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第106話 一度に全てとは言いません

「もうひとつは文官の給与改定です」


 私はコインに給与改定の資料を見せる。


「文官の給与が足りないと?」


「いえ、基本給については変更ありません。今回は『残業代』と『家族手当』の新設です」


「残業代と家族手当ですか?」


「はい。まず残業代は勤務時間外に仕事をしたらその時間に応じて貰うお金です」


「ほお。残業する時にお金が貰えるということですか?」


「はい。そうです。今は勤務時間外に仕事をしても残業代は貰えません。事務官たちは勤務時間外で仕事をするとそれだけ体も疲労しますし自分自身の時間を仕事に取られることになります」


「それはそうですな」


 コインは目を細めて私を見つめる。


「なので事務官に残業した時にそれに伴う対価を支払うのが今回の提案です」


「なるほど。理由は分かります。ですが全ての文官に残業代を支払うとなるとかなりの人件費がプラスされますな」


 私は資料にあるページをコインに見せる。


「ここに私たちが算出した残業代にかかる費用が書いてあります。基本給の100分の115の単価に平均的な残業時間をかけて文官の人数をかけたものです」


「ふむ。やはり相当な金額ですな。これはすぐに導入できるかお約束はできませんな」


「はい。人件費は一番お金がかかることは分かっています。なのでこの100分の115という単価をもう少し下げてもかまいませんが残業代自身は支払ってもらいたいのです」


 サービス残業なんて認められない。

 一時間当たりの金額は譲歩できても全く残業代が支払われないのは避けたい。

 ここは私としても譲れない部分だ。


「分かりました。アリサ様の言うことはもっともなご意見です。ですが残業代の単価については財務事務省としてもう一度算出してみましょう。いくらまでなら今の予算で出せるか検討します」


「ありがとうございます。コイン様」


 私はコインに頭を下げる。


「いや、これは私個人の心情的にも導入したいモノですから」


 コインはにこやかに笑う。


「最後は家族手当でしたかな?」


「はい。文官の9割は既婚者で子育てにはお金がかかります。文官には貴族出身も多いですがそれ以外の者も多いはずです」


「確かにそうですな。子育てにはお金がかかるか……」


 コインはちょっと難しそうな顔をする。


「具体的には配偶者がいる者にはいくら、子供ひとり当たりいくらという金額になります。どうでしょうか?」


「そうですねえ。率直に言わせてもらえばその家族手当についての導入はもう少し時間をいただきたいところですな。先ほどの残業代の件で人件費が膨らむのは確実ですし」


 そうね。将来的には家族手当も支払ってもらいたいけど、一度にあれもこれもというわけにはいかない。

 国のお金だって限りがあるのだから。


「分かりました。今回の給与改定では家族手当については削りますわ。でも検討事項にはしていただけますか?」


「それはもちろんです。こちらでも実現に向けて前向きに検討します」


「ありがとうございます」


 ここら辺が財務事務省との落としどころだろう。

 私だって全ての要求が通るとは思っていない。

 まずは残業代に同意してくれただけでも成果はあったわ。


「それと今回の提案には敢えて書かなかったんですが文官たちの馬番の使用費用を無料にすることは可能ですか?」


「馬番の使用費用ですか。それならアリサ様の権限でできるはずですよ」


「え? 私のですか?」


「はい。王宮内の管理は総務事務省の担当ですから管理費用内で支出できるのであればわざわざ首席会議にかける必要はないはずです」


 そうか、王宮内の管理は総務事務省がやっているのね。

 それなら後でジルに相談してみよう。


「すみません、コイン様。自分の権限の範囲も知らない未熟者で……」


「ハハ、かまいませんよ。アリサ様が異国の出身だということは承知してますので何かあったら相談してください」


 コインは私を優しい瞳で見る。

 この人って厳しいところもあるけど根は優しい人なのね。


 私は昔お世話になった主任の顔を思い出した。

 どこの世界でも私を助けてくれる人がいる。

 私は心が温まるように感じた。


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