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第125話 議題は契約書の義務化です

 首席会議当日。

 私は首席会議の行われる会議室にジルと向かう。


 ジルの話では首席会議には宰相と各首席事務官と各首席事務官の補佐として各事務省の事務官が一人同席するのが普通らしい。

 だが会議で発言が許されているのは宰相と各首席事務官だけとのことだ。


 私は緊張しながら会議室に入ると先に各首席事務官が既に来ていて席に着いていた。

 どうやら宰相以外は揃っているようだ。

 私は自分の名前のプレートがある席に座る。


 今回の議題である『契約書の義務化』についてと『文官の給与改定』についての最終案は昨日の夕方に各首席事務官と宰相あてに渡してある。

 やがて定刻ギリギリに宰相がやって来た。


 どうやら首席会議まで無視することはしないみたいね。


 だがハウゼン宰相は不機嫌そうな表情を隠そうともしない。

 ハウゼン宰相が席に着くと首席会議が始まった。


「今回の会議の議題は総務事務省より提出された議案の『契約書の義務化』と『文官の給与改定』についてです」


 どうやら進行役は宰相についてきた文官のようだ。


「ではまず『契約書の義務化』について首席総務事務官様、説明をお願いします」


 私は資料を片手に話し出す。


「はい。まずは現状について話しますと現状では国や商会、商会同士及び商人の取引に関して契約書が交わされておらず、口約束だけで取引が行われています。これではどちらかが約束を破った場合に明確にどちらが約束違反なのかを示すものがありません」


 私はハウゼン宰相の出方を伺いながら説明を続ける。


「なのでトラブルを回避して責任をハッキリさせるために契約書の義務化を提案します。具体的には取引をする時に決めておく事項を予め国として『標準契約書』を作っておき、その契約書を元に個別の案件の内容を記載するということになります」


 私は資料につけてある『標準契約書』の具体例を書いた部分を皆に見せる。


「資料の3ページに『標準契約書』の具体例が書いてありますのでご確認ください」


 ハウゼン宰相は資料を見る気もないらしく資料には手を出さない。


 そっちがその気ならこっちだって手加減しないわよ。


「そしてもう一つの契約書は『雇用契約書』です。これは主に雇い主と使用人との間で結ばれるものでこの『雇用契約書』により不当な理由で使用人に給料が払われなかったり解雇されたりすることを防ぎます」


 私は淡々と説明を続ける。


「以上の理由から『契約書の義務化』が必要であると思い総務事務省として提案させていただきました」


 さあ、ハウゼン宰相はどうでるかしら。


「アリサ殿。貴女の言い分は分かったが何も個人レベルで契約書を作る必要はないのではないか?トラブルがあったと言ってもたいした件数ではないだろう」


 ハウゼン宰相は自分の持ってきた資料を見ながら発言する。


「仲裁人が一年の間に仲裁した契約違反はわずか10件ほどだ。たいしたトラブルは起こっていない」


 なるほど、そう来たか。

 でも残念ね。その質問は想定済みよ。


「それは今まで仲裁人が仲裁したのは契約書があった場合に限られているからその件数なのです」


「なんだと?」


「今までは契約書を交わすには国同士及び領主貴族同士などに限られていました。なので契約書を元に仲裁をする件数が少ないのは当たり前です。多くの民は相手側との取引で約束違反をされてもそれを証明できなかったに過ぎません」


「では民同士のトラブルはもっと多かったということか?」


 ハウゼン宰相はムッとした顔をしながら私に言う。


「その通りです。それは『雇用契約書』も同じです。雇用契約書という明確な証拠が無かったために多くの民が泣き寝入りするしかなかったのが現状です。そのことは国として放っておくわけにはいきません」


「その意見には私も賛成です。実際に商会や個人のトラブルが多いことは経済事務省としても把握しています」


 私の意見の後に首席経済事務官のノースが発言する。


「ここに経済事務省が把握した一年間のトラブルの件数がありますがおよそ千件以上になります」


「なに? それは本当か、ノース殿」


 宰相の言葉にノースは取引に関するトラブルの件数を案件ごとに集計した資料を皆に配る。


「ここにもありますように、商会同士や商人同士のトラブルだけで約600件。雇用主と使用人同士のトラブルが約800件。ですがこれはあくまで経済事務省に届けられた案件の数なので実際はもっと多いはずです」


「今までそんなことは言ったことはなかったじゃないか。ノース殿」


 ハウゼン宰相は怒気を含んだ声で言うがノースは平然としている。


「この件に関しては以前から前首席総務事務官には相談してましたが前首席総務事務官は「特に問題ない」の一言で終わらせていましたなあ」


 ノースの言葉にハウゼン宰相は明らかに動揺する。

 それはそうだろう。前首席総務事務官は宰相の弟だったのだから。

 ノースは前首席総務事務官が案件を握りつぶしたのだと言ったも同然だ。


 ナイスアシストだわ。ノース。


「それも契約書が義務化されればトラブルの案件も減ると思いますが、宰相様はそうは思いませんか?」


 私はハウゼン宰相にここぞと攻撃をする。


「……アリサ殿やノース殿の意見は分かった。契約書が義務化については賛成する」


 ハウゼン宰相は苦々しい顔で言葉を発する。


「それとおそらくはこれから仲裁人も増やした方が良いと思います。契約書違反の案件が増えることは確実だと思うので」


「今、トラブルの案件が減るって言ってたではないか。アリサ殿」


「いえ、先ほども話した通りに今までは契約書を交わす案件自体が限られていたから少ない件数だったので全ての取引に契約書を作ることになったら母数が増える分仲裁人が仲裁する案件が増えるのは当然ですわ」


 私はにっこりと笑みを浮かべた。


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