13話 炎、熱
打つ。
打つ。
打つ。
打つ。
熱で柔らかくした延べ棒を金槌で打つ。
鍛治部屋に入って20分、俺はその作業を繰り返していた。
傍から見れば、ただ打っているだけの単純な作業に見えるかもしれない。
だが実際やっているのは難しいものだ。
最初のうちはまぁ適当に叩いてもいい。でも途中から剣のひし形のような形をイメージしながら、打つ場所を考えて叩かなければならない。
形が整っていないものは当然鋭さが損なわれる。
始めた頃は思った1本にならなくて悔しかったものだ。
剣は叩き終わった。
でもまだやることはある。
表面の凹凸を無くすためにヤスリにかけたり、作っておいた鍔や柄を取り付けなければならない。
いつものことだが、普段より時間がかかっている。
「…今日疲れてんのかな。」
そう呟くがやることは変わらない。
これが求めている1本になることを願いながら、俺は剣を完成に近づけていった。
———炎。
辺り一面の炎。
1つの街を炎が覆っている。
当然ながら、その中に足を踏み入れることが出来ない。
みんながいるのに、何故踏み入れられない。
何故。
早く。
早く。
前に出ろ。
足を出せ。
前に……………………。
前を向いた時、炎は消えていた。
いや、違う。
炎、ではない。
街だ。
街が消えた。
地面から抉り取られたように消えていた。
飛来したのは虚無感。
悲しみも怒りも苦しみも、あとから溢れ出したもの。
僕の心は。
無だった。
———炎。
いや違う。熱だ。
おそらくこれは溶鉱炉の熱。
その熱を感じた皮膚から、だんだんと感覚を戻していく。
「…ん……。んん……。っ、寝落ち、したか…。」
あの夢。
久々に見るなと思いながら、俺は頭をつけている机からゆっくり起き上がる。
その机には、両刃の剣が置かれていた。
「…結局、普通の剣になっちゃったな…。」
やっぱり魔結晶製の剣、魔術的補助のかかった剣の方がいいのかな……。
そんなことを考えながら、ポケットに入れていたスマホの電源をつけてみた。
「…5時12分。あと15分くらいか。ちょっと急ご。」
毎朝5時30分頃から俺は、運動能力を鍛えるためのメニューを行っている。
まぁ走り込みだったり、筋トレだったり、剣を振ったりしている。(使っているのは鍛えた剣。試し斬りのためでもある。)
俺は準備しようと鍛治部屋のドアのところに向かう。
そこで思い出した。
「あぁ、学校の準備も必要か…。」
俺は昨日、正確には一昨日に、魔術学校に入学したんだ。
昨日眠りそうになりながら聞いてた話じゃ、結構必要なものがあるようだ。
「はぁ…。もう少し早く起きようかな…。」
そう考えながら、俺はドアの向こうへ行き、戸を閉めた。