41話 潜入Ⅳ
誠はゴーレム達に向かって走り出し、同時に『眼』を使用した。
敵の数は合計21体。それを確認した後片手に氷剣を出現させた。
誠との距離が5m程にまでなると、ゴーレム達が動き出した。
一定の距離まで近づくと動くよう作られていたと理解した誠は、しかし速度は緩めず距離を詰める。
ゴーレムの一体がその簡単に人を潰せそうな拳で誠を殴りかかった。
(…やっぱり近くで見るとデカイな。2mは超えてるか?)
誠はそんなことを考えながらその攻撃を跳んで躱す。
そしてすぐさま手に持つ氷剣で斬りかかった。
斬撃を受けたゴーレムの身体は、甲高い音を上げるわけでも変形するわけでもなく、ただ剣を受け流した。
(無傷…。まるで効いてないな。)
誠はゴーレムを蹴って1度距離を取る。
完全に敵とみなしたのか、ゴーレム達はゆっくりではあるが誠へ向けて進み始めた。
低姿勢で着地した誠はすかさず氷剣を解き、そのままゴーレム達に突っ込むように駆け抜ける。
ゴーレム達は誠に攻撃しようとするが、その動きは遅く誠を捉えることは出来そうもない。
その結果、放った拳は誠ではなく別のゴーレムへとぶつかることとなった。
あるゴーレムは仲間からの攻撃で腕の部分が吹き飛び、あるゴーレムは拳に体勢を崩され、他のゴーレムを巻き込みドミノのように倒れていく。
その光景を見た誠は確信を得た表情で右手を出す。
イメージするのは氷ではなく、血液のように自身の体を流れる魔力。
それを氷剣と同じように抽出し、象り、注ぎ込む。
やがて右手には、ゴーレムや結界と同じ材質の剣──魔力の剣が握られていた。
再びゴーレムへ向けて走る誠。
先程の混乱で無事だったゴーレムは誠に反応し、先刻と何も変わらない動きで誠を倒そうとした。
誠は避けずに放たれた拳へ剣を振る。
拳は誠に当たることはなく、魔力の剣にて両断された。
誠はすかさず跳躍し頭部から真下へ振り下ろした。
氷剣では傷1つ付かなかったゴーレムの身体が文字通り真っ二つに分かれた。
(やっぱ斬れる!)
氷剣が効かなかった時点で誠の思考は攻撃方法の模索に移っていた。
魔力だけで作られたものに効果のある攻撃。即ち、魔力そのものに有効な攻撃。
無属性魔法といういつか聞いた単語も思い浮かんだが、使えない以上当てにならない。
故に至った解答は、自分も魔力のみを用いた魔法(本人は魔術と言っているが)を使うということだった。──もっとも、炎など別のものにに変質させず純粋な魔力のみで扱う魔法、即ち誠が行った魔法こそを無属性魔法というのだが。
「さて、これをあと20体か…。」
既にゴーレムたちは起き上がり始めており、全員眼すらない頭部らしきもので誠を捉えている。
「そりゃ1体の時よりは…。」
床を蹴ると同時に風の魔法を自分に当て推進力を付け、一気にゴーレム達へ近づく。
「面倒だよなっ!」
1体のゴーレムが対応する間もなく誠の剣によって斬り伏せられた。
仲間が倒されたことに全く関心を示さずに、周りのゴーレムはただ敵を潰さんとノロノロと誠へ近づく。
誠は1体の脚を切り付け、体勢が崩れたところから1度離脱した。
大量の敵に囲まれることは避けたいということだろう。
「…さて、どう攻略したものか……なっ?」
剣を構えて次の動きの準備をした誠は、状況の変化にすぐに気づいた。
誠が驚くのも無理はない。
再びゾンビのようにゆっくりと近づいてきたゴーレム達が、突如氷と岩石によって進行を阻まれたのだから。
誠は魔法の発生源を考えようとしたが、このチャンスを逃すのはもったいないと攻撃に意識を向けた。
足を止められ無防備な状態のゴーレムを討つのは誠には容易な事だった。
魔法を使った者の正体はあっさり判明した。
誠の視界に映った黄緑と零央が、いつの間にか結界から抜け出していたのだ。
なるほどそういうことか、と納得しつつ、誠は最後の1体の胴を斬り落とした。
その後、息を吐き出しながら周囲の警戒を行う。
『眼』を使って部屋の中に敵が居ないことを確認すると、肩を落として緊張を緩めた。
「…んで、どうやって結界から抜け出したんだ?干渉不可能じゃなかったのかよ。」
零央と黄緑の方へ歩きながら疑問を口にする誠。
「確かに物理的な攻撃や魔法では干渉できません。でもこの結界は結界の強度だけを強くし過ぎて、簡単に術式を書き換えることができたんです。」
結界とは、魔法のように唱えるだけで使えるというものではない。魔法陣やその簡易版であるルーンなどを描き範囲内のものに影響を与えるものである。
つまり、描かれた魔法陣を書き換えれば結界の効果が変わるのだ。
「術式を書き換えるって、そんな簡単なことなのかよ?」
「いや、術式の内容を理解しないと書き換えるなんて到底できないよ。結界内に居て邪魔が入らなかったからといってもこんな短時間でできるのは凄すぎるよ!」
零央の言った通り、術式を読み解くことがそもそも難しく、読みといたとしてどこをどう変えればいいのか把握できなければ思い通りの効果にはならない。
それを僅かな時間で理解し、正確に描き変えた黄緑の実力に少なくとも零央は気づいた。
「へぇー。まあどれだけ凄いのかはまた後でゆっくり聞くとして、これで邪魔者が居なくなった。さっさと終わらせようぜ。」
障害となったゴーレムも全て倒した。であれば早急にここへ来た目的を完遂させるべきだ、ということだろう。
その意図を察した零央と黄緑、そして誠は行動を開始した。