銀髪の青年
随分と柄の悪いお兄さんだなぁと僕は顔を引きつらせた。この父親は随分とワイルドだったが、大人であった。それに比べてお兄さんは失礼ながら中身が子供である。
「はあ!? 何で俺が城に案内しないといけないんだよ!? 勝手に行けよ!!」
行けたら勝手に行きますよ。行けたらね。頭がパーなのかな?
「おめぇ。どうせ暇だろ? 兵士って言っても、ここは治安良いしやる事ないだろ?」
へー。このお兄さん兵士なんだー。兵士って儲からないのかなぁ。ズボンぼろぼろだしきっとそうなんだね。可哀想。
「……なぁ。気のせいか、コイツ俺を哀れんでないか?」
「お前が馬鹿丸出しだからだろ。ほれっ! 早く案内してやれ! 俺は忙しいんだっ!」
「……良いのか親父? 俺が何故ここにいるのか本気で分からないのか? ただ暇だからじゃねぇぞ」
「む?」
「この弁当が目に入らぬかぁああああ!!」
「ぬおおおおお!? 寄越せええええ!!」
「やなこったぁ!! 俺は城に行かないと行けないらしいでな!! あばよっ!!」
「まてぇえ!! 俺が悪かった!! 息子よ!! お前は馬鹿ではない!! 料理の出来る馬鹿だ!!」
「はっ!! 今更謝っても遅えよ!! バーカバーカ!!」
……仲良い親子だなぁ。
「んでよ。お前は何で城に行くんだ?」
銀髪の青年は案内しながら、僕に問いかけた。
「えーと、親衛隊に誘われまして……」
銀髪の青年はピタリと歩みを止めた。
「親衛隊って、まさかあのブルーノ総隊長が率いるローズ親衛隊か!?」
へー。ローズ親衛隊って言うんだー。初めて知った。
「そうです」
僕は頷き、知ったかぶりした。
「くうううぅ! 羨ましいぜっ! どうやって入隊したんだ!?」
「あっまだ入隊って決まった訳じゃないです。ブルーノさんにお世話になりまして、その時に有難くも誘ってもらいました」
「へぇ。お前戦えるのか? それか魔法が使えるとかか?」
「一応魔法が使えます」
そういえば、ブルーノさんは僕が魔法使えるって知らない筈……。 何で僕は親衛隊に誘われたんだろう。
「だろうなぁ。力は無さそうだし、魔法以外無いよな」
……ん? 僕ひょっとして馬鹿にされた? この中身がパーの人間に?
「シャーーッ!!」
僕の耳に愛しいグレーちゃんの声が聞こえた。グレーちゃんがピンチみたいだ。 僕はグレーちゃんの元へと駆け出した。
「どこいくんだーー!?」
グレーちゃんの声がした方へと走るとさっきの港に辿り着いた。
漁師を含めた人々が雲が所々に広がる青い空の先に注目していた。人だかりの背後に灰色の猫が一匹いた。
「グレーちゃゃん!!」
空に向かって毛を逆立てていたグレーちゃんは僕に気付くと駆け寄って来た。感極まった僕はグレーちゃんと再会のハグをしようと手を広げ……すかっ 僕は虚空を抱きしめた。そろーと背後をうかがうと、グレーちゃんは建物の影に隠れていた。目が僕に「あれをどうにかしろ!」と言っている気がする。……分かったよ。どうにかしたら今度こそハグしてね! 一体何が起きてるか全く分かんないけどね!
さっきの銀髪の漁師が人々に「男は女子供を避難させろ! 兵士はローズ親衛隊を呼んで来い! 残りの戦える奴は俺と此処を守るぞ!」と指示をとばした。僕以外の人はそれに素直に従った。この銀髪の漁師はそれだけ信頼されてる様だ。
ただ事では無さそう。僕は銀髪の漁師に近寄り何があったのか問いかけた。僕に気づくと渋い顔をされた。
「……なんだ。戻って来たのか。いいか坊主。今からドラゴンがここに来る。だから、なるべく遠くに逃げろ」
えっ。ドラゴンが来る? えっ。でも結界が王都を守ってる筈だよね? どういう事?
漁師達が「あれはドラゴンだよなぁ」と空を見て険しい表情で話し合っているが僕には全く見えない。
肌に強く吹き付ける潮風。この風になら意識をのせれるかもしれない。
僕は、真実か否か調べる事にした。胸元に閉まっていた短剣を取り出し柄にはまった精霊石に魔力を注ぎ能力を解き放つ。意識を風と同調させた。
僕の視界に広がるのは港の上空。人々は小さい豆粒に見えた。港を風にのり離れていく。大海原が広がり、港が遠くなった。青空が黒く霞む。その中心には黒い鱗の赤目のドラゴンが一匹いた。
禍々しい気に触れ、親から叱られて落ち込んだ時の気持ちを思い出した。
ドラゴンの細長い瞳孔の目と合う。大きな口が開き、赤い炎が僕に直撃した。