38話 潜入 Ⅰ
「マジで警備の1人も居ねぇ…。校長の権力凄いな。」
ファウンテンピースの前に集合した俺たちは、すぐに行動を開始し、20分くらいの時間で学校に着いた。
校内の人達は何とかしておくとは言ってたが、人っ子1人居ないとは…。
「これで他の人に直接迷惑はかからなくて済むね。」
「はい。それに私たちと犯人以外に人が居ないのなら、探し出すのも容易だと思います。」
黄緑の言う通りだ。人がいないはずの校舎で音が鳴ったりしたら1発で怪しいって分かる。
「よし、んじゃ作戦開始と行くか。零央は俺と教員棟側を、麗沙と黄緑は委員会棟側から頼む。」
「分かってるわよ。あんたが仕切ってるのに納得はいかないけれど。私より偉いみたいで気に入らないわ。」
「へぇ?ならそっちがやってみるかリーダー的仕事。ああしろこうしろ伝えてみんなを引っ張んなきゃいけないけど。」
「………まぁ、私ならそんなこと余裕だけど、今回は譲ってあげるわよ。」
苦手なんだな。まあそうだろうなと思ってたけど。
俺も仕切ってるつもりはないんだけどなぁ。
俺は1度息を吐き出し、吸って、言った。
「それじゃあやるぞ。」
そう言うやいなや、麗沙は待ってましたと言わんばかりに右側へ走っていった。その後を黄緑が懸命に走って追いかける。
(毎度あんな感じで、麗沙が突っ走ってサポートや後始末とかを黄緑がやるんだろうな…。)
それで上手くいってるならいいか。
「俺たちも行くぞ。こっち側で怪しいと睨んだ教室は1つだけだから女子組よりは早く終わる。」
「そうだね。でも一応、目星をつけてない教室もある程度探そうよ。赤ちゃん達をバラバラに捕らえてるかもしれない。」
確かにその通りだ。
俺は頷き、零央と一緒に校舎へ向かう。
女子組が同じことをしてくれてると助かるが…まぁ黄緑が自主的にやってくれてると信じよう。
校舎に入って俺たちはすぐに階段に向かった。
地下へは1階の階段の左側にある扉から行けるらしい。
普段は鍵がかかっているそうだが、今日は作戦のために校長が予め開けている。
俺たちは早速そこに着き、ドアノブに俺の右手を乗せる。
「開けた瞬間に爆発…も有り得るからな、こっから先は常に気をつけた方がいいだろ。」
零央はそれを聞くと、わかったと言って詠唱を始めた。
「マ・カルゴ・フロー・イェル(我が身に神の加護あり)…。
ケイル・ハウス・ザンテ(この手に土を)…。」
零央の手に自身の属性に対応した物体、即ち土の塊が出現した。
敵が飛び出して来た時に飛ばして牽制、或いは撃退するつもりだろう。
俺の『眼』で敵の位置は分かるから、先制出来るかもしれないな。
「じゃ、行くぞ。」
俺はドアノブを下げ、扉を開ける。
すぐに構えたが敵襲も爆発も無い。
『眼』で確認するが、すぐ近くに人は居ないようだ。
「…すぐには襲ってこないみたいだな。」
「うん。でもどこから来るか分からないから、より警戒して進もう。」
零央の言った通り警戒を一切緩めずに階段を降りる。
普通の校舎と違って天井が低い上に暗いためか、妙な閉塞感に締め上げられるように感じる。
(いくら『眼』で敵の動きが分かるからって、これは少し堪えるな…。)
階段の先の通路に出ると、僅かに視界が明るくなった。
校舎の教員棟と同様、直線の廊下が続き、途中と突き当たりの2箇所で右へ曲がる道があるのが分かる。
上を見上げた俺の目に映ったのは、暗闇を照らしている非常灯のような明かりだった。
(…人が居ないところに明かりをつける意味は無い。)
敵がここにいることを改めて認識しつつ、右の壁に並んでいるドアの1つを開けた。
教員棟は階段を上がって左側に窓が連なり、右側には理科実験室、物理室、音楽室などの各教科で使う教室がある。
その造りは地下でも同じで、教室は全て右側にあった。ちなみに左側はただの壁だった。
1つ目の教室には何も無かったので、俺は隣の教室に入ろうとした。
が。
(…いる。これは…通路の方か。)
室内を確認するために使った『眼』で敵の姿を捉えた。
真正面から1人、右に続いてる道から2人。
速度から見てまだ俺たちに気づいていない。
いや、侵入したことには気づいているかもしれないな。
「零央。右から2人、前から1人来てる。俺が右をやるから前は頼む。」
零央の反応を聞く間もなく俺は走った。
『眼』で見たところ大した装備をしていなかった。おそらく魔術を使ってくるだろう。
俺は走りながら氷の短剣を作った。
そして曲がり角を曲がってすぐに短剣を投げつけた。
敵ではなく、薄く光を放つ明かりへ。
当然明かりは壊れ、曲がり角付近は暗闇に包まれた。
これで敵は俺に向けて魔術を使いづらくなったはずだ。
『眼』で2人の位置を確認し近づき、背後に回る。
そして背中の二振りを鞘から抜き、2人の首にそれぞれ剣を振った。
防御の暇さえ与えられなかった2人はそのまま崩れ落ちた。
「ふぅ…上手く当てられたみたいで良かった。」
首の後ろ辺りに剣の側面を思いっきりぶつけた。
ちょっとでも角度がズレてたら頭が落ちていただろうな。
俺は剣を鞘に納めないまま元の場所へ駆ける。
向こうは零央が戦ってくれている。
いくら相手が1人とはいえ、零央の意見を何も聞かずに丸投げしてしまった。
何事もなく敵を倒せてればいいが…。
「ザンテ・カウェル・マ(土よ、壁となって我を守れ)!」
元の通路に戻ろうと走っていたところで誰かがそう叫んだ。
声の主は間違いなく零央だ。
それに意味は分からないが、今のは魔術の詠唱のはず。
つまり、零央は今交戦してるわけか!
すぐに『眼』を使い状況を把握した。
零央は壁のようなものに隠れていて、その壁に敵が火球やら土塊やら、とにかく魔術を撃ちまくっている。
敵を見つけた時、あの集団は索敵範囲に居なかった。
(くそ、『眼』の範囲外に複数人居たか…!)
悔いる気持ちとは裏腹に身体は敵を倒すべく、次の行動に移ろうとしていた。
(1人どころかもっと居る!)
零央は文字通り動けずにいた。
前から来る1人を頼むと仲間の誠に言われ、少し疑いながらも身構えた。
すると、本当に敵が来たのだ。
誠の言った通り数も1人だけ。
その敵は、既に準備していた魔法で作った土塊を飛ばしてぶつけることで撃退できた。
問題はその後。
その直後に敵の集団が走って向かってきたのだ。
その数は4~5人程。
零央を捉えるやいなや零央を排除しようと魔法を使ってきた敵に対し、零央は土属性の壁で防御し、今に至る。
(いくらなんでもキツすぎるよ…!どうすれば…。)
敵の攻撃は止まず、厚い土がどんどん崩れていく。
壁が壊れるのは時間の問題だろう。
何とか突破しようと作戦を練ろうとした時だった。
魔法が壁に衝突する音が明らかに減ったのだ。
代わりに聞こえてくるのは──人の呻き声。
そして1度だけ、金属同士がぶつかる音が聞こえた。
壁の横から覗いてみると、誠が最後の1人を切り伏せる姿を目にした。