43話 潜入Ⅵ
首謀者を逃したとはいえ、ひとまず事件は一段落ついた。そう思った直後に、俺が倒したはずのゴーレムが合体してパワーアップとか、正直笑えねぇ。
しかもただ強化されるだけで良かったものを、有効打による魔力による攻撃も効かなくなるとかいう過剰なおまけ付き。
どうにか解決策を考えようと思考を始めた途端、今まで攻撃に対する反撃しかしなかったゴーレムがついに動いた。
「っ、まだ考え纏まってねぇってのによ…!」
その巨体が最初に標的としたのは、回避行動から体勢を立て直したばかりの麗沙だった。
「…舐めないで欲しいわね。」
麗沙は振り下ろされたゴーレムの腕を最小の動きで躱すと、すかさず炎の拳を叩きつけた。
だが案の定、麗沙の拳が纏っていた炎は消え去り、ゴーレムの体勢を崩すことも叶わなかった。
「ああ、もうっ!ほんっとーに面倒くさいわね!」
「フィンセール・エミラ・フェニュー(氷よ、敵に向かって飛べ)!」
詠唱の主は黄緑だった。赤ちゃんたちの保護が終わったんだろう。
その声が響くと、麗沙は後ろへ飛び退き、黄緑が作り出した氷がゴーレム目掛けて飛んでいった。
しかしゴーレムは氷などには目もくれず、そのまま追撃のため麗沙へと走り出す。
麗沙は再び攻撃の構えを取ってるが、それじゃさっきと同じだ。また追い詰められる。
俺は走り出し、走りながらゴーレムの打開策を模索した。
(どうすればいいっ?魔術を当てても効かないならこんなん詰み…。)
いや待て。
当てる?誰に?
無論ゴーレムだ。ゴーレムに当たった魔術は効かない。
じゃあ、魔法を自分に使えば?
──ゴーレムではないから、魔術は効く!
互いの拳が交わる前に、俺はゴーレムと麗沙の間に割り込めた。
(風でブースト…いや、それじゃ足りない。威力を…身体能力そのものの強化を!)
イメージは単純だった。
魔力を拳にありったけ集めて、とにかく強く…!
「ぅおっらああぁ!!」
拳はゴーレムの腹部へ直撃し、その勢いのまま奥の壁へと吹っ飛んでいった。
「あんた、何やったのよ…?」
後ろから驚きを含んだ麗沙の声がした。
「いや別に、ただパンチを強化しただけ。ゴーレムに向けた魔術は打ち消されても自分を対象にした魔術なら有効だろうって思ったからさ。」
「それって、確か無属性魔法に分類されているものですよね?魔力自体を操る魔法で会得は難しいとされているはずですが…。」
え、そうなの。
特に難しかった訳ではないのだが、黄緑曰く身体強化は珍しいものだそうだ。
「て言うか、あんた魔法のことを魔術って言ってるわよね。まどろっこしいから言い方直しなさいよ。」
「…それ今言うことか?努力はしとくよ。」
本当に、空気を読まない才能はピカイチだよなぁ。
「みんな、大丈夫!?」
赤ちゃんたちの保護が完全に終わったのか、零央がようやく合流した。
「あぁ無事だよ。とはいえ、相手が超厄介だから、この後どうなるかまでは分からないけどな。」
俺は目線を吹っ飛んだゴーレムへと向ける。
やはり何事も無かったかのように立ち上がり、こちらへ向かってくる。
だが。
「…へこんでる?」
俺が殴った腹部は、抉られたようにへこみが出来ていた。
「初めての有効打…。一体どうして…?」
黄緑は「初めての」と言ったが、実際は違った。
よく見てみると、麗沙の攻撃した箇所も腹部ほどではないがへこんでいた。
(魔じゅ…魔法や魔法付与は無効化されてるはずなのに攻撃が効いた…?でもさっきの一撃は威力を高めただけのただの…。)
「あ。そうか。」
そうだ、ただのパンチ。ただの物理攻撃だ。
導かれる結論はたった1つ。
「あいつ、魔力を使わない単純な物理攻撃なら効くみたいだな。あと自分に対して使った魔法はかき消されない。あーでもさっき魔力の剣は消されたから、例外もあるな。」
「…えっとつまり、要約すると?」
「つまり、魔法を使わなきゃいいってことだ、零央。具体的には、…魔法で作ったものは剣でも岩でもかき消されるっぽい。だから──」
「とにかく殴り続ければいいってわけね?何よ、簡単なことじゃないっ!」
……こいつ、ま〜た笑顔になってるよ…。
「そういうこった。魔じゅつ…魔法戦闘は基本無いから零央と黄緑は撹乱とかの援護頼む。攻撃は…。」
俺は再び立ち上がるゴーレムを視線に捉えながら、接近戦に強い俺と麗沙で攻撃すると伝えようとした。
「はあぁっ!!」
が、その前に麗沙が突っ込んでいった。
「…ほんっとに、マイペースだよなあいつは…。」
溜息を鋭く吐き思考を切り替える。
「まぁそういうことだ。俺と麗沙で攻める。」
その声と共に零央と黄緑は戦闘態勢に入った。
無論、俺も持ち合わせの剣を握りゴーレムへ走り出した。
(さて、最終局面と行きますか…!)