第108話 悪魔は羽があるみたいです
その後、ロッドは『契約書の義務化』と『文官の給与改定』について同意してくれた。
「残業代を出すのは賛成ですよ。働く意欲が出ますからね」
ロッドはそう言ってくれた。
私が首席教文事務官室を出ると外が夕方になっている。
そろそろ就業時間が終わる。
く! まったくこの中央宮殿はデカすぎるのよ!
他の首席事務官に会うのにこんなに時間がかかるなんて!
「中央宮殿」と一言で呼ばれているものの建物は三階建てで各事務省は独立しており各事務省の受付は一階にあるためそこを通過して中に入るのが普通だ。
そして各首席事務官室は三階にある。
おかげで他の事務省に行く度に一階の受付を通ったら三階まで階段で上がらなければならない。
「まったくもっと簡単に他の首席事務官に会いに行ける近道はないかしら?ねえ、サタンもそう思わない?」
私は仕事中もずっと自分の護衛をしているサタンについ愚痴を言ってしまう。
「……もっと近道ですか……ここから飛び降りれば早いですが……」
は?ここから飛び降りる?
ここって三階よ。
「サタン。ここは三階よ。飛び降りるなんてできないわよ」
「いえ……このぐらいの高さであれば……問題ありません……」
「はあ!?」
サタンの顔は無表情で冗談を言ってるのか分からない。
本気で今の言葉言ったの?
まさか冗談よね?
「サタンはこの三階から飛び降りられるの?」
「……はい……アリサ様は無理ですか?……」
「普通の人間は無理ね……」
サタンは冗談ではなかったようだ。
普通の人間が三階から飛び降りたら怪我するわよ!
サタンは悪魔だから羽でも持ってるのかしら。
「とにかく総務事務省に戻るわ」
「……はい……」
私はサタンと総務事務省に戻る。
するとクリスとジルが待っていた。
「今、戻ったわ」
「お疲れ様です。アリサ。お疲れのところ申し訳ありませんが先ほど王妃様の侍女から連絡があって今夜の夕食を共にしたいとの伝言です」
「王妃様が?」
「はい。そうです」
王妃様かあ。
あの母親モンスターに今度はどんな攻撃をされるのかしら。
でも私に断れるわけはない。
「分かったわ。もう就業時間も終わりでしょ?ホシツキ宮殿に帰って準備するわ」
「分かりました」
私は急いでホシツキ宮殿に戻りセーラの用意してくれた薄いグリーン色のドレスに着替える。
私がいつも着るドレスより若干装飾も多い。
セーラも王妃との夕食を意識してドレスを用意してくれたのだろう。
さあ、いざ出陣よ!