王都エディフィス
時は家出した今に戻るね。今僕は魔法を使えるという長所を買われ、商家の荷馬車を護衛してるよ。もちろん、目的地はブルーノさんがいる王都エディフィスだ。王都に近くなればなるほどドラゴンが襲いに来る確率は低いのだけど、人口密度が高い分盗賊に襲われる危険があるんだって農家のおじさんが教えてくれたよ。
人口密度が高い……僕の免疫大丈夫かな……。
僕は荷馬車の隅に座っていたのだけど、商家の娘さんが僕に話しかけてきた。
「君可愛いね。女の私より可愛い。ねぇ王都に何しに行くの?」
と、年頃の女の子に話しかけられちゃったよー! どうしよう! どうしようー!! って可愛いって何だよ! 僕の事完全に異性として意識してない!! その証拠にチカイ!!
「……あの。近いので離れてくれませんか? 王都に何しに行くかは僕の自由です」
つい、冷たい言い方になってしまった。だってさ。だってさ。女の子なんだよ? 一番免疫ないかもしれない。それに、カテドラル王の親衛隊に入るって言いたくないんだ。僕はブルーノさんについて行くだけなんだよ!
女の子は気にしてないのか「ふーん。見た目と違ってクールなんだ。ギャップ萌えってやつ?」とか意味不明な都会用語を言う。
「クール? ギャップ萌え?」と僕は戸惑いました。所詮僕は、田舎者ですからね。……別に気にしてないですけど?
「ふふふ。まぁいーや。じゃあね〜」
小悪魔な笑みを浮かべて彼女は僕から離れていった。……これが都会の女か……。田舎の女もよく知らないけど、何を考えてるか読めない。
そんなこんなんで着きました王都エディフィス。家出した当初はカテドラル人に差別されるのでは? と警戒したけど、そもそも言語も見た目もそんなに変わらないのにセメタリー人だと判断するのは難しい。僕の心配は杞憂に終わった。屋敷に引きこもっていた自分に言い聞かせてやりたい! 少し考えたら、父の言葉が嘘って分かるだろ! まあカテドラル人を見る機会なんて全然無かった訳だけど。
話を戻して僕は王都エディフィスに着いたよ! 商家の娘さん達とお別れです。あの女の子去り際に僕に投げキッスしてきました。別に、嬉しくないですよ! ええ! これっぽっちも!!
僕はスキップしながら街を散策しました。右を見ても人、正面を見ても人、左を見ても人。……いやぁ。やっぱり人口密度高いなぁ。僕は数秒で癒しを求めました。港に行き目的の方を探します。あっいたいた!
「にゃおお」
灰色の大人の猫が僕に近づいて来ました。顔が小さいから雌だね! 僕は動物を男女差別しないよ! どっちでもウェルカム!
「よしよし〜。可愛いな〜。は〜癒される〜」
僕が顎のあたりをかくと猫ちゃんはグルグル喉を鳴らした。うちにも猫がいた。名前はブラックくんとホワイトちゃん。ブラックは黒猫の雄でホワイトは白猫の雌だよ。え? 大体予想出来てた? そっかぁ。じゃあ、この子はグレーちゃんって呼ぼう。ブラックくんとホワイトちゃんも連れて来れたらどんなに良かったのか。あっでも猫ちゃんを旅に同行させるのは絶対に駄目だよ! どっかの魔女の様にパートナーにするのは現実では非常に難しいよ! 猫は家に住み着くからね! 意地でも家に帰るからね!
……とまぁ。余談は置いといて僕はそろそろ旅の目的であるお城に行きましょうかね。絶対人多いけど仕方ないよね。僕は銀髪に褐色の肌の漁師に道を尋ねた。古傷の跡が残った片目は閉じており、堅気には見えない。僕はひょっとしてヤバい人に話しかけてしまったのかもしれない。その漁師は僕を見て固まった。
「……は? お前何でここにいる?」
……やはり僕は間違った人に道を尋ねてしまったようだ。僕は「すいませんでした〜」とその場を去ろうとしたが、がしっと肩を掴まれた。太い指が肩に食い込む。僕は抵抗したけど、びくともしません! 絶対絶命のピンチです!
ふっ。短い人生であった。僕は家出した事を絶対に後悔しない。
死を覚悟した僕は強制的に正面を向かされ、鋭い片目で不躾に顔を見られた。蛇に睨まれた蛙の気分でした。
「随分と雰囲気が違うな。あの時は相当荒れてたなぁ。……っと悪い。やっぱり、人違いだった。忘れてくれ」
僕は無事解放された。多分一生忘れないだろう。
「で、坊主は良いとこの坊ちゃんか?」
「えーと、まぁはい」
外の世界を見て思ったのだけど、僕は結構恵まれていた方かもしれない。使用人は普通は家にいないそうでした。びっくりでした。
銀髪の漁師は片目を細めて僕を観察した。
「……従者もいねぇのか。服の質は良いが汚れてる。おいおい、まさかと思うが家出か?」
何故バレたし!?
「その様子だと当たりか。大方、父親と喧嘩して、家飛び出して、王都で出世してやるって感じか。若いな〜」
別に出世はしなくても良いけど、それ以外当たってる。怖いこの人何者!?
「まぁ、頑張れや。俺は忙しくてここを離れられないが代わりに息子が案内する。おーい! 馬鹿息子!」
「だっれが馬鹿息子だっ! この馬鹿親父!」
これまた銀髪に褐色の肌の青年がやってきた。ズボンが所々破れてて可哀想だった。
「おっ偉い偉い。ちゃんと自分が馬鹿だと分かってやがる」
銀髪の漁師は息子を指差し、ゲラゲラ笑った。息子は悔しくなり顔を真っ赤にして怒った。
「このやろおおお!!」