11話 勧誘
現在、午後5時15分、場所は風紀委員会室。
委員会のメンバーは本部と呼んでいるらしいが、そんなことはどうでもいい。
室内には、俺と風紀委員長の切明直幸先輩がいる。
おそらくさっきの騒ぎについてだろうと思って来た訳だが、どうにも待遇がおかしい。
いや、別に貴族と同等の待遇って訳では無いが、(この国に貴族はいない)先輩は深刻そうな顔をしてないし、茶は出てくるし。
どう見てもこれから怒られるやつにする対応ではないと思う。
とりあえず出された茶を飲んでみる。
…うん、悪くない。
出されたのは俺が少し苦手な緑茶だったが、これはすんなりと飲むことが出来た。
「さて、それじゃあ単刀直入に言いますね。」
俺が茶飲みを置いたのを見てからそう切り出した。
何が言われるんだ?選択肢は俺の中で2つある。
1つは、さっきの騒動の関係者として事情聴取や懲罰の対象にされること。
もう1つは…。
「是非風紀委員会に入ってくれませんか?」
…どうやら後者が正解だったようだ。
まぁそうだろうなと思ってたよ。だって好意的な印象しか受けてないんだもん。
俺を気味悪がるようなやつはすぐに分かる。昔はいつもそういう目で見られてたからな。
だが彼からはそんな感情は一切感じなかった。
「…質問いいですか?」
「えぇ、もちろん。」
大抵の質問には答えられる準備をしているらしい。
「では、俺を推薦する理由は何でしょうか?先程の喧嘩での対応ですか?」
ほとんどはその理由で薦めるはず。ならこの人はどうだろうか…。
「確かにそれもあります。でも何よりも、風紀委員でもない君自ら仲裁に入ってくれたことです!」
…え?
「そ、そんな理由ですか?」
「そんな理由なんて!ここの生徒はみんな風紀委員が面倒事を引き受けてくれると思ってしまっているんだ。わざと事件を起こす人もいる…。そんな中、なんと新入生の君が本来僕達のやるべき仕事を受けてくれた。こんなこと今まで無かったよ…!」
えぇ…、ここの風紀委員そんな感じなの…?
これは何とかしないとと思った。だが同時に、「あの目的」に支障が出ないか心配になった。
「じゃあもう1つ聞きます。風紀委員の仕事って具合的に何をしますか?」
もしこれで俺の特訓の時間を削られるのなら、仕方がないが受ける訳にはいかない。
「分かりました。じゃあ説明すると——」
彼の説明は、具体的にこんなものだった。
一言で言えば、風紀を守ること。
まぁ名前にもあるから当たり前だが、騒乱が起こったら止めたり、服の着装や所持品の確認など、学生らしい振る舞いや態度を守ると言い換えれば分かりやすい。
他にも、学校一の実力者を決める「魔術学校実技披露大会」や「全世界魔法学校大運動会」などでの生徒の護衛を魔術師や魔術騎士と一緒に行うという。
ちなみに余談だが、以前俺は「魔法師」、「魔法騎士」と言った。今回別の言い方だったことは…、特に意味は無い。
世間的には「魔法使い」と呼ばれているため、魔術だろうと魔法だろうとどうでもいいのである。
魔法世界的には「魔法」が使われているのだが、罪に問われたりなんて大袈裟なことにはならない。魔法という存在を認識出来ていればいいと言うことだろう。
——閑話休題
「という訳で、返事は明日以降の一週間にお願いします。是非入ってください、桐ヶ谷さん!」
話すことを全て話した後、切明先輩はそう言って俺を教室から出した。
今の俺の気持ちとしては入ってもいいと思う。
こう言っちゃあれだが、要は実戦が出来る機会があるという訳なのだ。
学校の治安や印象も守れて一石二鳥…なんだが。
「果たして障害になるのか否か…。」
俺は1つのことが不安だった。
あの目的の達成が遠くなってしまうのではと。
そう、あの。
魔王をこの手で倒す
という目的が。
それを考えながら、俺は家へと帰っていった。