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第107話 教育は可能性を広げます

 財務事務省を後にして次に訪れたのは教育文化事務省だった。

 担当の事務官に首席教文事務官に会いたい旨を伝えて私は首席教文事務官室に案内された。


 部屋に入ると事務机に何やら図面を広げて見ている男性がいた。

 男性は40代半ばの茶髪に茶の瞳で難しい顔をしている。


 あら、お取込み中だったかしら。


 男性は私に気付くと図面をクルクルと丸めてしまった。


「こんにちは。首席総務事務官のアリサ・ホシツキ・ロゼ・ワインです。お話があって来ましたがお取込み中でしたでしょうか?」


 私がそう言うと茶髪の男性はニコリと笑う。


「いえ、たいしたことではありません。私はロッド・ティーチャーです。首席教文事務官をやっています」


 ロッド・ティーチャーね。

 教育文化事務省のトップはこの人か。


「どうぞ。お座りください。アリサ首席総務事務官殿」


「私のことは普段はアリサとお呼びください」


「そうですか。ではアリサ様も私のことはロッドとお呼びください」


「ありがとうございます。ロッド様」


 私は空いている事務机の椅子に座る。

 ロッドも椅子に座った。


「それで私に御用とは?」


「はい。今度の首席会議で決める『契約書の義務化』と『文官の給与改定』についての事前説明です」


「なるほど。そうでしたか」


 私はロッドに資料を渡して説明する。


「契約書の義務化に関しては教育文化事務省の影響が大きいのは学校の先生たちとの雇用契約書を結ぶことかと思います」


「学校の先生たちと一人ひとり雇用契約書を結ばないといけなくなるということですね?」


「はい。そうです。私はこの国の教育制度についてあまり詳しくないのですが学校の先生というのは人数は多いですか?」


「そうですねえ。各学校によって人数は違いますがそれなりの人数にはなりますよ。でも学校の先生はあまり人気な職業ではありませんがね」


 学校の先生が人気ない?

 何か理由があるのかしら。


「なぜ先生が人気ないんですか?」


「たぶん仕事量に対して賃金が安いのが原因の一つですね。何しろ貴族の子息の家庭教師の方がお金にはなりますから」


 私は以前クリスからもそのようなことを聞いたことを思い出した。


「なるほど。学校の先生の賃金が安いのには何か理由があるんですか?」


「学校の先生の賃金は通ってくる生徒たちの授業料で半分を賄っているのです。残りの半分を国から出しています。田舎になれば生徒数も少なくなり先生の賃金も減るということになります」


「なぜ全額国から出せないのですか?」


「それは明確に学校の先生が国が雇っている文官扱いになっていないからです。場所によっては農民だけどその村で頭が良いという理由で先生をやっている者もいるので文官扱いにならないのです」


 へえ、学校の先生は完全に公務員という訳ではないのね。

 非常勤講師のような感じかしら。

 でもそれではますます学校の先生の確保は大事よね。

 私は将来的には義務教育の制度を導入したいと思っている。


 子供は国の未来を背負う宝石の原石だ。

 教育を誰でも受けられるようにすれば未来の有能な人材確保に繋がる。


 この国では「教員免許」なるものは無いのだろうか?


「ロッド様。不勉強で申し訳ありませんがこの国では学校の先生になるために何か資格が必要ですか?」


「いいえ。特にそういう定めはありませんが子供に必要な学問を教えるので普通は大学を出た者が優先採用されます」


 この国にも大学があるのね。

 それは良いことを聞いたわ。


「しかし大学まで卒業する者はそれほど多くはありません。なのでその町や村で知識のある者が代わりに先生になるのが現状です」


 う~ん、まずはこの国バージョンの「教員免許」が必要ね。

 その教員免許を持った者を文官と同じ扱いにすれば国が給与を全額負担する理由になるわ。


 でもその改革はすぐにはできないわね。

 とりあえず当面は雇用契約書で好条件で先生を雇って人材確保するか。


「だいたいの仕組みは分かりましたわ。雇用契約書でなるべく家庭教師より好条件で契約することは可能でしょうか?」


「そうですねえ。賃金などを見直しすればそれなりに人材確保はできると思いますがそれは教育文化事務省の予算内でできるかは検討してみないと分かりません」


「分かりました。では検討してください。ロッド様はこの国の教育について率直にどう思ってますか?」


「率直にですか……」


 ロッドは考えていたがやがて口を開く。


「教育を受けられない子供も多いことは事実と受け止めています。できれば私は多くの子供たちに夢を持ってもらいたいですな」


「夢ですか?」


「農民の子供だから農民になるというのは少し違う気がするのです。教育はその人間の可能性を広げてくれるものだと私は思っています」


 ロッドの顔は真剣な顔だった。


 この人も今の教育制度に疑問を持っているのだわ。

 教育に熱い想いを持ってる人が首席事務官なら期待できるわ。

 この人となら教育改革も実現できそうね!


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