16話 初授業
ホームルームの静寂先生の話も終わり、俺は氷属性の教室である1-6に向かう。
まぁ少し歩くだけだが。
俺の教室(さっきホームルームをした教室のこと)は1-2なので、零央は隣のクラスに行くだけで済む。
正直羨ましい。
と思っていたら、目的の1-6にもう着いた。
流石に教室4つ分しか離れていないから、そりゃすぐ着くか。
ドアを開けて中に入ると、使われていない席が少し多い気がした。
1時間目は主力属性の授業のはずだ。つまり主力属性が氷のやつはやはり少ないということか。
正面の黒板に書かれている席に座り、昨日配られた教科書等を取り出す。
それを机の端に揃えて置くとすることがないので、右肘を机に立てて頭を手に乗せて待つことにした。
「それにしても魔術ねぇ…。」
俺は今まで、戦いに関することは剣しか触れてこなかった。
今日から魔術を学んで、本当に打倒魔王という目標へ前進出来るのか、正直不安な面もある。
けれど、強くなれるかもしれないというのなら、どんな事でもやってみせる。
——ふと、手に何かが乗った。
閉じていた目を開けて、机に乗っている左手を見る。
手の甲にあったのは、桜の花弁だった。
そういえば、家のすぐ近くにあった桜の木の周りでよく遊んでたな。
その桜の木も、もうない。
そして、一緒に遊んでいた、烈花も…。
鳴り響くチャイムによって、物思いにふけていた俺の意識は現実に戻された。
少し慌てて立てていた肘を下ろし、授業開始を待った。
今は魔王を倒すことなんて出来るとは思ってない。
だから努力を積むしかない。
剣の修行だってそうだった。
今となっては当然のように振れる剣も、長い日々修練に励んでいた成果だ。
魔術だって同じのはず。ならやるしかない。
そう自分に意気込んだ。
復讐心ではなく、肯定的な感情で。
先生が教室に来るのは、それから1分半くらいたった頃である。
「バタバタしてすいません!えっと、今年度の氷属性の授業を担当する、鞘野美奈です。初担任なので緊張していますが、よろしくお願いします!」
自然と拍手が起こる。そういう先生なのだろう。
さっき1分弱遅刻した少しおっちょこちょいで、でも穏やかそうな女性の先生に、教室の生徒は好印象を持っているように見える。
まぁこういう性格の人って、王道のラブコメ小説とかでよくヒロインになりそうだもんな、と率直な感想を考えてみる。
「あ、そうだ。最終確認するけど、みんなは主力属性が氷属性の人達だよね?そうじゃない人、いたらすぐ移動しておいてね。」
なるほど、この人は当たり前のことを当たり前にする人なんだと思った。
普通属性、もとい教室を間違えるなんてそうそういない。
けど、そこを確認しておくことは確かに重要だろう。
「…誰もいないね。よし!それじゃあ授業を始めて行きます。気を付け、礼。」
ようやく、初めての魔術の授業が始まった。