第139話 似ているのには理由がありました
その日の夕食はブランとゼランと一緒に王子宮殿で食べた。
「どうだった? 昨日のお茶会の感想は?」
ブランが面白げな声で聞いてくる。
「そうですね。キャサリン様もカテリーナ様もお二人が入れ替わってることに気付かないなんて驚きました」
私は素直に感想を言う。
ここで嘘を言っても仕方ない。
「そうだろう? 彼女たちは私たち個人を愛してるわけではない。個人を愛してるなら私たちを見分けることができるはずだ」
「そうそう。あの二人が愛してるのは私たちの地位だけだ」
ブランの言葉にゼランも言葉を続ける。
確かにブランとゼランの区別がつかないのに「貴方を愛してる」と言われてもねえ。
でもブランとゼランは何で似たような髪型とかしてるのかな?
もし自分自身を見てもらいたいと思うなら服装以外でも見分ける特徴を持ってもいいはずなのに。
私は自分の実の弟たちのことを思い出す。
小さい頃は弟たちも同じ洋服を着ていて靴もお揃いだった気がする。
だけど成長してくると微妙に髪型を変えたり、服装も自分の好みの物を選ぶようになった。
双子と言ってもそれぞれ個性があるのだから、ブランやゼランのように大人になっても瓜二つの姿でいる必要はない。
「ブラン様、ゼラン様。なぜお二人は似たようなお姿をしているのですか? 見分けてもらいたいなら髪型を変えるとかしたらいかがですか?」
ブランとゼランはお互いに顔を見合わせている。
「まあ、アリサになら話してもいいかな」
「そうだね。アリサも無関係なことじゃないし」
うん? 私も無関係なことじゃない?
どういうことだろう。
ブランが手を挙げて食事の給仕をしていた者を下がらせる。
食堂にはブランとゼランと私とサタンだけになった。
何だろう? 秘密の話なのかな?
「アリサ。私たちは王族でしかも私は王太子だ」
ブランがそう言い出したので私は黙って頷く。
王位継承権の順番が同じでも現在の王太子はブランに間違いない。
「そして王太子はいずれ国王になる」
それはそうよね。国王の後継者だから王太子なんでしょ。
「国王は何があっても死ぬわけにはいかない。それは王太子も同じことだ」
「それはどういう意味ですか?」
確かに国王が死ぬような事態はこのような王政制度のある国では一大事だろう。
「ブランが国王になって、もし敵に襲われて命を落としても私がいれば国王の「ブラン」は生きてることになる」
そう言ったのはゼランだ。
私はようやく意味を理解した。
ブランが仮に死んでもゼランがブランの代わりになれば、死んだのはゼランであってブランではないと言いたいのだ。
「この王国は微妙な国同士のバランスの上に成り立っている。国王がもし他の国の者に暗殺されてそれを機にどこかの国に攻め込まれたらバランスが崩れて大陸を巻き込む争いになる可能性がある」
やはり私が思った通りのことをゼランは言った。
私は学校で習った「第一次世界大戦」の始まりについて思い出した。
あの時もある国も王太子が殺されたことで世界大戦にまでなったのだ。
国王の命は個人のモノのようで個人のモノではない。
ブランの言った「国王は何があっても死ぬわけにはいかない」という意味の重たさを感じる。
もちろんゼランが死んだことになっても大事ではあるが国王が死ぬよりは国民感情を抑えられていろんな対策を講じて戦争を回避できる可能性もできるということだ。
王族の中でも『国王』は普通であれば代わりのいない存在なのだ。
でもブランもゼランも自分たちの命よりも国を守ることを第一に考えている。
私はブランとゼランの新しい一面を見たような気がした。
周囲の人間が服装でしか判断できない理由の一つは二人がどちらか判断できないように雰囲気も仕草もクセもわざと同じようにしているからだ。
それならばその二人を見抜く私が二人にとって特別な存在と思っても仕方ないことだろう。
でもなんか切ないわね。
ブランが死んだ時のことを考えてブランもゼランも生きているというのは。
二人のこの国への想いが伝わってくる。
「理由は分かりました。でもそれに私が関係するというのはどういうことですか?」
「それは………。私たちが入れ替わった場合、妻である者にも影響があるからだ。夫が別人になるのだから」
なるほど。私がこのままもしブランを選んだとしてもブランが死んだ時にゼランが夫になるということか。
それは確かに大きな問題ね。
ゼランを選んだとしてもゼランは死んだことになるからその時にブランと結婚していた相手の夫にゼランはなることになる。
二人のどちらかを選んでも私には関係することだわ。
これはますます結婚に関しては私も慎重に考えないといけない。
王妃になって「安定した永久就職よ」なんて言ってはいられない。
今のところ平和な日々が続いているから忘れがちだったけど、ここは弱小国家と呼ばれる国。
私と結婚するかは置いておいたとしてもブランやゼランが幸せに暮らせるような国にしたい。
自分たちが死ぬことを考えないで済むような。
私は強くそう思った。