第10話 手伝う以前の問題でした
私の怒声にワイン伯爵もクリスもビビったように手を止め固まった。
私は3枚の村からの報告書なる物を手に握りプルプルと体を震わせた。
我に返ったワイン伯爵が私に声をかけた。
「ど、どうかしたのかい? アリサ」
「どうかしたもないです! 何ですか、この書類は!?」
私は手に持っていた書類をワイン伯爵に渡す。
「えっと、これは各村が作った収穫物の出来高報告書だね」
「それは分かります。ですがなぜ統一した様式じゃなく、それぞれ好き勝手に書いてあるんですかあ!!」
そう、私が見たのは村で取れた収穫物の報告書。
だがA村は品目が先に書いてあってその後に収穫物の売れた金額、そして数量、その後にその収穫物を作るために使用した経費が書いてある。
ところがB村は先に数量が書いてあり、売れた金額の後に品目が書いてある。
C村は最初に品目があり次に経費、そして数量、売れた金額が書いてある。
「この書類に不備があったのかい?」
ワイン伯爵はまだ怒りが収まらない私に恐々聞いてくる。
「内容に不備があるかどうかの以前の問題です! なぜ報告書類に統一様式を使ってないんですか?」
「え? 統一様式?」
私は辺りに雪が降るんじゃないかというぐらい凍えた声で言う。
「これでは一目でどの品目がどのくらい収穫があってどれだけ売れたのか、そしてそのためにいくらの費用がかかったのか分かりません」
「た、確かにそうだが。書類を出してくる村長たちがそれぞれ作成してるから書き方が違うだけで……」
「違う人間が書くからこそ統一様式が必要なんです!」
そう、事務の書類において内容を比較する場合は決まった様式に品目や金額などを記入するのは当たり前だ。
この提出されたバラバラの書類ではまとめるにしても比較対象がどこに書かれているかを探すのに無駄な労力を使う。
これでは時間がいくらあっても足りない。
一ヶ月後に王都で説明があるって言ってたわね。時間がないけどこれはさすがに再提出の代物よ。
「クリス。村長の年収っていくら?」
「年収ですか?村にもよりますがだいたい平均すると100万円ぐらいでしょうか」
「そう、ここのお金の単位も『円』なのね」
ご都合主義万歳である。
「報告書を出してくる者たちは村長なの?」
「はい。文字の読み書きや計算は村長はできるので……」
「村はいくつあるの?」
「領地内には12の村があります」
仕方ない。統一様式は私が作るか。
私は公務員の事務職としての事務魂に火が点いた。
やってやろうじゃない! でもまずはこの報告書類の再提出ね。
「お父様。少しお金を使わせてもらっていいかしら?」
「お金? いくらだい?」
「そうですね。30万円ほど」
伯爵家の年収がいかほどかは分からないが村長たちよりは上だろうし30万円ぐらい出せるわよね?
「ああ。それぐらいならすぐに用意はできるが……何に使うんだい?」
「この書類たちを再提出させるための必要経費ですわ」
「よく分からないがそれは必要なのかい?」
「ええ。人間のやる気を出させるのに手っ取り早いのはお金ですから」
私は笑顔を浮かべる。
「そしてお父様。村長たちを明日の昼までにここに集めて欲しいんですけど」
「村長たちを? 分かった。呼んでおこう」
「ありがとうございます。お父様」
ワイン伯爵が話が分かる人間で良かったわ。
さてそれでは統一様式を今日中に作らないとね。
「クリス。ペンと紙、それに定規はある?」
「はい。あります。紙はどのくらいの大きさの紙が必要ですか?」
「そうね。A4があればベストだわ」
現在、役所が使用する紙の大きさはA4サイズが主流だ。
「えーよん……ですか?」
おっと、A4じゃ通じなかったか。
これは実際に紙の大きさを見るべきね。
ここにある報告書たちの紙の大きさも村によって様々だ。
これじゃあ、後でファイルに綴じるのにも不便だわ。
やはり紙の大きさの統一は必須ね。
「ここにあるのがこの国で使われている紙の大きさの種類です」
クリスに言われて私は四つのサイズの紙が置いてある場所を見る。
これがA4ね。そしてこれがA3。こっちにあるのはB5とB4ね。
私は瞬時に紙の大きさを見抜く。
こっちは伊達に事務職を5年もやってないんだからね!