第1章 幼少期 5話
名前はリリア。
リリア・アルカナリル
アルカナリルって言うのは性だ。
これが俺のこっちの世界での妹になる。
「レイ。 貴方もこれでお兄さんね。 リアの事守ってあげて頂戴ね?」
優しい顔でミリルが言う。
クランはデレッデレの顔で何か言っているが言語は理解出来ない。
俺は……戸惑いながらも
「リア…よろしく…」
と、一言。それが限界だった。―――
――――リリアが生まれてから2ヶ月が経った
俺は魔法の練習と、書斎の本の熟読で忙しい毎日だ。
なのでリリアには数えるぐらいしか会っていない。
いや。言い訳だ。
本当は怖いだけ。
元世で溺愛していた妹を失ったあれを、もう1度味わうのが。
だから極力接触をさける。
心で最初から割り切って置くのが1番良い…
そんな日々を過ごして更に時が経ち、リリアの1歳の誕生日パーティーの日になった。
その頃の俺は4歳にして、初級魔法の使用制限が70と言う数に達していた。
本からの知識と照らし合わせると、少し才能がある魔法使い程度にはなっていた。
あくまでまだ初級魔法しか打てないが。
最近では、クランとミリルが心配しているのも伺えた。
レオはリアを避けているのでは無いか。と。
実際そうなのだが、少しだけ気を付けてはおこうと思う。
2人の前だけでも良い兄ちゃんを演じておこう。
リリアの誕生日パーティーには祖父母も来た。
俺の時とそう変わらない人数も来た。
貴族の長男と変わらない数と聞くと少し可笑しな話だが、リリアの場合は嫁に貰って仲を深めたいという魂胆の貴族が主だろう。
何せうちは侯爵家だったのだから。
侯爵と言えば、公侯伯子男の順で公に継ぐ2番目。
確か公爵とは王族の爵位。
その次となればだいぶ偉い。
そして煩わしい。
まぁ貧乏な家に生まれるよりはマシか。
リリアの誕生日パーティーも面倒この上無かった。
主役は勿論リリアなのだが、俺にも挨拶やら何やらが大勢来てウザかった。
早く魔法の訓練をしたい。
そんな事しか考えていなかった。
あの頃とそんなに変わらないな。
と、脳内で自嘲した。
それから更に1年が過ぎ―――
俺は5歳になった。
リリアは2歳になった。
最近ではリリアがちょくちょく俺の後ろを着いて回る。
嫌なので撒くか、イリアに目配せして排除して貰う。
あまりやり過ぎると泣かれて面倒なのでたまには付き合ってもやる。
魔法の方は順調の一言。
今では初級魔法を6つ使える。
初級風魔法ウィンドウェアー
ウィンドカッター
ウィンドショット(前方に風圧を飛ばす)
初級水魔法ウォーターショット
ウォーターウェアー
ウォーターカッター(ウィンドカッターの水版)
大体初級なんて種類自体もそんなに多く無いので同じ様なものだ。
つまらない。
なので同じ魔法でも形を変えてみたり込める魔力を変えてみたりして実験中だ。
5歳になり、簡単な体力作りなるものをやらされ始めた。
本当は秘密裏に行っている魔法の訓練に注力したかったのだが、この体力作りの特訓中はリリアに付き纏われる事も無かったので、渋々だがやっている。
教えてくれているのは、剣術の家庭教師として呼ばれたゲイルと言う人。
ゲイルは、左目には眼帯、頬には傷、といういかにもみたいな40代前半の男。
髪の色は、付けている装備品と同じ真っ黒だ。
そして見た目が怖い。
しかし腕は1流らしい。
剣術の世界にもランクは存在するらしい。
初級、中級、上級、最上級、神級。
魔法と一緒だ。
一般人が訓練に訓練を重ねて中級。
ゲイルは最上級に位置するらしい。
そんな人に5歳児が教わってても良いのだろうか?
凄く疑問だ。
しかし相応の金を叩いているのであろう。
それなら遠慮無く教えて頂こうかな。
顔怖いけど。
とは言えやる事と言ったら、素振り、走り込み、素振り、走り込み、そして素振り、走り込みだ。
これ最上級剣士に教わる必要ある?
