23話 剣の修復
一太刀。
左上から振り下ろされた剣。
力を込めた剣同士がぶつかり合い、金属音が響いた。
だがその音は、どこか鈍い音にも聞こえた。
麗沙の足元に何かが飛んできた。
それは、剣。
正確には折れた刃だ。
麗沙は再び目を誠たちに向ける。
男子生徒の方は見るからに動揺している。
無理もない。あれだけ自慢していた剣が折れたのだ。
その隙を誠は当然逃すはずなく、首筋を狙って剣を振った。
いや、当たって斬れる、というところで止めた。
あんな速度で振ったにも関わらず、既のところで止めたのだ。
「何呆けた顔してんだ。この場合2つしか選択肢ないと思うけど。」
無感情な声で誠は言い放つ。
「抗うか、降参か。まぁ抗ったら斬られるだけだぞ?」
それは最後通告のようなもの。
もし抗うというのなら、誠は容赦なくその首を断ち切る。
敵と認識した相手に情けはあるはずがないのだから。
持ち合わせていた布で血のついた刀身を拭う。
何しろ他人から借りたものだ、できる限り綺麗にしないと。
使った布を見てみると、赤い血だけでなく刀身の錆も付いていた。
余程使い込まれていたんだな、この剣。
「さてと、ありがとね貸してくれて。」
「あ、えーと…はい…。」
「後さ、少し話したいことがあるんだけど…、ここじゃあ人多いから体育館の外でいい?」
少年が剣を掴んだのを確認してから、俺は話をするように促した。
「なんというか…正直、凄かったね。」
少し躊躇いの入ったような声で麗沙がそう言った。
まぁ、麗沙は誠に対してちょっと対抗心強いし、しょうがないかな。
僕たちは誠を追いながら話を続ける。
「私、魔法については勉強してるけど、剣術とかは詳しくないから凄いしか言えないな…。」
「でも黄緑はその代わりに魔法めっちゃ強いじゃん。差し引きゼロってことでいいじゃない?」
「それって差し引きの問題かな…。それはそうと、黄緑さんってそんなに強いの?」
「強いも何も、黄緑に挑戦してきたやつなんてひとひねりで倒してたわよ。」
「ひとひねりって程でもないと思うけど…。」
本人はそう言っているけど、実際は誠と同じく凄いことだ。
彼女の小学校がどこかは知らないけど、もしここじゃないのなら魔法の授業を受けないで返り討ちにできるほどの魔法を使えているということになる。
…もしかして、普通なの僕だけかな…。
麗沙は誠に戦いを挑むくらい自信あるみたいだし。
(もっと頑張らないとな…。)
誠の背中を見ながら、僕はそう考えていた。
「というわけで、今回のお礼がしたいからぜひその剣を鍛え直させてほしい。」
体育館からある程度離れたところで、俺は少年にそう言った。
「え、鍛え直すって…。」
「うん。俺がその剣を新品同様くらいまで直したいんだ、さっきのお礼として。」
「誠くんって剣を直せるんですか?凄いですね!」
黄緑が興味ありげにそう言った。
「俺、剣使いたくてさ、だけど納得のいくものが全然見つからなくて…。それなら自分で作っちゃえ、て。」
「へぇー。誰かに教わりでもしたの?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれた零央くん。これも独学だ。」
俺の発言に驚く一同。
「…独学って、なんでまた…。」
「人付き合いはなかったものだから。」
少しドヤ感を出してる俺に、少年が戸惑いながら誠に聞き直した。
「あの、本当にいいんですか?わざわざ直してもらうなんて…。」
「だって、その剣大事なものなんでしょ?」
少年は頷く。
「だったらむしろ使ってあげなきゃ。剣は戦うためにあるのに飾ったりするのはもったいないし、壊れてもまた鍛え直せるんだからさ。」
そう、剣は使ってこそ剣だ。
例えそれが傷ついて汚れた剣だったとしても、最後まで使わなければ剣にも作ってくれた人にも申し訳ない。
少年は少し考えて、
「…はい、じゃあお願いします。」
深めのお辞儀をして、少年は剣の修復を俺に頼んだ。