10話 解決
誠を殴った男子生徒は、そのまま二撃目を放つ。
胸を狙って一直線に迫る拳。
当たった。と思った時には、男子生徒の腕は身体の向きを横にした誠に掴まれていた。
そのまま誠は砲丸投げのように生徒を投げ放った。
「がはっ…!」
格闘戦をしたことがないのか、生徒は背中から来た衝撃に狼狽えていた。
それからすぐに、もう1人の男子生徒が突撃してきた。
誠はその生徒の方を向いた。だが、彼はなんの構えもしていなかった。
生徒が拳を持ち上げ、近づいてくる。
目の前まで来た時、誠は一回転した。
回転しながら、その生徒の背中を手で払うように押し、立ち上がろうとしていた先程の生徒と衝突させた。
「ぬぁ!…っ、てめぇ…!」
「何ですか?」
生徒の顔が一瞬ピクっと動いた。その開いている目から、動揺しているのが見える。
背中からでも感じるその気配。
「僕の方からは一切手を出していません。それはあなた達が攻撃してきたことに対して行った、最低限の防衛行動です。僕に攻撃の意思は無いですよ。…それとも、」
誠は男子生徒2人の方を向く。
「俺に拳を振れと言ってるのか?」
正面を向いたことでさらに気配——殺気が強く感じられた。
今この場にいるほぼ全ての人が感じたことの無いこの殺気というものは、男子生徒2人の戦意を喪失させるのに十分な効果を発揮した。
あぁやっちまった。
まさか喧嘩みたいなことになるとは…。
殺気も彼らにだけ向けて出したけど、本当は使いたくなかったのに…。
俺は後悔や残念さで心がいっぱいだった。
(いけないいけない、こんなことしてる場合じゃない。さっさとこの場を収めないと。)
溜め息と深呼吸が混ざった息を吐き、言葉を口から出した。
「それじゃあ確認します。2人はなんでぶつかっちゃったんですか?」
俺は同じ新入生の女子2人に向けて問いかけた。
「あ、えっと、…2人で話しながら歩いてたから…です…。」
1人が素直に話してくれた。
「次に、先輩方2人は?」
振り向くと、2人とも俺から目を逸らしていた。
「…俺らもあの新入生と一緒だよ。」
そのまま1人が、渋々そう言った。
なら答えは1つに限られる。
「では、今回は両方の注意不足ということですね。ならこれから気をつけた方がいいと思います。…俺も新入生だから、生意気に聞こえちゃうかもしれませんけど…。」
そして俺は小さく頭を下げて、群衆の中から抜けていった。
流石にあの場に残ると面倒だろうと思ったから、そのまま帰ることにした。
「あ、誠!また明日ね!」
途中で零央がそう言ってくれたので、俺は手を振って返事した。
群衆から十分離れたところで、
「いってぇ〜…、地味に痛かったな。」
左頬を手で押さえながら、帰路を歩く。
ふぅ…。これでやっと昨日買った素材を試せる。
「そこの君!少しいいかな?」
…どうやら1日はまだ終わらないらしい。
この道で人はまだ見かけていない。つまり俺に向けて言っているのだ。
はい、と言って振り返る。
「ありがとう。俺は風紀委員の切明直紘だ。ついてきてくれるか?」
直紘と言ったその人は、喧嘩や身だしなみなど、生徒の規律、風紀を守る「風紀委員」であった。
あ、もしかしてさっきのあれか?今はニコニコ笑ってるけど、この後めっちゃ怒るパターンか…?
俺は内心がっかりしながら彼について行った。