第118話 私は伝説の女性らしいです
その日の夕食はブランとゼランに呼ばれて一緒に食べることになった。
「アリサ。仕事の方は順調かい?」
「はい。ブラン様。おかげさまで他の首席事務官の方とも協力してますし」
問題は話も聞いてくれない宰相だけどね。
「そういえばお二人の元婚約者様に会いましたよ」
私が何気なく言うとブランもゼランも食事していた手が止まる。
「二人は何か言ってたかい?アリサ」
「いえ、ゼラン様。キャサリン様もカテリーナ様も挨拶をしただけですわ」
まあ、あれを挨拶と言うのかは怪しいけどさ。
「それにしてもキャサリン様もカテリーナ様もとても美人でしたけど何であの二人と結婚しなかったんですか?」
キャサリンもカテリーナも強気な性格とはいえ外見はとてもスタイルいいし美人だった。
ブランもゼランも一度は婚約していたんだから私が現れなかったらいずれは二人と結婚するつもりだったはずだ。
「そんなのアリサに出会えたからに決まってるじゃないか」
「ゼランの言う通り。アリサの方が美人だ」
う~ん、私の方が美人ってところが納得いかないよねえ。
「でもブラン様もゼラン様も一度はキャサリン様やカテリーナ様と婚約していたんでしょう?それに王族は複数婚が認められてますし。婚約破棄までしなくても良かったのでは?」
そう、別にブランやゼランは複数の人間と婚姻できる。
つまりキャサリンやカテリーナと結婚しても私とも結婚できたはずなのだ。
「アリサは私たちが他に妻を持っていても私たちと結婚してくれたかい?」
「それは……」
ブランの言葉に私は言葉が詰まる。
たぶんブランやゼランが結婚していたら今まで以上に二人を拒否したでしょうね。
やっぱり自分だけを愛してくれる男性と結婚したいし。
「たぶん、そしたらお二人との結婚は考えなかったと思います……」
私は正直に話した。
ここで嘘をついても仕方ない。
ブランもゼランも満足気な顔になる。
「それに私たちはずっと『ブラックダイアモンド伝説』の女性を探していたんだ」
ゼランの言葉に私は眉をひそめる。
『ブラックダイアモンド伝説』?
何ですか、それ?
「ブラックダイアモンド伝説の女性って何ですか?」
「この国にはね。古くから王家の伝わる伝説がいくつかある。その中のひとつがブラックダイアモンド伝説だ」
この国の王家に伝わる伝説ですか。
「このダイアモンド王国が現在三大国に囲まれている非常に危機的な状況である国なのはアリサも知ってるだろう?」
「はい。この国の微妙な立場は理解してます」
私はゼランの言葉に頷く。
「ブラックダイアモンド伝説では『ダイアモンド王国が危機に瀕した時にブラックダイアモンドの女性が現れダイアモンド王国は世界に輝くであろう』って言われてるんだ」
「私たちはワイン伯爵家でアリサを見つけた時にアリサこそ伝説のブラックダイアモンドの女性だと感じたんだ」
「……」
それって私が黒髪に黒い瞳だからってことかな。
まあ、ブランやゼランが普通のダイアモンドなら私は見た目にはブラックダイアモンドかもしれないけど。
「それは私が黒髪に黒い瞳でこの国では珍しいからですか?」
「いいや! それだけじゃない。アリサと文通したり交流したりしてワイン伯爵領を豊かにした手腕を見てアリサはこのダイアモンド王国に必要な女性だと確信したからだ」
ゼランが力説する。
はあ、そうですか。
ワイン伯爵領の改革を行ったのは元公務員として放っておけなかったのとワイン伯爵への恩返しのつもりだったんだけどね。
でも見た目だけで私を選んだわけじゃなく私の能力を見てくれていたなんて思わなかったわ。
だって出逢って5分でブランもゼランも私に求婚してきたからさ。
「そうですか。私の外見だけじゃなく能力も見てくれたことは嬉しいです」
私は二人にお礼を言う。
自分の仕事の成果を認めてもらえるのは素直に嬉しい。
「それにアリサはキャサリンやカテリーナが美人だって言うが彼女たちのどこが美人なんだ?」
「え? ブラン様は彼女たちを美人だと思わないんですか?」
「ああ。あれぐらいの容姿の者は周囲にいくらでもいるし。なあ? ゼラン」
「そうだな。あの二人の容姿は悪くはないと思うがその辺にいくらでもいるからな」
ああ。そうね。
確かにこの国で出会った人たちはそれなりにイケメンや美女が多かった気がするわ。
どんなご馳走も毎日食べれば飽きるって感覚と一緒ね。
だから私みたいな毛色の変わった女性が美人に見えるのかもね。