第133話 財源確保は大事です
総務事務省で仕事をしているとコイン首席財務事務官が私を訪ねてきた。
あら、他の首席事務官が私の所に来るなんて初めてね。
「どうぞ、コイン様。お座りください」
「ありがとうございます。アリサ様」
私が勧めたソファにコインは座る。
いったい何の用事かな?
「コイン様。本日はどんなご用事でしょうか?」
「お忙しいところ申し訳ありません。実は国の収入のことでご相談がありましてな」
国の収入? 税金ってことかな。
「実は私なりに考えてみたのですが、こないだの『契約書の義務化』や『文官の給与改定』とかの改革をするのはとても良いことですし私も賛成なのですがこれからのことを考えるとアリサ様に知恵をお貸しいただくことができないかと」
「私の知恵ですか?」
「はい。おそらくこれからもアリサ様の改革は続くと私は思っています」
まあ、そうね。今度は『乗合馬車の運行』を考えているし。
コインにはまだ伝えてはなかったはずだけど。
「そのために収入を上げて財源を確保しておいた方がいいと思いましてな」
「財源確保ですか?」
「ええ。何事をするためにも財源は必要です。現状はまだ財源に余裕がありますが改革をすれば支出も多くなるでしょう。その時のためにも収入を上げて財源を確保しておきたいのです」
確かに、コインの言う通りね。
お金は無限にあるわけではない。
これからもどんな改革をするかは分からないが財源確保は事業にとってもっとも大事なことの一つ。
「コイン様のお話は分かりました。コイン様はどんな財源確保を考えているのですか?」
「手っ取り早いのは増税ですがそれは私個人としてはあまりやりたくない。国民は全てが裕福な暮らしをしているわけではありませんし。何か良い案がありませんか?」
う~ん、必要なら増税も考えるけど、私もなるべく国民の負担を増やすのは気が乗らない。
どうしようかな。
「コイン様。私にはすぐには思いつかないので少し考えさせていただけますか?」
「もちろんです。何か良い案が浮かんだら教えてください。私も考えておきますので」
そう言ってコインは部屋を出て行った。
そうよね、何をするにもお金はかかる。
今度は収入を上げるための改革も必要かもね。
私はダイアモンド王国の法律書を取り出し、国の収入に関わる部分を確認する。
ダイアモンド王国の法律書には『国民は等しく納税の義務を負う』と書いてある。
ふむふむ。この国にも納税の義務があるのね。
そういえばこの国は貴族がいるわよね。
ワイン伯爵は領主貴族で納税してたけど、領主貴族以外の貴族も税金って払っているのかな?
「ねえ、ジル。教えて欲しいことがあるんだけど」
「何でしょうか?アリサ様」
「この国って貴族も税金って納めているわよね?」
「はい。領主貴族以外の貴族も伯爵以下の者は税金を納めています」
ん? 伯爵以下って言った?
「それって侯爵以上は税金を納めていないの?」
「はい。基本的には侯爵以上の貴族は税金は納めません。ただし領主貴族である侯爵以上の貴族は納めてますが」
「でもダイアモンド王国の法律書には『国民は等しく納税の義務を負う』って書いてるけど」
「それはそうですが。まあ、昔からの慣例みたいなもので高位貴族は納税をしなくていいとなっています」
慣例………か。
公務員の世界にも慣例なるモノは存在する。
一概にそれが悪いとは言えないがこの「高位貴族だから納税しない」というのは悪しき慣例と言ってもいいだろう。
貴族でも国民であることに変わりはない。
ここは聖域無き改革が必要ね。
「侯爵以上の貴族が持つ財産ってどれくらいか資料はある?」
「すみません。今、手元には詳しい資料はありませんが一応高位貴族の財産がどのくらいあるかは申告するようになってますので調べれば分かると思います」
「では至急、調べてくれない?」
「分かりました」
高位貴族がお金持ちならそこから納税させるのが一番よね。
私はもう一度ダイアモンド王国の法律書を確認するが高位貴族は納税の免除をするという文章はない。
つまり高位貴族だって国民であるなら納税の義務は発生するはず。
高位貴族だからって特権を与えることはない。
法律で決まっているならまだしも「慣例」ならそれを理由に納税の義務から逃れることはできない。
悪しき慣例は排除すべきだ。
だけどこの『高位貴族の納税』に対してはおそらく多くの高位貴族が反対する可能性がある。
高位貴族はこの「身分制度」がある世界では発言力も大きいだろう。
高位貴族を黙らせる方法を考えないといけない。
それに高位貴族の財産がどのくらいあるか今は分からない。
もしそこに十分な財源を確保できるぐらいの財産があるのなら国民への増税は避けられる。
収入と支出のバランスを考えるのは当たり前のこと。
私はダイアモンド王国の予算書の収入を確認する。
そこには日本でいう「国債」に当たるようなモノは見当たらない。
つまりこの国は弱小国家ながら経済は健全で黒字経営ということだ。
「国債」というのは基本的に「借金」と変わらない。
なるべくなら「国債」などの発行で財源確保は避けたい。
借金は未来の子供たちへの大きな負担になる。
だが、たとえ現在黒字経営でもこれからいろんな改革をしていくためにはコインの言ったとおり財源確保は大事なこと。
そんなことを考えていると就業時間の終了を報せるチャイムが鳴った。
あ~あ、収入のことも考えないといけないなんていろいろやること多いな。
明後日は王妃様主催のお茶会もあるしね。