第120話 この変装で大丈夫でしょうか
首席総務事務官になってから初めての休日。
私は朝早くに目覚めた。
今日はブランとゼランが王都の街に連れて行ってくれる約束だ。
私は初めて見る王都にわくわくしていた。
セーラには予め街で目立たないような町娘が着る服を用意してもらっていた。
私はルンルン気分で町娘の服に着替えて部屋の外に出る。
そこにはいつも通りサタンがいたのだが私は思わずサタンを見て固まる。
サタンは既に街へ出るための変装をしていて、銀髪は茶色のカツラを被ってサングラスをしていた。
この世界にもサングラスがあるの!?
だが、サタンがサングラスをかけてもサタンが醸し出すオーラは変わらない。
つまりサタンの恐ろしさが倍増した感じ。
日本で言えばヤ―さん的な。
これは子供とか見たら泣くんじゃないかな?
「サタン。おはよう。もう準備していたのね」
「……はい……」
「ちょっとそのサングラスは怖くない?」
「……そうですか?……」
「子供とか見たら泣きだしそうな感じよ」
「……子供には……近づかないようにします……」
そうね。その方がいいと思うわ。
子供のトラウマとかになったら困るし。
「サタン。ブランとゼランとの約束の場所は馬小屋の前だからそこまで行くわよ」
「……はい……ご案内します……」
私とサタンは王宮ダンジョンの複雑怪奇な道を通り正面玄関近くにある馬小屋までやって来た。
ここの王族専用の馬小屋の前で会う約束になっている。
私がそこに着くとブランとゼランがやって来た。
ブランもゼランも変装している。
長い金髪は銀髪のカツラの中にうまく隠してブランもゼランも黒いマスクをしている。
う~ん、マスクで顔が半分隠れているから王太子と王子ってことは気付かないかもね。
でも金髪が銀髪になるだけでだいぶ雰囲気が変わるわね。
「おはようございます。ブラン様、ゼラン様」
「おはよう。アリサ」
「おはよう。晴れて良かったね」
二人ともにこやかに返事をする。
ダメだわ。変装しても超絶イケメンオーラは隠せてないわ。
こんな変装で大丈夫かなあ。
ブランとゼランはそれぞれ自分の馬を出して来る。
ブランは白馬でゼランは黒馬だ。
そして二人の間に漂うただならぬ気配。
なに? どうかしたの!?
「じゃんけんぽん!」
ブランがチョキでゼランがグーでゼランの勝ち。
「よし! 私がアリサを馬に乗せるぞ!」
「くそ! 負けたか!」
喜ぶゼランに悔しがるブラン。
あ~、はいはい。私をどちらの馬に乗せるか勝負したのね。
ゼランが勝ったってことは私はゼランの黒馬に乗るのね。
ちなみに護衛のサタンは栗毛の馬だ。
「ところでお二人のことは何か偽名で呼んだ方がいいですか?」
私はブランに尋ねる。
ブランとゼランって愛称で呼んでるけど勘のいい人はその名前で気づく可能性があるもんね。
しかしブランは首を横に振る。
「いや、ブランとゼランでかまわない。王都では私たちぐらいの年齢の者は愛称がブランやゼランと呼ばれる者が多いから」
「そうなんですか?」
「ああ。王族が生まれるとその名前にあやかりたいと同時期に生まれた子供に同じような名前を付けることが多いんだ」
なるほど。どこの世界も似たようなものなのね。
「よし。アリサ、私の馬に乗せてあげよう」
私はゼランの手を借りて黒馬に乗る。
「まずはどこへ行くんですか?」
「最初は街の市場に行こうと思ってさ」
私の問いにゼランが答える。
市場か……。確かに市場を見ればこの王都やこの国の経済状況が分かるかもしれない。
それはぜひ見ておきたいわね。
「実はアリサがワイン伯爵領で市場を集めて中央市場を作ったと手紙に書いてあったから王都の市場も一つに集めてみたんだ」
「え? そうなんですか?」
「うん。なかなか評判もいいからぜひアリサに見せたくてね。市場の名前は『ホシツキ市場』って言うんだ」
だからさあ。私の名前を勝手につけないでよ!
私たちは王宮を出発した。