21話 気になる声
「それにしても、3時間目はいい運動になったぜ。」
4時間目が終わり、充実感でいっぱいの俺はその言葉を発した。
2時間目の授業の次、3時間目は選択授業で魔法師か魔法騎士、つまり魔術か剣術かの授業をした。
魔術師 (魔法師)の方は魔術を用いた戦術的な話を、魔術騎士 (魔法騎士)の方は剣技を教わった。
無論俺は魔術騎士を選んだが、教えられたのは正当流派と言われるアイゼル流の剣術だった。
正直、流派とかには興味はない。
俺の剣は我流、自分で自分に合った技を磨いてきた。
今更別の剣技を身につけろと言われても難しいので、先生に相談したところ、それなら自主練でいいとすんなり了承してくれた。
おかげで自分の思うように剣を振れて良かった。
4時間目の内容は割愛していいだろう。
魔術や魔物やらの歴史の授業をしたのだが、何しろ最初の授業だ、特に取り上げる程の出来事は無かった。
「それはあんただけでしょ。私なんてただ知識を教えられるだけの、あんたの言う暇な時間だったわよ。」
因みに、零央と川満さんは魔術師の方を選択した。
残る麗沙も、言葉からも分かるように魔術師を選んだのだが…、どうやらお気に召さなかったようだ。
ご本人は拳で戦うのが好きらしく、そのための技も鍛えたらしい。
でも、「殴り掛かる魔術師」なんて聞いたことはない。
当然ながら、魔術師か魔術騎士かからしか選択出来ず、それなら黄緑のいる方がいい、と魔術師の方を教わることにした。
「選んだのは自分だろ。別に使えないこともないかもしれないし。それと、俺も名前呼びでいいよ。いちいちあんたって言われるのやだし。」
「そう?じゃあ…っ、えっと…。」
あれ、名前言ってなかったっけ?
確か言ったはずなんだけどな…。まいっか。
「誠だよ。1回言ったはずだぞ?」
「う、うるさいわね!」
「あ、それじゃあ私も黄緑でいいですよ。1人だけさんずけされるのも嫌ですし。」
川満さ…いや、黄緑も会話に入ってきた。
確かに仲間外れ感が出るしな。
「分かった、じゃあそうする。それにしても…。」
何でこの4人で集まってんだ?
今は食堂へ向かっているのだが、俺、麗沙、黄緑、会話には参加してないが零央がいる。
前から友達って訳でもないのだけれど…。
「そういえば、魔法騎士の授業はどんなことをしたんですか?」
そう聞くのは黄緑。
「えーっとー…実は俺、我流で剣振ってるから授業あんま聞いてないし、自主練させてもらったし…。」
「我流って、具体的にはどんなのなのよ?」
「それも詳しくは決めてなくて…。知識というより、身体で覚えたって感じだから…。てか零央、さっきから何してるの?」
「ん?ああ、さっきの授業面白かったから見返してるんだよ。」
ノートを見ながら歩いている零央は、俺の問いにそう答えた。
やっぱり真面目だなぁ。
「…あんた、真面目人間なの?」
「はぁ…もう真面目人間でいいよ…。」
麗沙の発言に流石に呆れる零央。
どうやら本人はそう呼ばれるのは嫌いらしい。
「何よ、事実を言っただけでしょう?…ん?」
麗沙が振り返った。というか横にある中庭の方を見た?
「どうした麗沙、虫でもいたか?」
「そんなわけないでしょ!?虫だったら逃げっ、いや何でもないわ。」
逃げる?何で?うーん…虫嫌いなのかもな。
「何か、声がさ。泣き叫ぶとまではいかなくてもそんな声が聞こえた気がして。」
声…。そんなこと言ってもなぁ…。
今この廊下には食堂に向かってる生徒が大勢いる訳だし…。
「もしかしたら誰か困ってるのかも。麗沙ちゃん耳結構いいから、小さい音も聞こえるんだよ?」
「自分のことの様に言うんだね…。」
今のは零央の言葉。
ノートを見てても話を聞いているらしい。
「あ、長い間一緒だからね。ついそう喋っちゃうというか。」
話を聞く限り、聞こえた声は多分本物だろう。
泣き叫ぶ、ねぇ…。
「…確認してみるか?」
「うん、僕もちょっと気になるな。」
「あんな声聞いて無視なんて出来ないでしょ。」
「泣いてるなら困ってるかもしれないよね。」
零央、麗沙、黄緑の順に俺の言葉に応じた。
どうやら全員意見は同じらしい。
「じゃあ行くか。」
てかなんで4人で行くんだろう…。
まあいっか。自由時間も終わっちゃうし、さっさと行って昼飯を食べることにしよう。