第126話 議題は文官の給与改定です
「次の議題は『文官の給与改定』です。首席総務事務官様、説明をお願いします」
進行役の文官の言葉に私は次の文官の給与改定について説明する。
「今回提案したのは『残業代』の新設です。今の現状は残業しても文官は基本給しか貰えません。残業というのは肉体的にも疲労しますし、家族と過ごす時間も削られます。なのでその対価を支払うべきです」
「そんなことをしたら人件費が膨らむではないか。そんなお金はない」
今度は早々にハウゼン宰相が攻撃してくる。
余程さっきの契約書の義務化の案件を潰せなかったのが悔しいのだろう。
「では人件費についての説明は首席財務事務官のコイン様にお願いしたいと思います」
私がコインに話を振るとコインは僅かに私を見て頷く。
「え~、残業代の人件費については総務事務省より素案をいただきまして財務事務省で検討しました。その結果、残業代の単価を基本給の100分の110にすることにより充分に対応は可能と判断します」
コインは残業代によって増える人件費の見込みの資料を皆に配る。
「なお、軍隊事務省に関しては軍人の勤務体制の特殊性から「残業代」ではなく残業代相当分の「残業手当」として一定額を支給します。それでかまいませんかな、サーベル殿」
今度はコインからサーベルに確認の言葉が出る。
「軍隊事務省としてはコイン殿の案で問題ありません」
サーベルは簡潔に答える。
「では外交出張時については「残業代」は支払わずに出張旅費で賄うということにしましたがプレーン殿のご意見は?」
「外交事務省としてもそれで問題ありません」
コインの問いにプレーンも答える。
「以上のことを踏まえて算出した人件費がこの金額です。宰相様」
そう言ってコインの発言は終わった。
「ありがとうございました。コイン様。いかがでしょうか?宰相様」
私の言葉にハウゼン宰相は黙って私を睨みつける。
睨んだって結果は変わらないんだからね。
財務事務省が試算して大丈夫ってお墨付き貰ったんだから、まさか反対はできないわよね?
「人件費の支出が可能なのは分かった。この『文官の給与改定』についても同意する」
やった!勝ったわ!
「では今回の『契約書の義務化』及び『文官の給与改定』については首席会議として決定してもよろしいでしょうか。反対の方はいらっしゃいますか?」
進行役の文官が確認するが反対意見は出ない。
「では今回の議案は首席会議として承認いたします」
首席会議が終わると宰相はさっさと会議室を出て行く。
「皆様。ご協力ありがとうございました」
私はまだ会議室に残っている首席事務官たちに頭を下げる。
「いやいや、アリサ様の実力ですよ。あんな宰相の苦々しい顔を見れるなんて思わず笑いそうになってしまいましたよ」
コインが面白そうな顔をする。
「マジであのオッサン。いつもムカついてたから今日は気分良かったよ。アリサ」
ギークは首席事務官とは思えないような口調で話す。
「しかし、今後も楽しみですなあ。アリサ様が次にどのような改革を行うか経済事務省としても興味があります」
ノースもそう言って笑った。
「ありがとうございます。今後も皆様のお力をお貸しください」
「もちろんですよ。それに首席会議は議題を承認しましたが最終的には国王様の許可が必要ですからまだ安心はできませんよ」
ノースの言葉に私は気を引き締める。
そうだった。最後に国王様を納得させる必要があるのよね。
もうひと踏ん張りだわ。