14話 友達
「しっかし、あの素材もダメか…。」
学校に向かう道中、夜に行った鍛治のことを思い出していた。
あの素材なら、俺の発想を実現出来ると思ったんだけどな…。
他のどの材料なら上手くいく?
従来の魔結晶を使ったもの——周囲の魔力を使って武器を強化するのではなく、また別の方法で代用出来ないか…。
その考えをどうしたら可能にできるか思案しながら、学校の門を通った。
足元を向いていた顔を少し上げると、少し見覚えのある道を歩いていた。
「…あ、そうだ。」
昨日の帰りに切明直幸さんから風紀委員へ勧誘されてたんだ。
風紀委員か…、んーどしよ。
少し思案してみると、1つの考えが浮かんだ。
つまり状況が状況なら魔術を使ってもいいってことだよな?
まぁ魔術を使う場面なんてそんなに無いだろうけど。
でも取り押さえるために体術や関節技(使うか?)だったりを行使してもいいのか。
うーん、と考えること3秒。
「よし、あの人の話に乗ろう。」
あっさりと決めた。
そもそも人の役に立つの好きだし。
確かに目的は魔王への復讐だが、それ以前に俺は学生だ。(まぁ魔術学校という常識とは離れた場の、ではあるが)
なら普通の学生らしく、やりたいことをやってもいいだろ。
「昼休みにでも行けばいいかな…。」
そんな風に考えていると、肩をポンと叩かれた。
振り向くと1人の男子生徒——零央が手のひらを上げて「おはよう」と挨拶してくれた。
当然俺は零央に同じ挨拶を返す。
あぁ、やはり1人でも友達がいると安心する。
小学生の頃は、左目の眼帯のせいや、修行と言ってあまり登校していなかったこともあり、友達と呼べる人はいなかった。
友がいるのといないのではこんなにも気分が違うのかと、俺は驚嘆した。
どうやら表情に出ていたらしく、零央がどうしたのかと聞いていた。
俺が自然になんでもないと流すと、それ以上の追求も関心も無かった。
「それにしても、誠って来るの結構早いんだね。寮じゃなくて商業区の店に住んでるんでしょ?」
「へぇ〜、この時間で早いんだ。うん。正確には、商業区の魔法商店街と生活商店街の中間あたりのとこ。まぁポータルからは歩いてるけどさ。」
ちなみに、前に学校から半径5kmは中世風の街並みと言ったが、その端っこは高さ5m程の壁で囲まれている。
壁の中は中央から順に、魔術学校がある「学区」、人が住む「居住区」、主に店などが建っている「商業区」、経済的な仕事をする「政治区」と言った感じで仕切られている。
だが、居住区だからって店を建ててはならない訳ではなく、結構チラホラと店がある。
大型のとなると商業区に行かないとないが、基本的に居住区だけでも生活は出来る。
そして学区は、魔術学校を中心とした半径約2km内を指している。
区と区を移動する際は転移用ポータルでひとっ飛び。
ポータルを使わないで移動するのは体力によっぽど自信があるか、ただのバカだけだ。
「え!もしかして商業区から歩いてきたの!?」
商業区から歩きでここまで来るとなると、入り組んでる街の裏路地を使っても約3kmある。
いくらなんでも、それならポータルを使ってから歩いた方が格段に早い。
「いや、商業区のポータルまで歩いて、そこから学区まで転移したんだよ。」
少し慌て気味で零央の考えを否定すると、だよねぇという回答が来た。
笑いも一緒に。
友達がいなかった俺にとって、他人と笑い合えることはとても嬉しいし、大切なことだ。
やっぱり彼と友達になれてよかった。