とかも思うけど、まぁ5歳で出来る事なんて限られてるし普通か。
剣術指南では無く体力作りが主だし。
そんなこんなで朝は勉強、昼は体力作り、夜は魔法特訓と、結構ハードなスケジュールをこなして行く。
前世の俺からは考えられない程だ。
親父とお袋は元気かな…
ほんの少しだけそんな事も思いつつ、日々は過ぎていった。
―――――俺は、8歳になった。
ハードな特訓の末、俺は初級剣士の肩書を手に入れた。
魔法も今は中級魔法も使える程になった。
最近では魔力総量が全く伸びなくなった。
恐らく8歳になるまでが勝負だったのであろう。
とは言え今では初級魔法ぐらいなら4桁は日に打てる。
中級魔法でも100ぐらいは余裕だ。
本の知識と照らし合わせると、上級から上をまだ扱えないと言っても、魔力総量だけの資質で言ったら相当なレベルだ。
あくまで初級と中級しか扱えないけど…
リリアは5歳になった。
今でも俺の後をついて回る。
正直避けているけど、それでも可愛いと思ってしまうから困っている。
これ以上感情が持っていかれるのは避けたい。
ただ…冷たく接する事は凄く難しいのだ。
それが今の俺の最大の悩みでもある。
「うむ。中々良くなって来たな。 お前は目が良い。 今はまだ力も速度も不十分だが、その歳でそこまでやれるのは一重にその目の良さのお陰だろう」
「はぁっはぁっはぁっはぁっ…ありがとうございます!はぁっはぁっはぁっはぁっ」
「そろそろ次の段階に移っても良いかも知れないな」
「はい!お願いします!(うわー…めんどくさ〜…)」
等と思いながらも逆らわない。
顔が怖いからだ。
初級剣士を賜った俺の今のメニューは、走り込み、型、素振り、そしてゲイルの攻撃を見切る。
俗に言う亀○方式だ。
お陰で体力は結構付いて来たと思う。
とは言え、俺が目指しているのは魔法使いだ。剣士では無い。
この訓練自体も、リリアを避けるのに丁度良い。が、大半を占めていた訳で。
だが今となっては面倒臭い。疲れる。と言う感情が殆どだ。
ゲイルの顔が怖くて逆らえない。
この理由だけで剣術の訓練を仕方無しに続けている。
「とりあえず一旦休憩にするか」
「うっ…はい!」
「うむ」
休憩…それは走り込みを意味している。
殺す気か…
「今日は俺も一緒に回ろう」
「えっ…(手を抜く事すらも出来ないのか)恐縮です!」
「うむ」
今現在敷地を半分ぐらい回った所だ。
「はぁっはぁっはぁっはぁっ」
「うむ。久々だなこの辺りに来るのは」
「はぁっはぁっはぁっはぁっえっ?はぁっはぁっせんっせいっはぁっはぁっ前にもっ来た事あるんっはぁっですか?はぁっはぁっ」
「あぁ。お前の父、クランとは昔からの馴染みでな。」
初耳ー!つか涼しげに喋ってんなやっ
「お前が産まれる少し前に仕事でこの地から暫く離れる事になってな」
「はぁっはぁっそうなんですねっ」
「ああ」
「はぁっはぁっ先生ってはぁっはぁっ普段なんのっはぁっはぁっお仕事されてるっはぁっはぁっですかっ?」
「秘密だ」
「はぁっはぁっそうっはぁっはぁっですっかはぁっはぁっ(うざっ)はぁっはぁっ父様っはぁっはぁっとはっはぁっはぁっどんな関係でっ?はぁっはぁっ」
「うむ。まぁ昔一緒にダンジョンに行ったりな」
(ダンジョンて…侯爵家の嫡男が?)
「はぁっはぁっそうなんでかっはぁっはぁっ羨ましいですっはぁっはぁっ」
「なんだ?そう言うのに興味があるのか?」
「はぁっはぁっはいっ!はぁっはぁっ一度はっはぁっはぁっ行ってみたいものですっはぁっはぁっ」
「ふむ。そうか。ならもっと鍛えておかないとな」
(死にたい…)
「よし。次の段階に入るか。今日から実践を意識した訓練に入る。」
「はぁーはぁっはぁーはぁっじっはぁっですかっ?はぁっはぁーはぁっ」
「ああ。これから走り込み、型の反復、それを一通りやったら、俺との打ち稽古だ」
(殺すか…)
「はぁーはぁっよろしくお願いします!はぁっはぁーはぁっ」
「うむ。では構えろ」
(いつか殺す…)
「はいっ!」
滅多打ちにされてこの日の稽古は終了した。
(こいついつか殺す………)