第103話 公務員はここでも優良物件です
契約書の義務化に関する事務作業はクリスに任せて私はこの国の文官の給与について調べていた。
資料を見ると勤務年数に応じて基本給が決まっている。
手当のようなモノは役職に応じて貰えるモノしかない。
これではちょっと不足ね。
残業代は必須項目だけど何も日本の公務員と全く同じ手当を考える必要はない。
なぜならこの国は日本と同じ世界ではないからだ。
必要な手当って何だろう?
通勤手当とかかな?子育て世代もいるだろうから家族手当とか住宅手当とか?
う~ん、実際に文官がどういう勤務形態なのか聞いてみないと分からないわね。
「ねえ、ジル。ちょっといい?」
「はい。何でしょうか?」
「ジルたちはどうやって王宮まで通っているの?」
「人によって違いますが王宮の近くに住んでる者は歩いてきますし、馬や馬車を使う者もいます。同じ文官であっても元々の身分が違ったりしますので」
歩いて来れる者は別にして馬や馬車で通って来た場合は勤務中はその馬や馬車はどうしているのだろう?
「馬や馬車を使った場合は勤務中はその馬や馬車はどうしてるの?」
「はい。王宮には文官用の馬番たちがいるのでそこに預けます。馬車を使うような人間は貴族出身者が多いので王宮にその人物を送った後に一度自宅に戻り勤務時間が終わる頃に迎えに来ます」
「その馬番に預けるのは無料で預かってくれるの?」
「いいえ。毎月何回利用したかでその金額を支払います」
なるほど。では馬で通って来る者については通勤手当としてその馬番に払う金額をつけてあげればいいわね。
それとも馬番に預けるのを無料にした方がいいかしら?
「ねえ、ジル。馬番に預ける分のお金を給与として貰った方がいい?それとも馬番に預けること自体を無料にした方がいい?」
「そうですねえ……」
ジルは少し考えて答える。
「私は馬番に預けること自体を無料にしてもらった方が嬉しいですね。馬を一回預けるごとにいくらと計算されるので出張などで自分の馬を使って出かけた後にもう一度馬を預けるとその日は二回分の支払いになりますので」
そうか。文官の馬だったら何回預けても無料の方が文官たちの負担は少ないってことね。
では馬を預けること自体を無料化した方が文官たちは嬉しいわよね。
「そう。分かったわ。後は文官たちって男性がほとんどだけど自分の妻や子供がいるような人たちってどれくらいの割合になるの?」
「家族を持っている者は全体の9割ぐらいにはなると思います」
「え?そんなにみんな結婚してるの?」
「はい。私が言うのもなんですが文官という職業に就いてる者は結婚相手として人気がありますから」
ジルは苦笑いを浮かべる。
それってまさに「結婚相手は公務員がいい」っていう公務員神話の一部と同じ心理よね。
日本でも公務員は結婚相手として優良物件とされている。
だが公務員側からしてみれば独身でも充分給料が貰えるので独身主義者も増えているのも事実だ。
それに公務員特有の結婚事情もある。
公務員は汚職の原因となるため民間企業に勤める者たちとの交流は常に気をつけないといけないのだ。
自分に近付いて来る人間が純粋に好意を持っている人物であるとは限らない。
そのため公務員は同じ公務員同士と結婚したがる。
相手が同じ公務員ならそんなことを気にせず付き合えるからだ。
もちろん配偶者が民間人である人もいるがそれは大抵の場合公務員になる前から付き合っていた人だったりする場合が多い。
でも家族持ちがそんなに多いなら家族手当は付けてあげたいわね。
どこの世界も子育てにはお金がかかるし。
配偶者手当と子供の数に応じての手当を付けてあげた方がいいだろう。
「ちなみにジルも結婚してるの?」
「はい。妻と子供が二人います」
「自分の給料でちゃんと生活できてる?」
「はい。まあ、気持ち的にはもう少し貰いたい気持ちはありますが親から受け継いだ財産もあるので」
「もしかしてジルも貴族なの?」
「ええ、男爵家ですけど」
やっぱり文官になるには身分が重要か。
日本には無くてこの世界にはある決定的な違いは「身分制度」ね。
このことはよく頭に入れておかないといけないわね。
でもいずれは人事制度も改革して身分に左右されず実力のある者を文官にしたいところだわ。