34話 犯人探し Ⅱ
零央の家は、居住区の六番通りにあった。
居住区は住宅が集合している区域でありその数もかなり多い。
そのため、住所を振り分けるために居住区内の道に〇番通りという名称をつけたのだ。
ちなみに三十三番通りまである。
(麗沙の怒鳴り声がまだ耳に残ってる…。)
目的の家に着いた頃には麗沙のやかましい文句のせいで疲れきっていた。
麗沙は猛獣なのではないかと一瞬思ったくらいに疲れた。
黄緑は慣れているのか、そこまで疲れたようには見えない。
ちなみに零央の家は立派な一軒家だった。国が建てた家を借りるのではなく、土地を買って自費で家を建てているあたり、零央の両親はそれなりに稼いでいるのではと思った。
「…で。本当にパソコンあるんでしょうねぇ?無かったらここまでの移動が無駄になるわけだけど。」
激情は抑えたものの機嫌の悪さを隠していない沙がそう言う。
「あるに決まってるでしょ…。嘘ついて得することがある訳でもないんだし。」
何度も聞かれてとうとう呆れたのか、零央はその問いに溜息を零しつつ答えた。
そして家のドアノブに手を掛け、戸を開けた。
「ただいま。…まだ帰ってきてないみたい。上がっていいよ。」
零央に言われて家に入ると、しんと静まり返った部屋が出迎えた。
家具の種類や配置から一般的な家庭そのものだと伺かえる。
「え、あんたの家賃貸住宅じゃなかったの…?」
「麗沙ちゃん失礼でしょ。思っても口にしないの。」
黄緑の発言に1票。見ただけで分かるだろ普通。
「パソコンは1階のこっちだよ。ついてきて。」
麗沙の発言を無視して零央は言うと、リビングらしき部屋を抜けて廊下に出て、別の部屋へ繋がるドアを開けた。
言われた通りついて行ってみると、リビングの和やか雰囲気とは打って変わって質素で必要最低限のものしかない部屋があり、その部屋に似合わない機械が机の上にあった。
「ここはお父さんの寝室なんだけど、寝る前にパソコンで作業をするからここにパソコンがあるんだ。」
零央は椅子に座ってパソコンを起動させた。
「これがパソコンか…。俺も実物見るのは初めてだ。」
持ってない自分たちは零央の後ろから興味深そうにそれを覗き込む。
「…よし。あとはこれを挿すっと。」
起動させてから数分後、下準備を終わらせた様子の零央が画面の横に例のUSBを挿した。
画面の中で「読み込み中」という言葉とぐるぐる回る映像のようなものが流れること数秒。
「…何だ、このページ…。」
黒色をベースとしたページが開かれた。
S、A、B、C、Dの5つのタブに分かれていて、今はDのタブが開かれている。
「新聞記事ばっかりだ…何なんだろうこれ…。」
画面を見てみると、零央の言う通り新聞の画像などがたくさん映っていた。
零央はとりあえずと言った感じの戸惑った動きで他のタブを開こうとマウスを動かした。
が、Sのタブを開けるにはパスワードが必要で見ることが出来なかった。
Aのタブはロックされていなかったので、開いて中を確認する。
「今度は新聞じゃなくて手紙…?」
「いや、これは論文ですよ。でも知らない論文ばかりですね。」
「『魔法発動のプロセスについての仮説』、『死者転生の魔法の現実的可能性』…、ってこの国以外の記事なんかもあるじゃないの。」
零央、黄緑、麗沙の順に次々とAのタブの特徴を述べていく。
「黄緑、さっき言ってたけどこの論文は見たことないんだよね?」
「はい。私魔法や魔法工学の論文は出来る限り確認するようにしてるので、一通り見てるはずですが…。」
だとするとその論文は真新しいものか、貴重だからこそ秘密にしなければならない情報だということ。
しかもこの国のデータだけでなく他国の政治活動についてや公表していないテロ事件に関する情報も載っていた。
(Dのタブには街中の掲示板にも載ってるような新聞、Aには外部に漏洩してはならない、またはそれほどに重要な情報…。そしてSはロックされてる…。)
それらの特徴から導き出されるこのページの内容は。
「これ、SからDの順に情報の重要性を示してるんじゃない?」
Dには誰もが知っているような情報があるのに対し、Aは限られた人しか知らない情報が載っている。
つまり、Sの情報は最重要機密であり、A、B、C、Dと下がっていくほど大勢に認知されている情報になるということだ。
それを聞いて3人も納得がいったようだ。
ということは、あの事件についても何かしらのヒントがあるかもしれない。
だから校長はUSBを渡したのか。
「みんな、誘拐事件についてのニュースが流れてるか知ってる?」
であるなら、どれだけ知れ渡ってるか分かればどのタブに事件の情報があるか分かるはず。
「いや、調べもしなかったわね…。」
「あの後調べてみたけど何も見つからなかったよ。」
「私も、何も分かりませんでした。」
麗沙は論外として、2人が見つけてないのならそれなりに規制度が高い情報なのかもしれない。
とはいえAのタブに入る程の危険性はないだろうから、あるとしたらおそらくBのタブだろう。
手を止めていた零央に代わってマウスを動かし、Bのタブを開く。
「「あった!」」
開いてまもなく、零央と麗沙が画面を指さした。
互いに違う記事を見て。
「あんた何言ってんの?明らかにこれでしょ。」
「いやこれが正しいって。そっちが見間違えてるんじゃないの?」
睨み合っている2人をよそに、画面を確認する。
「…これ、どっちも合ってるぞ。」
どちらも生まれてまもない子供が攫われるという事件について書かれていた。
「待ってください。こっちにもありました…!」
そして黄緑がもう1つ別の、しかし同じ内容の書類を見つけた。
明らかに学園警察の書類に思えたが、どうやってこんなものを入手したか気にしないでおこう。
心の内が読めないあの校長のことだ、非常識な方法で入手してるに違いない。
「あ!もう1個あった。」
再び零央が記事を見つける。
機密性の高い1つの事件がこんなに取り上げられるはずがない。
それなのに、あの誘拐事件が多数取り上げられてる理由。
それは、同時刻もしくは数日間で誘拐事件が連続して起こっているということ。
つまり、複数人による計画的犯罪と考えられる。
「はは、マジかよ。こりゃめんどいな…。」
それなりに予想してたとはいえ、こんな展開になるとは…。
そう考える一方で、そんな計画を立ててまでなぜ赤ちゃんたちを誘拐するのか、そこが引っかかった。