27話 追跡
どこだ。どこにいる。
誠は先程の悲鳴の主を「眼」も使いながら街中を走って探していた。
祐斗が帰ってすぐに聞こえた女性のものらしき悲鳴を聞いて、彼ら4人はすぐに動いた。
「ねえ、見つかった?」
後ろから追いかけている麗沙が問いかけたが、誠は振り向かずに頭を横に振った。
声の大きさからしてそう遠くはないはずだと見当を付けて付近から捜索に当たったが、まだ見つからない。
しかしようやく、「眼」の視野圏内の半径100m以内に顔に手を当てて座り込んでいる人を見つけた。
誠はその女性の下まで辿り着くと、
「大丈夫ですか!?何がありましたか?」
とすかさず聞いた。
「あ…、息子が…息子が…。」
女性は母親らしく、泣きながら誠に何か伝えようとしている。
「息子さんがどうしました?」
「…む、息子が、ローブの男に…、連れ去られ…っ…。」
それを聞いた瞬間、誠は「眼」を使い、周囲を確認した。
さっきはあの女性を見つけることに必死で気づかなかったが、範囲内ギリギリにローブを来た人を見つけた。どうやら屋根の上を走っているらしい。
誠は追いついた3人には気にも止めず、追跡を開始した。
追いつくには自分も屋根に上らなければならないと考えるが、上る手段が見つからない。
(…いや、1つある。)
前の授業で習った風の魔法。
自身の体を飛ばすようなものはまだ習っていない。だが、彼は術式演算型である。
つまり、イメージさえしてしまえば教えられていない魔法も使用可能なのだ。
(イメージしろ…。自分の足元から風が吹き上がって、それによって上空に跳ぶ…。)
魔術回路に魔力が回り始めた。
次第に速くなり、足元に魔力が集中し始める。あとはその魔力を解放するだけだ。
「すぅぅ…、行っけええぇ!」
誠が上に跳んだと同時に風が吹き上がった。
今、彼の体は普通なら届かない高い場所まで跳び上がった。
誠は屋根に転がりながら着地し、そのまま走り出した。
その時、違和感に気づいた。
さっき街中を走った時よりも明らかに速い速度で走っているように思えたのだ。
振り向くと、黄緑が手を振っている。彼女の魔法によるものらしい。
(本当に、どこでこんなの覚えたんだか…。まだどの授業でも教わってないはずなのによ。)
彼の顔には微笑が浮かんでいた。
そのままローブの男に向かって走り出した。
普段とは格段に違う走力があるおかげですぐに追いつきそうだった。
だが残り10数mのところで、突如男の背後に剣が数本現れた。
土属性魔法の応用で作られたその剣の刀身には、誠の背後の西日が彼を焼かんとするような姿が映っていた。
剣はそのまま誠目掛けて射出された。
誠は水泳の飛び込みのように前へ跳んで回避を試みる。
刃に自分の必死な顔が映っているのがはっきりと見えた。
誠はギリギリで剣を避けたが、男は第二陣を既に準備し始めていた。
次はこう上手くいかない。起き上がりながらそう判断した誠は1つアイデアを思いついた。
(あいつと同じように、氷で剣を作れば…。)
しかし練習も何もしていない誠が使えば、すぐに壊れるだろう。
だが誠は軌道を逸らせればいいと考え、それを実行に移した。
さっき風で跳んだ時と同じように、手に集まった魔力が、剣の形を作り出し、その中身、材質を氷で満たす…。
再び4本剣が射出された時、誠の手には氷剣が握られていた。
ひんやりとした冷気を発する剣を、前から飛んでくる剣にタイミングを合わせて横に振った。
敵の剣は氷剣に弾かれ、背後へ消えた。
間髪入れずに誠は2本目、3本目の剣も弾いた。
だが、真正面から力を加えた訳でもないのに氷剣は砕けてしまった。
砕けた氷の破片には、4本目の剣を首を傾けて躱す誠の姿が映った。
そのまま速度を落とすことなく男を追いかける。
(これなら、追いつける…!)
あと数秒あれば前の男を捕まえられる。
しかし、男もあと数秒で逃げられるということに、誠は気づくはずもなかった。