序章
一面に広がる黄金色の小麦畑。
絵でしか見た事のない僕には涙が出そうなぐらい美しいと思える景色だった。
同時に屋敷の中しか知らない僕がどんなに惨めで哀れな存在かを思い知らされた。
けど、もうそんな自分にはさよならだね。
黒髪のあの人が言ってくれたんだ。
『貴方の居場所はここではない。共に道を切り開きましょう』
父や母、周りの使用人達が信じられなくなった僕はその人の下へと行く事にした。父がこっそり箪笥にしまっていたお金を失敬して僕は屋敷を抜け出した。暫くがむしゃらに走った。途中で疲れたので農家のおじさんが牛に荷馬車を引かせていたので僕も乗っけてもらう事にした。
そして今に至る。
アンニョイな僕は歌を口ずさんだ。なかなか見事な歌声であろう。
「……なあにいちゃん。そのひねくれた歌詞どうにかならんか? 気が滅入るというか何というか」
荷馬車に乗っけてくれたおじさんが話しかけてきたので僕は振り向いた。目が合うとちょうど日差しで眩しかったようでおじさんの小粒な瞳が更に小さくなった。
「そうですか? 僕は気に入ってますよ?」
僕はにこっと笑った。おじさんは「……ああそう」と諦めて牛の手綱を引いた。
今日から僕の人生は変わる。そう、狭い世界からの脱出。そんな僕にぴったりの歌。
「今日は狭い世界からの旅立ちの日〜♪ 家では父が絶対で〜♪ 母はそれに従うのみ〜♪ 子供に拒否権ある筈もなく〜♪ あ〜あ〜やんなっちゃう〜ね〜♪」
牛が僕の歌を気に入ったのか「もぉ〜」と鳴く。
そうか。祝福してくれるのか。いい牛だな。
本当は小さな世界を歌って欲しかったけど、著作権に引っかかると思うので辞めました。「せーかいはせーまいー♪ せーかいはせーまいー♪ せーかいはせーまいー♪ ただひーとーつー♪」