかけてきた。
「アリサ様。明日、有給休暇を一日取ってもいいでしょうか?」
「有給休暇?」
「はい。明日は所用がありまして」
「ええ。もちろんいいわよ」
「ではこの休暇申請にサインをお願いします」
ジルから休暇申請の紙を受け取りながら私は思う。
この国にもちゃんと有給休暇があるのね。
まあ、それはとてもいいことだけど、そういえば文官の休暇に関することを聞くのを忘れていたわ。
「ジル。この国では文官の有給休暇って何日あるの?」
まさか、無制限ってことはないわよね?
「一年間に15日です」
「そう。15日ね」
私の働いていた役所では一年間に有給休暇は「20日」あった。
有給休暇を取るのはもちろん個人の自由だが基本的に一般職員は「15日」、管理職は「10日」取得することを目標にされていた。
基本的に有給休暇は前日までに行う「事前申請」だが当日体調不良などで有給休暇を取ることも認められてはいる。
そして一日も休まず働いたからといって勤務評価が高くなるかというとそうではない。
効率的に仕事をこなして計画的に有給休暇も取得する者の方が評価が高い。
「計画的な有給休暇取得」が評価対象なので当日の突然の休暇申請は認められていても勤務評価的にはプラスにはならない。
あくまでも事前申請が基本なのだ。
それにしても有給休暇以外の休暇ってあるのかな?
「ジル。有給休暇以外の休暇の種類はある?」
「はい。夏休みが10日、冬休みが10日あります」
夏休みが10日に冬休みが10日あるの?
結構休みがあるのね。
私の役所では夏休みは「5日」あったが冬休みはなかった。まあ、年末年始の休みが冬休みみたいなモノではあるが。
役所には民間企業にあるような「お盆休み」はない。
その代わりにあるのが「夏休み」だ。夏休みは有給休暇とは違って7月から9月までの間に取得できる期間限定のモノだ。
基本的には夏休みは「5日連続」で取得するモノであるが職場によってはそんな連休取ってたら仕事に支障が出ることもあるので「1日」単位での取得も可能である。
取得期間は7月から9月の間とはいえ、やはりお盆時期に休む者は多い。
なぜかというと民間企業もお盆休みが多いため、その期間は急な案件を除き、役所が委託しているような仕事や工事も休みになることが多いので公務員としても比較的暇な時期なのだ。
「夏休みとかが10日もあるなんて長いわね」
「いえ。自分の実家に帰る者もいるので移動で2、3日かかる場合もありますから実質的な休みはそれほど長くないかと………」
そうだった。ここは日本じゃなかったわね。
私がワイン伯爵領に帰るなら移動の往復だけで4日も必要になるもんね。
「そういえば移動に時間がかかるの忘れてたわ」
電車ですぐに遠くまで出かけられる日本がどれだけ便利でありがたいか、この世界に来て身に染みて分かるわ。
「はい。ジル、サインしたわよ」
「ありがとうございます」
私はジルの休暇申請にサインをした。
ついでだからこの国の「祝日」についても聞いておこうかな。
さすがにゴールデンウィークとかはないだろうけど。
「ねえ、この国にはどんな祝日があるの?」
「祝日ですか?」
「ええ。役所や国民がお休みになるような祝日よ」
「それなら国王様、王妃様、ブラント王太子様及びゼラント王子様の誕生日とその前後の日はお休みです。後は建国記念日の当日と前後の日、それに新年の1月1日から3日が休みです」
なるほど。主要な王族の誕生日と建国記念日の前後を合わせた日と正月休みか。
「ちなみに国王様たちの誕生日っていつ?」
「国王様は10月11日、王妃様は12月8日、ブラント王太子様とゼラント王子様は7月7日です」
へえ、ブランとゼランは七夕に生まれたのね。
まあ、この国に七夕っていうモノはないでしょうけど。
「建国記念日は?」
「9月8日です」
「ふ~ん、そうなのね」
「でもそれらの休みの前は忙しいですよ」
「え? 何で?」
「王族の誕生日や建国記念日などには祝宴がありますのでその準備はこの総務事務省の担当です」
あ、そうか。総務事務省は他の事務省で取り扱わない仕事も担当するところだもんね。
「じゃあ、一番近いのはブラント王太子とゼラント王子の誕生日ね」
「はい。来月あたりから総務事務省内の関係部署が準備を始めます」
ブランとゼランの誕生日って何か派手そうよね。
「分かったわ。ありがとう」
「いいえ」
ジルは席に戻って行った。