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第104話 暴君にさせてはいけません

 その日の勤務時間を終えて宮殿に戻るとその日の夕食もブランとゼランと一緒に食べることになった。

 私は仕事服からドレスに着替える。

 やがてブランとゼランがやってくる。


「アリサ。今日の仕事は何をやったんだい?」


「はい。ゼラン様。今日は文官の給与についての調査をしてました」


「文官の給与? 給与が足りないってことかい?」


「いえ、基本給はいいと思うのですが、残業代が無いことはいけません」


「残業代?」


 ゼランが首を傾げる。

 やっぱり「残業代」という概念が無いのだろう。


「文官が勤務時間外に仕事をした場合に支払う給与以外のお金です」


「それが残業代かい?」


「はい。ブラン様。勤務時間外に仕事をしたらそれに対する対価を支払うのは当然です」


「ふむ。今まで考えたことなかったな」


「アリサはいろんなことに気付くねえ」


 いやいや、残業して残業代無い方が驚くから。

 日本でもサービス残業は多いけどさ。

 一応そういうのはブラック企業ってことになっちゃうし。


「残業代が出ないのに残業させていたら文官の働く意欲が低下します」


「働く意欲かあ。なるほどね」


「文官だから働くのが当たり前だと思ってたけど、アリサの意見も分かるよ」


 ブランもゼランも頷く。


「ブラン様、ゼラン様。文官だって人間ですから働く意欲があるかないかでは仕事の質が変わってきます」


「そうか。まあ、そうだろうね」


「それに家族手当も出そうかと。文官の9割は既婚者ですからやはり子育てにはお金がかかりますし」


「子育てにお金がかかる?そんなことは考えなかったなあ」


 ブランもゼランも若干驚いたようだ。


 そうね。貴方たちは王族だものね。子育てにお金がかかるって実感はないでしょうよ。


 王族の生活費は基本的に国が出しているから王族にとっては子育てにお金がかかるという感覚が生まれないのはよく分かる。

 それに王族は自分の個人財産も持っているようだし、生活費のやりくりなんて考えたことないだろう。


 特権階級と言えばそれまでだがそういう立場にいるからこそ、下の者の生活に目を配らないといけないのだ。


「とりあえず、『契約書の義務化』と『給与の改善』については他の部署とも調整して決めますわ」


「そうか。アリサも無理しないでね」


「そうそう、アリサが倒れたら大変だから」


 ブランとゼランが心配そうに言ってくる。


「大丈夫ですよ。私はこれでも体は丈夫なんです」


 私は心配ないと言う顔で答える。


「何か力になれることがあったら遠慮なく言ってね」


「私も協力するよ」


 確かにブランやゼランの力を使えば王太子命令や王子命令で何でも出来てしまうかもしれないがそれはあくまで奥の手として取っておく。

 やはりみんなが納得した上で制度改革をしなければ意味がない。

 何でも王族命令でやっていたらブランやゼランがただの暴君になってしまう。


「どうしても二人のお力が必要な時はお願いしますわ」


「ああ、任せてくれ」


「アリサの言うことなら何でも叶えてあげるから」


 いや、だからそういうところがダメなんだってば!

 好きな女性のために政治を動かすとか絶対ダメだからさ。


 これは迂闊なことをブランやゼランには話せないわね。

 マジでブランとゼランが暴君になってしまうわ。


「それとこれはアリサを首席総務事務官として雇う契約書だよ。確認してからサインしてね」


「ありがとうございます。後で確認します」


 私は分厚い契約書を受け取った。

 まあ、今回は罠は仕掛けて来ないと思うけど一応確認しないとね。


「あとこれはアリサが首席総務事務官になったお祝いだよ」


「私からもプレゼントがあるよ」


 そう言ってブランとゼランが私に箱を渡す。


 何かしら? 開けていいのかな?


「開けてもいいですか?」


「もちろん」


 私はブランからの箱を開けるとそれは小さなダイアモンドで出来たネックレスだった。

 光が反射して輝いている。


「私のも開けてみて」


 私は今度はゼランからの箱を開ける。

 中にはダイアモンドのブレスレットだ。


「ブラン様、ゼラン様。あれほどお金を使わないでと言ったではないですか」


 私が非難めいた声で言うと二人は答える。


「これは私の個人財産で購入した物だよ。国のお金は使っていない」


「そうだよ。私も個人財産で購入したんだ」


 ブランもゼランもニコリと笑みを浮かべる。


 うっ! 確かに個人財産を使うならいいって言っちゃったけどさ。

 なんか嵌められた気がするわ。

 でも仕方ない。ここは素直に貰っておくか。


「分かりました。ブラン様、ゼラン様。ありがとうございます」


 私がお礼を言うと二人とも満足そうに頷いた。


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