第100話 根回しは基本です
「今? オタク事務省って言った?」
「はい。そうですが……」
「そこは何をする部署なの?」
オタクって言ったらあのオタクよね?
私のお兄ちゃんが真っ先に働きたいって言いそうな職場なのかしら?
「オタク事務省はいろんな分野の研究部門が集まった組織です。首席オタク事務官の下でいろんな分野の研究が日々行われています」
研究? まあ、オタクってある意味その分野に特化した専門家と言えばいえるからそういう人たちが集まってるってこと?
興味惹かれるわ~。
そこのトップの首席オタク事務官とも話してみたいなあ。
「ちなみにどういった研究部門があるの?」
「そうですねえ。馬車などの乗り物を研究する部門や歌手や芸能関係の研究する部門や漫画を始めとする文学を研究する部門などです」
「へえ、興味惹かれるわね」
つまり鉄道オタクのような乗り物系やアイドルオタクのような芸能系や漫画とかアニメオタクってことでしょ?
この世界は侮れないわ。
そういえばお兄ちゃんが力説していたっけ。「オタクは経済を支えてるんだよ。オタクが使うお金を馬鹿にしてはいけない」って。
そうね。あの方々は自分の趣味にかけるお金がハンパじゃないもんね。
「とりあえず、以上がダイアモンド王国の国の組織です」
「ありがとう。ジル。とても分かりやすかったわ」
「恐れ入ります」
私は今の話を聞いてこの総務事務省が担当している仕事について考えてみる。
ジルの説明では他の事務省が行っていない事務仕事については総務事務省が担当だと言っていた。
「ねえ、ジル。貴方は国と雇用契約書を結んでいる?」
「雇用契約書ですか?いいえ、そのような契約書は持っていません」
やっぱりね。やはり何事も契約書を作成することを義務化しないと始まらないわね。
「クリス。この国全体に契約書作成の義務化を行うわよ」
「分かりました。まずはその仕事からですね」
「最初は文官たち全てと雇用契約書を結ぶわ。後は準備が整ったら国民同士の約束事も全て契約書を交わすようにするわよ」
「はい。分かりました」
「ジル。契約書を国全体で義務化するのにはどうすればいいか分かる?」
「そうですねえ」
ジルは少し考えていたがやがて口を開く。
「国の制度の一部として契約を義務化することは総務事務省の提案で宰相様と国王様が認めればできますがまずは各事務省の首席事務官に根回しをしておいたほうがいいと思います」
「根回し?」
「はい。国全体に影響ある案件については各事務省の首席事務官と宰相様が出席する「首席会議」で決定する必要がありますので」
「なるほどね。「首席会議」で決定して国王様が認めれば国の制度として成立するってことね?」
「はい。大体はそんな流れです」
「そう。ありがとう」
根回しは公務員の事務でも大切なことだ。
組織の決定は議会や理事会などで決まる。
だが偉い人ほど会議で議論する時間を長くは取れない。
そのため「事前説明」として事務方が会議の前に予め議員や理事などに「次の会議で決めることはこういうことです」と説明しておくのだ。
その案件に疑問がある場合はその「事前説明」の時に事務方に質問をしてくるのでそれに対して事務方が答える。
この根回しをすることによって会議当日に集まった議員や理事は粛々と議題内容を確認して承認するというのが通常の流れだ。
この根回しがうまく出来てないと会議で承認されずに予定していた事業が決めていた時期から開始できなくなるのでとても重要なことなのだ。
どうやらこのダイアモンド王国も根回しは重要なものになりそうだ。
まあ、他の首席事務官とも会っておく必要があるし、ここはじっくりと話せるいい機会と思おう。
それに最終的に宰相を納得させないといけないしね。
あの宰相が私を嫌っているのは分かるが他の首席事務官たちが賛成してくれたら宰相の壁も突破できるだろう。
さあ、戦闘開始ね!