第130話 クリスの恋の相手と会いました
「特急?」
ギークが不思議そうな顔をする。
「そうよ。街道が設備されているならスピードが出せるのでしょ?だから王都とその主要な街を途中の町とかには寄らずに直接結ぶ路線を作るの」
日本でいう電車の各駅停車と特急のようなものだ。
王都に匹敵するような主要な街なら王都と主要な街を行き来する人間は多いはずだ。
そこに乗合馬車の特急があれば需要もあるだろう。
「へえ。やっぱりアリサは面白いこと考えるなあ。確かに王都と主要な街を行き来する人間は多いからそれは便利になるだろうね」
「でしょ?その他の路線は基本的に各領主貴族が治める領地内の大きな町と王都を繋ぐ路線を作るわ」
「うん。それでいいと思うよ。乗合馬車が定着すれば各領主貴族だって自分の領地内に自分たちで乗合馬車を導入する領主だって出てくるだろうし」
「そうね。ギークの言う通りだわ」
事業の始めは国が行っていても事業が軌道に乗れば「乗合馬車」を民営化してもいいだろう。
「まとめると、馬車のタイプは三つだね。王都内を走る馬車と王都と主要な街を結ぶ「特急」馬車と王都と各領地内の町を結ぶ馬車。これでいい?」
「それでかまわないわ。ギーク」
「じゃあ、馬の種類には希望がある?」
「馬の種類?」
「そりゃあ、どんな馬を使うかで馬力が変わって来るからね。二頭立ての馬車と六頭立ての馬車ではスピードも変わるし」
そういえばそうか。馬車を引く馬も重要よね。
「じゃあ、馬の選定はギークとキャリジに任せるけど、特急はスピード重視でお願いするわ」
「了解」
「それで必要な費用の試算はできる?」
「ああ。数日待ってくれればできるよ」
「分かったわ。じゃあ、お願いするわ」
私はそう言ってオタク事務省のある東中央宮殿から中央宮殿に戻る。
就業時間の終わりは近い。
今日はここまでね。
次は経済事務省に行って乗合馬車を委託できるような商会があるか聞いてみようっと。
私が総務事務省に帰るとちょうど就業時間の終わりを報せる音が聞こえる。
「クリス。一緒に帰りましょう」
私は帰り支度をしてクリスに声をかける。
クリスが住んでいる場所はホシツキ宮殿に近いから帰る方向は一緒だ。
「はい。では帰りましょうか」
私とクリスが総務事務省を後にして自分の部屋の方向に向かっていると一人の少女と出会う。
少女は使用人の姿をしていたから私は気にも留めなかったがクリスが少女を見て嬉しそうな顔をする。
「デリア! 今日はもう掃除が終わったのかい?」
「はい。クリスタル様」
デリア?クリスの知り合い?
「クリス。この方はどなた?」
「あ、アリサは初めてでしたね。彼女は僕の部屋の掃除をしてくれる人です」
掃除をしてくれる人?
あ、もしかしてクリスの好きな人ってこの子なのかな。
「初めてお目にかかります。首席総務事務官様。私はシャンデリア・クレイと申します。デリアと呼んでいただけると嬉しいです」
シャンデリア……。
クリスにはお似合いの彼女ね。
名前だけを考えれば。
「デリアね。私はクリスの姉のアリサ・ホシツキ・ロゼ・ワインよ。アリサと呼んでいいわよ」
「分かりました。アリサ様」
シャンデリアは美しい金髪をしている。
クリスと並んだらけっこう華やかになるわ。
「それじゃあ、アリサ。私はこちらの道なので」
「そうね。じゃあ、また明日ね。クリス」
そこでクリスと私は別れる。
クリスはデリアと一緒に何か話をしているが私はサッサと二人から離れる。
クリスの恋を邪魔したくないもんね。
今度、時間ある時にデリアとも話してみたいもんだわ。