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ぶっちゃん

 

 ?


 誰か呼んだ?


 木製の家の窓から外を見るが白壁の建物があるだけで誰もいなかった。


「……おい。何残してやがる」


 不快な声に僕は室内へと視線を戻す。皿の上にちまっと残る茹でた人参を指差しロイは目を潜める。


「まさか人参嫌いか?」


 うるさいなぁ。人参なんて食べなくても生きていけるし。


 プイッと顔を背ける。


「……俺様の料理を残すとは良い度胸じゃねぇか?」


 ロイは人参をフォークでぶっ刺し僕の口目掛け突っ込む。それを僕はギリギリのところで避けた。


 あっぶなっ。人参なんて食べたくないんだけど!


「チッ」


 ロイは今度は僕の顎を掴んだ。力が強すぎて骨が軋みそう。僕は抵抗した。


「これ食ったら直ぐに解放してやるよっ!」


 物凄く悪い顔で笑ってやがる!! チンピラめっ!? 絶対に食べてやるかっ!!


 漢同士の一歩も譲らない実に下らない戦いは意外な形で幕を落とす。


「ブヒッ?」


 フォークに刺さった人参を物欲しげに見上げる小さな豚。小さな瞳は人参からロイへと視線を移す。


「豚?」


 僕が不思議に思いそう呟くとロイは訝しげに背後を振り返ると固まった。


「ぶっちゃん……」


 え?


「ぶっちやややんっっ!?」


 ひえぇぇぇっ。ガチ泣きだ。気持ち悪い。


 ロイは涙を流しながら小さな豚を抱きしめた。それに応える小さな豚。


「ブヒィィ!」


 ……この豚感激してる。


「でも……死んだ筈じゃ?」


 ロイは豚がいる事に心底不思議がっていた。


 どれどれと豚に触れて魔力を流し込み調べてみると、なるほどなるほど。


「これは幽霊だね」


「はっ? 触れるぞ?」


「うーん。これは魔力の残滓で触れるんだね。ドラゴンも肉体は魔力で形成されてるんだ。それと一緒」


「ドラゴンと一緒って……」


「もしかして、ドラゴンが来た時にこの豚も紛れ込んだかもしれないね」


「マジかよ。ぶっちゃん……」


「この豚はロイが心配で仕方ないってさ。だから、成仏出来なかったんだ」


 豚の分際で幽霊になるとは驚きだ。まるで未練を抱える程の知性を備えてるみたいだ。


「ぶっちゃん。ごめんな。俺はもう大丈夫だ。おふくろが死んでからずっとお前に依存していたが、もう俺は強くなった。だから、心配しないでくれ」


 豚はロイの瞳をうるうる見つめる。それを僕は冷めた目で見る。


 ……豚って食べる為の物だよね? ロイさっき余裕で豚料理作ってたよね? 何これ? 何この感動的なシーンは?


「ブヒィィ」


 豚はだんだんと姿が薄れてきた。


「ありがとうなぶっちゃん」


 ロイが豚を見つめる瞳は優しくて、誰だコイツ? とつっこみたい。


 豚の姿は光の粒となり空気中に消えた。ロイはそれを見てまた泣き出した。僕は男の涙にちょっと……いやかなり引いた。





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