37話 作戦、夜に開始
誘拐犯の居場所を特定した俺たちは、放課後の校長室で赤嶺校長と校舎の地下を調査する作戦を立てていた。
調査と言ったが、襲撃と言い換えていいだろう。
なんせ校長室に呼ばれる時に
「明日奴らを襲撃する作戦を立てるぞ。」
て校長自ら言ってたし。
襲撃とは言ったが、そこまで物騒なことをするわけじゃない。
今回の作戦はあくまで攫われた赤ちゃんたちの保護が目的。
犯人たちは出来る限り無力化、捕縛するという方針になった。
「まぁもしヤバい時は腕1本くらいなら許すから、遠慮すんな。」
「中学生が人の腕を斬ることを許しちゃダメでしょ校長。」
大丈夫かこの人の倫理観。あっさり「殲滅してこい」とか言ってきそうで怖いぞ…。
「要するに、問答無用にぶん殴ってもいいってことですよね?」
麗沙が校長に確認する。
敬語は使ってるがどうしてこう性格が顕著に現れるんだ?
「ぶん殴る」はどう足掻いても敬語とは捉えられそうにないぞ。
「その通りだ。あと保護対象──今回は赤子達だが、その救出方法についてだ。」
そう言うと、校長は青い宝石が埋め込まれたブローチのようなものを見せた。
いや、見た目は宝石だがおそらく魔石だろう。
魔石とは、魔力を浴びることで変質した鉱石や岩石のことだ。
浴びる魔力の濃度や属性でその性質が変わったりする。
だがここまで透き通った青色は見たことがない。
「これは人肌にも付けられる魔道具でな、使えばこれをつけたものを指定の場所に転移させられる。赤子たち全員に付けたら私が転移させる。転移先は…保健室あたりでいいか。」
使えば転移って、しれっと凄いこと言ってなかったか今?
まあそんな代物が出回ってない理由は今は置いとくか。
「ですが校長、実際に行動するのは私たちで校長は行動できないはずですよね?どうやってこの魔道具を使うタイミングを合わせるんですか?」
黄緑が割と現実的な質問をした。
確かに普通ならかなり難しいが、何しろあの赤嶺校長だ、何か凄い方法でもあるに違いない。
「あぁ、それなら別の魔道具でお前たちが私に合図を送れ。魔力入れればこっちに伝わるから、それで判断する。」
さっきのと同じ形で、宝石の色が赤色の魔道具を黄緑に渡す校長。
…また魔道具頼りかい。
ちょっと期待を裏切られた。
「…あと校長、地下の地図ってあったりしますか?目星い場所とそこまでの道順くらいは知っとかないと、時間かかって逃げられるだろうし。」
気持ちを切り替えて、もう1つの問題点を伝える。
正直に言えば、最悪なくても何とかはなる。
俺は半径100m以内の地形を、立体物の構造を含めて3次元的に把握出来る。
アノービルに来てから4年、10歳頃に使えるようになったこの能力を俺は『眼』って勝手に呼んでるが、正直原理や原因は謎でしかない。
その謎能力を使えば普通に探すよりは楽になるが…。
「ああそれか。確かあったはずだ、ちょっと待っていろ。」
今回は使わなくて済みそうだ。
校長が部屋の棚やら机の引き出しやらを探して5分と少し。
「よし、あった。机下の引き出しの奥になんて仕舞った記憶はないが…。」
管理が杜撰だなおい。
1つの資料見つけるために校長室のあちこちを探すってどんだけテキトーに片付けてるんだ?
俺がそんなことを考えていることも知らない(であろう)校長は応接用の机に地図を広げる。
「さて、広げてはみたが…はっきり言って造りは今使ってる校舎とほぼ変わらない。怪しい教室の場所さえ分かれば割と早く行けるはずだ。私が睨んでるのは、現在の教室棟に当たる場所にある魔石研究室、それから魔力解析室…。」
校長は他にも候補を俺たちに伝えた。
その数は合計5つ。
いずれも棟がバラバラで時間がかかりそうだ。
「これなら…教員棟から教室棟、委員会棟の順に調べれば全部攻略出来るんじゃないかな。」
魔術学校の校舎は大きな屋根や豪華な装飾で荘厳な印象を受けるが造りは割と単純で、L字の形をしている。
教室棟の昇降口を正面に見た時、そのL字が手前に突出していて、それが教員棟だ。その右隣が教室棟でそのさらに右隣が委員会棟だ。
そして地図を見る限り地下の階層も同じ構造をしている。
零央が提案した作戦は、つまり左から攻略していくということだ。
「なるほどね、それなら分かりやすくて助かるわ。左側から行って片っ端から敵をぶっ飛ばすだけなら楽勝ね!」
「待ってください佐久間くん。効率よく見つけるために、右側からも探すべきじゃないですか?2人ずつに分けて教室棟で合流する形で進めばより早い時間で探せるはずです。」
「そうだね。そっちの方が良さそうだ。」
「それじゃあ俺と零央が左から、麗沙と黄緑が右から入るってことでいいか?」
全員俺を見て頷いた。異存は無いということだろう。
「これで計画は纏まったか。それじゃあ明日の夜に実行だ。適当な時間に集合して学校に来い。警備やら何やらは私が何とかしておく。」
何か投げやりみたいな言い方だが、察するに何かこの後仕事があるのかもしれない。
まぁ何にしろ警備をどけてくれるのはありがたい。
「分かりました。俺の店の前で集合でいいか?」
「店って、鍛冶場のあるあそこよね?」
「その通り。覚えてるだろうな麗沙?」
「馬鹿にしてるわけ?覚えてるわよそれくらい。」
よし、心配は無さそうだ。
そして作戦の最終確認した後、その日は解散した。
作戦実行は、約31時間後だ。
「時間10分前に全員集合か。みんな気合い入ってんな。」
夜10時50分、店の入口に向かうと既に他の3人がドアの前で待っていた。
「遅いじゃない。何やってたのよ。」
「予定時刻より早いんだからいいだろ。まぁ一応言っとくと、理由はこいつらを鍛えてたからだ。」
そう言って俺は背中に背負った2振りの剣を見せる。
「出来る限り最高の状態にしておきたくてな。そう言う麗沙はいつから居たんだ?」
「確か結構早かった気がするよ。僕が来た時にはもう来てたから…10時より前?」
「7時半くらいから待ってたわよ。あんたが仕事してるつまんない姿を見ながらね。」
そんな時間から待ってたのかよ。
「つまんないは余計だろ。てかその間よく待てたなお前。」
「30分くらい経った時に黄緑が来てくれたから、雑談とかしてたのよ。おかげで退屈しないで済んだわ。」
「麗沙ちゃんはせっかちなくせにどちらかと言うと我慢強くないから、早めに行った方がいいかなって思ったの。気分を悪くした状態で作戦に望むのは良くないでしょ?」
確かに麗沙の調子は見たところ悪くなさそうだ。しかも出会ったのが黄緑のおかげか普段通りに近い。
いや、これから戦闘するかもしれない状況だから実は興奮状態なのかもな。
「さて、全員体調とかも問題無さそうだし、そろそろ行くか。」
全員俺の顔を見てその言葉に頷いた。
周りが緊張で満たされていく。
ほとんどの人が寝静まる頃に、生徒4人による救出作戦が始まった。