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第1話 ながらスマホはやめましょう

脇田朝洋のトモの新作です。

作品は自分のペースで書いていくので不定期投稿になりますが頑張って最後まで書いていきます。

気長にお付き合いいただけると幸いです。

「書類を受け付けましたので不備があればご連絡致します」


 私は窓口に書類を提出に来た男性に笑顔で応対する。


「じゃあ、お願いします」


 男性はカバンを持ってそそくさと帰って行く。


 私の名前は星月ほしつき亜理紗ありさ。23歳。

 高校卒業後、就職氷河期と言われた時代。

 私が就職先に選んだのは地方公務員の事務職だ。


 高倍率の試験をなんとか突破して地方公務員として働いて既に5年目になろうとしている。

 公務員は安定した収入で福利厚生もしっかりしていて土日祝日は休みで最高!……なんてのは一昔前の公務員だ。


 現在は「少数精鋭」を掲げる人事制度のもと、人員は減らされて一人一人の担当業務は年を重ねるごとに多くなっていく。


 サービス残業は当たり前だ。なぜかというと残業代も予算が決まっているのでその予算以上の残業をするとなるとどこかの科目から予算を流用しなければならない。


 そして予算を流用するためにはもちろん「理由」が必要。

 その理由がもっともらしい理由でなければ予算を管理する経理課がいい顔しない。


 そして上司からは「もっと効率よく仕事して残業をしないように」とキツく言われる。

 残業が多いと課長が怒られるのだ。


 そして住民からの目もあってサービス残業をさせて残業の実績を誤魔化すことによって世間には「これだけ効率的に仕事して残業を減らしました」と発表する。

 それが実態だが世間には未だに「公務員神話」なるモノが存在していて公務員は人気の職業だ。


 その上、職員は自分が公務員であることをご近所さんには内緒にしている人も多い。

 公務員だと分かると公務員バッシングを受けるからだ。

 自分の職業を人に隠して生きるなんて犯罪者のようだがこれが現実である。


 私も「公務員神話」を信じて公務員になった一人。

 どれだけ自分が甘かったかを知ったがそれでも5年も務めれば大体の事務のやり方はマスターして手が抜ける所が分かってくる。


 新人の頃は何に対しても全力投球だったがそれももう懐かしく思うほどだ。

 だが一番仕事で大切なのは笑顔での応対である。


 私が今配属されているのは福利厚生課で窓口に各出先の事務所の事務の人たちが毎日書類を提出しに来る。

 ここで横柄な態度を取ろうものなら苦情の種になる。


 外部の人と接する時は一番気を使う。

 でもそれも毎日のことになれば自然と笑顔で対応できるようになる。


 うん、私も成長したもんだ。


 私は先ほど窓口で受け取った書類を持って自席に戻り書類の確認をする。

 内容が正しく記載されているか、印鑑は押されているかなどだ。


 ペーパーレスの時代だがまだまだ私の職場は紙の書類が主流なのだ。

 完全にペーパーレス化するには様々な問題があるからなのだがそれは私が考える仕事ではない。


 書類を確認していると隣の課の係長の怒声が会議室から聞こえて来る。

 隣は財務課だ。


「費用対効果をもっと明確にしろ!」

 

 あ~あ、今日も財務課の係長は絶好調ね。


 財務課は予算を扱う部署なので各課から予算要求の書類が提出される。

 もちろん各課は必要な予算を請求するのだが予算には当然限りがある。

 限りある予算をどこの課に配分するかを決めるのが財務課なのだ。


 そのために予算要求しても100%その要求通りに予算が付くことはない。

 財務課は削れるところは容赦なく削ってくる。


 そのために財務課の係長は各課の予算担当を呼び出しては「費用対効果を考えろ」というのが口癖なのだ。

 それにうまく答えられなければ予算は削られる。


 私も昔一時期経理担当の仕事をしたことがあるのでその苦労は身に染みて知っている。

 でも私の今の仕事は経理担当ではないので財務課とやり合うことはない。


 さて、今日は金曜日だし、帰りに美紀みきとご飯食べようかな。


 そんなことを考えながらその日一時間ほど残業して私は職場を後にしたのだった。


 帰り道、美紀とスマホで連絡を取りながら私は「ながら歩き」をしていた。

 「スマホでのながら歩きはやめましょう」と書いてあるポスターの前を堂々と「ながら歩き」しながら私は歩いていた。

 美紀と待ち合わせ場所を決めて私はビルの角を曲がった瞬間、私の足元に地面はなかった。


「え?」


 一瞬で目の前が真っ暗になり私は突然開いた穴の中へ落ちた。

 そして激しい嵐の渦に巻き込まれたような感覚になり気を失った。




 どのくらい気を失っていたかは分からない。

 私の意識は浮上し始めた。

 自分の身体を包む柔らかい感触に私は目を瞑ったまま違和感を覚える。

 

 私のベッドってこんなにふかふかしてたかしら?


 そして私は目を開ける。

 すると眩しい光が目に入り思わず顔を顰める。


 もう、朝? カーテン閉めるの忘れたのかな……。


 目が慣れてくると私は自分が見知らぬベッドに寝ていることに気付く。


「え?ここどこ?」


 私はベッドから半身を起き上がらせて部屋の中を見た。

 その部屋に見覚えはない……。


 壁は明るい薄いピンク色の小さな花柄模様の壁紙で家具はアンティークショップに売っているような年代物。

 絨毯は赤くて模様が描かれていてソファやテーブルも置いてあるがそれもアンティークっぽい感じだ。


 そして自分が寝ているベッドは大人が三人寝ても余るほどである。

 一言で言うなら前にライトノベルの挿絵にあった貴族の部屋って感じだ。


 なんでこんな貴族チックな部屋に寝てるの?


 私は自分の記憶を思い出す。

 仕事が終わって美紀とスマホでやり取りをしていた。

 

 そうだ! ビルの角を曲がった瞬間に何か穴に落ちたんだ。


 マンホールの蓋でも開いていて自分は穴に落ちて怪我をして今は病院で寝ているのかもしれない。

 「ながら歩き」していた私への神様からの罰なのか。

 そして今見てる光景は夢の中なのかも。

 夢にしてはリアル過ぎるけど。


 そう思いながら私は自分の頬を引っ張ってみる。


「痛い……。ってことはこれは現実……?」


 そこへ扉が開き一人の少年が入って来た。


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