35話 犯人探し Ⅲ
あの事件が計画された複数犯によるものだと推測(まだ確証がないため)できたのは良かった。
だがそれ以降、一向に進展がない。
目的は本人たちに聞かないと分からないから後回しでいいとして、問題は奴らの居所、アジトが何処かということだ。
目的がなんであれ、赤ちゃんたちは誘拐されてる以上生かしておかなければ意味が無い。殺すのならその場で殺せばいいんだから。
その赤ちゃんたちを匿い、その上気づかれにくい場所という条件だけでは流石に絞りきれない。
他の条件やそれぞれの犯行現場の関係性など色々考えたり調べたりしたものの、余計混乱するばかりだった。
…まぁ訳が分からず混乱したのは麗沙だけで、俺たちは麗沙の度を超えた反応のせいで混乱したんだが。
「はぁ…限界…。もう明日に回した方がいいんじゃないの?」
その本人はとうとう耐えきれずそんな提案をした。
「まぁ…今日休んで明日考えるっていうのは悪くないけどさ。」
それよりも頭の回転悪すぎだろ、という言葉は言わないでおいた。
それを言って転移ポータルのとこまで追いかけられても嫌だし…。
「…転移ポータル?」
しまった…再び謎を増やしてしまった。
転移ポータルで既に転移したものを思い浮かべながらポータルに乗れば、それが転移したのと同じ地点に転移されるはず。
にもかかわらず、俺はあの犯人を追えなかった。
ここ最近聞かなかったポータルの誤作動が原因だろう。
そう頻繁に起こるものではないのに、なんで丁度あの、とき、に…。
「いや待て、もし…。」
もし誤作動ではなく、何らかの力が働いて犯人だけ別の場所に転移したのだとしたら…。
そんな方法聞いたことがない。けど、もし方法を見つけたのだとしたら…。
「何よ、まだ私に重労働をさせる気?正直言って──」
「悪いな麗沙、もうちょっと付き合ってもらうぞ。」
そう言って俺はパソコンに目を向けた。
零央は椅子ではなく床に座っているので、空いている椅子に座る。
パソコンの使い方は見よう見まねだが、何とかなるだろ。
俺は少し考えつつ、Aのタブを開く。
「桐ヶ谷くん、何を探してるんですか?」
「転移ポータルの記録。」
画面に目を向けたまま黄緑に答える。
「本来なら、俺は犯人と同じ場所に転移するはずだった。でも転移先に犯人はいなかったんだ。誤作動ならそれまでだけど、そうでないのなら…。」
「犯人は転移ポータルから直接本拠地へ向かうことができた…。」
そう。そしてそこが国が設置したポータルの無い場所なら俺たちは行くことが出来ない。
なぜなら、ポータルに埋め込まれている魔導石同士で繋がってる場所にしか転移出来ないからだ。
ポータル以外の場所に転移した方法も気になるところだが、今はそれよりも重要な情報がある。
ポータルは転移を実行するにあたって、転移させるものと転移先の情報を記録する。
イレギュラーな転移とはいえ、その機能が作動していたのなら…。
「もしポータルの記録に犯人の行先が記録されていれば、このページから探せるかもしれない。」
それを聞くと、全員俺の後ろから画面を覗き込んできた。
気にせずタブの中から記録を探す。
『ラスオル帝国、魔法師軍隊編成にいよいよ着手か』『今年度十三議会議員選挙、立候補者一覧』など、今は要らない情報が次々出てくる。
そうして文字と格闘すること数分。
「…見つけた!これよね!?」
帰りたいと言っていた張本人が記録を見つけた。
その記録を拡大して再び文字列とご対面した。
「誠、またここから探すの…?」
「当然だ。あとは転移先が記録されてることを願うだけだ。」
正直キツいが、あともう少しだ。
犯人がポータルを使ったのは昨日の夕方頃だ。
その時間に絞って調べていけば。
「……ちょっと待てよおい…。」
その考えがいかに浅はかだったのか思い知った。
後から知ったが、転移ポータルは1日に延べ約数万人分の記録をつけるらしい。
さらに休日の多い日には、十数万回分記録する日もあるそうで。
そして昨日はその休日。
いくら夕方に絞っても3桁は超える。
「…………よし、やるぞ。」
ここまで来たんだ、最後までやった方がいい。
それに明日に回したら絶対にやる気がでない。
こうして誰もが地獄というだろう作業が始まったのだ。
「……………。」
もはや何も喋らなくなっていた。
会話は無論、独り言さえ喋らなかったし聞こえなかった。
記録を調べ始めて5時間くらいのはずだが、実際は40分くらいしか経ってない。
麗沙は撃沈、黄緑も睡眠という名の休憩。零央は飲み物入れてくるとか言ってたような…。
こんなの研究者が……ああダメだ。思考が回らない。
とにかく終われない。
見つけないと。
それっぽい表記を見つけるのはもう、うんざりだ。
「……………………………………………あ。」
明らかに、違うものが、あった。
普通なら「西 1」というように表記されている転移先の欄に数列が記されていたのだ。
「み、みつっけたあぁぁ〜……。」
ああ、もう寝たい。
本当ならこの数字について調べ…。
「あああー『調べる』なんてワード聞きたくない…。」
当分は思い出したくもない。
「とりあえず、この数字をメモしておかなきゃ。」
そう言った途端、魔物なんかよりも圧倒的に強い眠気に襲われ、力尽きた。
間一髪のところで数列をメモ帳に書き記したから勘弁して欲しい…。
その後、ココアを人数分持ってきた零央によって無理矢理起こされ、働かない頭を何とか動かして全員家に帰った。