24話 カフェでの仕事
「さて…こんなもんかな。」
俺は整頓した自身の鍛治部屋を見てそう言った。
何せ今日はこの部屋に初めて人を招くのだから。
あの騒動の時の少年——高橋祐人君に剣を借りたお礼としてその剣を鍛え直すことにした。
ただ俺は剣を直した経験はあまりない。
剣を作ることはよくしているが直す機会がそもそもないから当然だろう。
一応直す手順は決めてあるから、大きなミスはしないと思う。
予定時間まではあと2時間ちょいか。
今日は休日だしすることがないんだよな…。
考えてから俺は自室に戻り、椅子に座って読書をすることにした。
1時間ほど読書した後、部屋のドアがノックされた。
「桐ヶ谷君、お客さんが君を呼んでるよ。」
扉をノックしたのは店長だった。
客が呼んでる?時間じゃないから祐人君ではないはず…。
常連の人もいるけど、向こうから呼ぶほど親しい人はいないし…。
……親しい、というよりは仲がいいやつなら知ってるけど…。
「あの…、その客って何人組ですか?」
「3人組だったね。そのうち2人が言い合ってるようだったけど。」
あ、もう確定だわこれ。
「はぁ…分かりました、今行きます。」
少し落胆したような気分で俺はカフェへ向かった。
戸を開けてあいつらを探——
「それじゃあ栄養バランス的に悪いって!」
「知らないわよ!私が食べたいもの頼んで何が悪いの?」
「あ、あの2人とも、周りの人に迷惑かかるからそれくらいで…」
…探す必要性がなかった。
案の定、零央と麗沙が口論してて黄緑がそれを収めようと苦労してる。
確かに黄緑の言う通り、これじゃあ周りに迷惑だな…。
よし、あの口論を止めよう。
俺は3人が座ってるテーブルに向かう。
「あ、河野く——」
バン!!
黄緑が俺の名前を言い切る前に、俺はテーブルを叩いていた。
俺の行動に揃って口を止めて俺を見る零央と麗沙。
「…とりあえずご注文はブレンドコーヒーと本日のサンドイッチでよろしいでしょうか…?」
明らかな圧をかけて問う。
いや、もはやこれは強制だな。
「…えーっと…、僕は砂糖を加えて欲しいです…。」
「…私は、ミルク入りのを頼むわ…。」
「ふぅ…、んで黄緑は?何か入れる?」
別に彼女は悪いことはしてないので、さっきの圧は消して確認する。
「あ、うーんと…、私は両方入れて欲しいかな。」
「了解しました。少々お待ち下さい。」
最後はきちんと店員っぽい雰囲気で対応して、注文した料理を取りに行った。
俺が作ることもあるけど、基本的には店長が接客中の俺の声を聞いて作っている。
なので、もうサンドイッチ3人分はもう完成しそうだった。
今日の具材はハムチーズとサラダたまご…割とシンプルだな。
ハムチーズは薄いハムをチーズで、その上からパンで挟めば終わり。サラダたまごは潰したゆでたまごとレタスが入っている。
日によってはすごいものもあったりするんだよな…。
そしてコーヒーの方はサンドイッチを作り終えてから淹れ始めた。
うちの店は料理はもちろんだけど、特にコーヒーはしっかり作る方針だから時間をかけて淹れる。
注文によっては、コーヒーと料理を同時にしないといけないこともある。
今回のサンドイッチは元から冷めてるので、そんな心配はないのだけれど。
十数分後、俺はコーヒーとサンドイッチをテーブルに持って行った。
オーダー通り砂糖やミルクを入れるのはもうしている。
「んで、なんでここに来たの?普通にカフェに来ただけ?」
「んーまぁそれもあるけど、今日誠は剣直すんでしょ?どうせなら見ようって話になってねぇ。」
と麗沙が素直にそう言った。
どうせならってそれが本命だろうが、という言葉を飲み込み、そうかと相槌しておく。
「あれ、見ること拒否しないの?」
「別に入られたら困る訳では無いしな。ただ集中するから静かにしとけとは言っとく。」
俺は時計を見る。
予定まであと40分弱か。
「店長、俺はそろそろ上がらせてもらいますね。」
「確か予定があるんだっけ。了解。」
着替えで5分、その他道具の準備とかで30分くらい。
余裕もって10分くらい残せばいいだろ。
「あ、もう行くの誠?」
「おう、準備しなきゃいけないからな。零央も手伝ってくれていいぞ?なんて。」
「冗談じゃなかったら手伝うのに…。」
「ははは…まぁ正直なところ壊されたりしたら嫌だから俺一人でやるけどさ。」
「私も多分壊しちゃいそうだな…。」
「黄緑でも慣れれば簡単だよ。それじゃ準備してくるから食べ終わったらドア通って階段の下来いよ。」
俺は3人に背を向けてドアに向かった。
途中で手を上げて挨拶していくのを、彼らは気づいただろうか。