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第105話 支払い期日は大切です

 二日後。なんとか契約書の素案と給与の改善の素案が出来上がった。


「ジル。まずは首席財務事務官に会いに行きたいんだけど」


「分かりました。ご案内します」


 ジルがそう言って私を財務事務省に連れて行ってくれた。

 財務事務省の事務官に首席財務事務官に会いたいというと部屋に通してくれる。


「首席財務事務官様。首席総務事務官様がお見えになりました」


「どうぞ。お入りください」


 扉の中から入室許可の言葉が聞こえる。

 私は部屋の中に入った。


 執務机に一人の男性が座っていた。

 年齢は40歳前後で金髪に青い瞳の男性だ。


 この人が首席財務事務官か。

 落ち着いた感じの人ね。


「どうぞ、こちらへ。お座りください」


 男性は執務室にあるソファに私を案内する。

 私がソファに座ると男性も私の向かい側に座る。


「初めまして。この度、首席総務事務官になりましたアリサ・ホシツキ・ロゼ・ワインです。どうぞアリサと呼んでください」


「これはご丁寧な挨拶ありがとうございます。私は首席財務事務官のコイン・シュラッドと申します。どうぞ私のこともコインと呼んでください」


 コインかあ。まあ、首席財務事務官にはお似合いの名前ね。

 段々、この世界の神様もネーミングセンスが無いと言うより面倒になって適当に名前を付け始めたわね。




 申し訳ございません。




 まあ、分かりやすいし許してあげるわ。


「コイン様。さっそくで申し訳ないんですが今度の「首席会議」で『契約書の義務化』と『文官の給与改定』について提案したいので事前説明に参りました」


「ほお、契約書の義務化と文官の給与改定ですか」


 私はコインに資料を渡す。


「まずは契約書の義務化ですが、これはこの国では国民の大半が口約束で働いたり取引を行ったりしているのでトラブルを避けるために必要なことだと思って提案します」


 コインは資料を見ながら私の説明を聞いてくれる。


「なるほど、契約書で決めておけばどちらに非があるか明確にできますな」


「はい。特に財務事務省に関するところは支払い期日に関する条項です」


「支払い期日?」


「はい。今回作成する標準契約書には『履行確認が終わったら請求書を提出し請求月日から工事は40日以内、委託や物品購入に関しては30日以内に代金を支払う』という条項が一番影響があるかと」


「確かに今は請求書が来てから支払いの事務をしますが何日以内に支払うとは決まってませんな」


 コインは私を見つめながら答える。


「この条項はなぜ必要なのですかな?私どもが支払いをしないということはありませんが」


「もちろん、財務事務省が約束した支払いをしないということはないでしょうがこれは仕事をしてくれた商会や商人を守るための条項です」


「商会や商人を守る?」


 コインは困惑した表情になる。


「コイン様。商会や商人は仕事を終えた後に代金をいつ貰えるかでその商会の運営や商人の次の仕入れなどに影響をもたらすからです」


「ふむ。つまりいつまでにお金が手に入ると分かっていればそれを計算に入れて次の商売ができるということですか?」


「そうです。特に国が発注するような工事や物品購入は商人たちにとっては大きな金額になるでしょうし。違いますか?」


 私がそう言うとコインは考えるように腕を組んだ。


「確かにアリサ様の言う通りですな。我々が扱う金額は国民同士が売買するような金額ではありませんからな」


「そこで商会や商人に迅速に支払うことができるように請求書の日にちから計算して支払い期日を決めるのです。これを守らなかったら国が責任を負うことになります」


 これは日本の法律でも決まっていることだ。

 この法律ができる前は担当する職員の怠慢で支払い事務が遅れて会社側が泣くということが実際にあったため作られたのだ。


「ひとつ質問してもよろしいかな?」


「はい。何でしょうか?」


「支払い期日を決めるのは分かりましたがなぜ工事だけ他の支払いより10日間長い期日なのかな?」


「それは物品の購入などの確認資料より工事案件の方が専門的でより多くの書類を確認してから支払う必要があるためです。書類を多く確認するには日数が必要なのでは?」


 私がそう言うとコインはニヤリと笑う。


「よくご存知ですね。アリサ様が異国の文官出身という話は聞いてましたがちゃんと支払い事務のことを分かっていらっしゃる」


 まあね。一時期経理部署にいたからね。


「なるほど。この件については同意しましょう。確かに支払い期日を決めた方が事務官の怠慢で支払い事務が遅くなることも防止できるでしょうし」


 このコインって人はさすが首席事務官だけあるわね。

 この法律の本当の理由のひとつを見抜くとは。

 だけどそれぐらいの人物の方が頼りになるわ。


「ありがとうございます。コイン様」


 私はコインに頭を下げる。


「いやいや、お噂ではかなりの手腕の持ち主と聞いておりましたがなかなか私たちが気付かないことを指摘してくださりお礼を言うのはこちらですよ」


 コインはそう言って笑顔を浮かべる。


 この人は話せば分かるタイプね。

 首席財務事務官とは今後とも密接に協力体制をとる必要があるから柔軟な考えの持ち主なのは助かるわ。


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