第134話 給料日です
次の日も私はせっせと仕事していた。
首席総務事務官になって思ったことは意外と首席総務事務官の決裁が必要な書類が多いなということだ。
基本的に印鑑を押すのではなく私の名前をサインしていくのだが、長時間その作業をすると手がだるくなってくる。
まったく腱鞘炎とかになったらどうしてくれるのよ。
そんな文句のひとつも出そうな書類の山だ。
「アリサ様」
「ん? どうかしたの? ジル」
「いえ、今日は給料日なのでアリサ様のお給料をお持ちしました」
「え? 給料日?」
「はい。どうぞ」
ジルは私に封筒を渡す。
私は封筒を開けて中身を見る。
中に入っていたのは小切手だ。
へえ、やっぱり小切手で給料をくれるのね。
自分の生活に自分のお金を使ってる感覚がなかったから給料を貰うのって久しぶりだわ。
ワイン伯爵家ではワイン伯爵家のお金で生活していたし、王宮に来てからの衣食住ってブランとゼランのおかげで何も自分のお金を使ってなかった。
う~ん、そう考えると私ってめっちゃ幸せじゃない。
こんなに恵まれているなんてまたなんか落とし穴とかありそうで怖いけど。
「ジル。毎月の給料日って今日なの?」
「いえ。正確には明日の15日が毎月の給料日ですが明日は役所が休日なので前倒しで今日が支給日になるんです」
なるほど。この世界も給料は基本的に前倒しなのね。
ちなみに日本で仕事をしていた時も給料は基本的に前倒しだが日本の役所の場合は土日が基本的に休みなので絶対給料は前倒しかというと違っていた。
土曜日が給料日の場合は金曜日に給料を貰うが日曜日が給料日の場合は前日の土曜日も休日なのでその場合は給料日の次の日である月曜日になる。
だが、もしその月曜日も祝日とかで休みの場合は給料日の前々日の金曜日に支給となる。
つまり給料日を基準にして休日にぶつかっていたら前日に、前日が休みなら後日に、後日も休みなら前々日に、前々日も休みなら後々日になるという順番になる。
それにしても私の初任給はいくらかしらね。
私は小切手を見る。
えっと、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん………ひゃ、110万5千円!?
マジで!? こんなに貰っていいの!?
イチゴ大福がいっぱい買えるわ!
あ、この世界にはイチゴ大福はなかったわ。
「ジル!」
「はい、何でしょうか?」
「首席総務事務官って100万以上も貰えるの?」
「ええ。それは文官でもナンバー2と言われる首席総務事務官ですからそれぐらいは当たり前ですが」
文官のナンバー2。私はその存在が自分に重く圧し掛かるのを感じた。
そうか、これが今の私の地位なんだ。
よし! この給料に恥じないように仕事頑張ろう!
でもこれで少なくても自分の自由になるお金ができたことになる。
街に出る時はこのお金を使えばいい。
それにもし余るようならどこかに寄付をするのもいいかもしれない。
あれ? でも小切手のままじゃ使えないよね。
「金行」って所に持って行ってお金にするんだったよね。
「ねえ、ジル。小切手って金行に持って行くと現金に換えられるのよね?」
「はい。そうです。この王宮には財務事務省内に金行の出張所があるので多くの文官は必要な時にそこでお金に換えます」
「出張所があるのね。でも普段は現金は金行に預けて置くの?」
「ええ。普通は自分の口座があるので金行に預けると通帳にいくら預けたかが記載されますので現金が欲しい場合はその通帳を提出して少しずつ現金にして普段は使います」
なるほど。この世界の金行も日本の銀行と同じようなモノか。
「口座振替とか口座振り込みはできないの?」
「口座ふりかえ?ふりこみ?………申し訳ありませんが意味がよく分からないのですが」
「ああ、気にしないで」
やっぱりそこまでの機能はないのね。
まあ、あれば小切手払いなんてしないわよね。
あれ? でも私って口座を持ってない。
口座を作らないといけないのか。
「ジル。私は口座を持っていないんだけど、口座って金行で作らないとよね?」
「そうですねえ。最初に口座を作るのには身分証明書があれば作れますが」
「私の場合って身分証明書ってどうすればいいの?」
「それは総務事務省で発行できるので必要であれば後でお持ちしますが」
「そう、じゃあ、お願いできる?」
「承知しました」
身分証明書が手に入ったら私の口座を作らないとね。
なんかますますここが異世界ってことを忘れそうだわ。
普通に働いて普通に給料を貰うなんて。
あ、そうだ。初任給なんだからこのお金でワイン伯爵に何か贈ろうかな。
だって初任給で親に感謝の気持ちを伝えるって大事だもん。
この世界の私の親はワイン伯爵夫妻だもんね。
私は大事に小切手を机に中に入れた。
さてお仕事お仕事っと。