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血ノ刻印

作者: のうらん

紳士淑女の皆々様



ご機嫌麗しゅうございます。


今宵、闇夜に浮かぶ物語の案内人を務めますのは私、

ジーネルでございます。


是非とも、おやすみになられる前に少しだけ…

耳を傾けてください。


きっと良い夢を見られることでしょう。



それでは、まず始めにとある兄弟の話を致しましょうか。


題は『血ノ刻印』




昔々、とある街にそれは仲の良い兄弟がおりました。

生まれた時から仲が良く、ご飯を食べる時も、お風呂に入る時も、港や市場に買い物に行く時も常に一緒。

周りに住む人達も、2人が別々に行動してる所は見たことが無い程だったそうな。


そんな彼等も成人し、昔からの2人の夢だった本屋さんを開業しました。

その本屋には、他の国の書物や専門書など、ありとあらゆる知識達が集まっており街の学生は勿論のこと、

新しく手に職をつけたい大人達までこぞって詰めかけました。


大繁盛した本屋の噂はみるみる広まり、街からずっと離れたスラム街にまで届き、時々、そこからろくに学校にも行けず、ましてやご飯も食べれていない子がお店を覗くようになりました。


それを見兼ねた弟であるイベータは、兄のセザータに相談しました。



「なぁ、セザータ。最近うちの近くに来るようになったスラム街の子達。どうしようか。追い返すのも可哀想だし…」


「そうだな…。あ、店を手伝ってもらう…ってのはどうだ?」



そんな発想、考えてもいなかったので驚きはしたものの、面白くて楽しそうな事が好きなイベータはすぐに賛成し、その日の夜にまだ店の近くにいた子供達に声をかけました。



「よぉ、最近俺達の店の近く彷徨いてるみたいだなぁ」



そんなヤクザのような台詞とヤクザのような人相で現れたセザータに子供達は怯え、中には泣き出す小さい子までいました。

そうするとすぐにイベータが後ろから現れ、



「おーよしよしよしよし。こら!セザータ!セザータは顔怖いんだから少しは言うこと考えろ!」



と、子供を泣かせたセザータに対してお説教。

怒られてる怖いおじさんを見てか子供達は少しずつ笑顔になっていき、声は小さいが少しの笑いが生まれました。


そして空気が和んだのを感じたイベータは子供達にこう告げました。



「明日の朝、皆向こうにある川で身体を洗っておいで。洗ったら直ぐに俺達の店の前に来ること。いいね?」



そういって小さく切られた石鹸を子供達に配りました。

子供達は訳が分からないまま石鹸を渡されたので、どうしたらいいか分からず固まってしまいました。


それを見たセザータが、



「とりあえず今日はお前達の住んでる所に帰りな。明日の朝のことはまだ秘密。楽しみにしとくといいよ」


と声をかけました。

すると子供達は「うん!」と言って住んでいる場所に帰っていきました。





そして次の日の約束の朝、

子供達が店につくと、セザータが待っていて手招きして店に入るようにと促しました。


店に入ると焼きたてのパンと出来上がったばかりのコーンスープの良い匂いがするではありませんか。


子供達は目を輝かせ、セザータとイベータを見つめました。

それをみた2人は



「さぁ、席について」

「まだ食うなよー」

「それじゃあ皆でいただきますって言おう。いいかい?せーの」


『いただきます!』



子供達は、大勢で美味しい食事が並んでいる食卓を囲むのは初めてなので、無我夢中で口に運びました。

まだ手元の覚束無い小さな子供にはセザータがせっせと手伝っていました。


そして食べ終わったあと、イベータは子供達を本が沢山並んでいる仕事場に呼び、本題を話し始めました。



「皆今日の朝ごはんは美味しかったかい?」

『うん!』

「そうか。それは良かった。今日の朝ごはんはね、君達の報酬だよ」



すると子供達から疑問の目を向けられたイベータはこう続けました。



「昨日の夜、俺は君達に身体を洗ってからここに来いと言った。これは俺とセザータが君達に頼んだ立派な仕事だよ」

「そう。仕事をした奴にご褒美を上げるのは当たり前だろ?今日の朝飯が、その立派な仕事をしたお前達へのご褒美だ」



突然、仕事だと報酬だと言われた子供達は理解しきれてない様子だったのでイベータは



「働かざる者食うべからず!君達を、俺達が働かせる!ちゃんと働いたら、食わせてやるし勉強を教えてやる!」



子供達はその言葉を聞いて迷うことなく、やる!と言いました。



その日からセザータとイベータは、子供達に、本の陳列の仕方を教えたり、掃除や買い物を手伝わせ、その報酬として、子供達と晩御飯を食べ、寝る前は皆で文字の読み書きの練習をしました。




そして月日が過ぎ、初めて子供達が来てから半年が経った頃、とある男達が店にやってきました。



「いらっしゃい…と言いたいところだけどもう今日は店じまいなんすよ。立て札見えませんでした?」

「そりゃあすまないねぇ。店が明るくて見えなかったよ」



と返した男は名刺を取り出しセザータに差し出しました。

その男達は政府の人達だったので

不審に思ったセザータはうちに政府が何の用だと聞くと男は



「いやぁね?この店にスラム街のガキが入り浸ってるっていうんで見に来たんですよ。おや?そこにいるガキのことですかねぇ」

「…こいつらは何も関係ない」



そして子供達に裏に戻るように、イベータを連れてくるようにと伝えました。



「困るんですよねぇ…スラム街の連中が街に来ると治安が悪くなる。それに連中が街に入り浸ると街の印象は地に落ちる。それに財政も傾いちゃうでしょう?まだ子供だから良いものの…汚い大人連中が来たらそれこそ大惨事だ。」

「あんたら…言わせておけば…!」



セザータが掴みかかろうとした所を子供達に聞いたイベータが止め、



「すいませんねぇ。お客人にお茶も出さずに。まぁ、立ち話もなんです。奥の部屋で話しましょうや」



と、男達を奥の部屋へ促しました。

その部屋は、子供達には絶対に入ってはならないし、聞いてはいけないと伝えていた部屋だったそうです。


その部屋が開く所をみたことが無い子供達はこっそりとあとを付けましたがセザータに直ぐに見つかり、一番年上の子供に皆を寝かしつけ自分もちゃんと寝たらお前には明日のおやつの林檎をウサギの形に向いてやると報酬を伝え、部屋に戻るようにと優しく言いました。



そしてその部屋にセザータも入り、

話し合いを始めました。



「良い雰囲気のお部屋ですねぇ。これはお二人の趣味で?」

「えぇ、まぁ。ここだけは暗い雰囲気の部屋にしたかったので小物なんかも拘りました」



などと日常会話を始めた男に対してお付の男が時間が無いと急かしていました。



「そうだな…ふむ。先程の本題に戻りましょう…とその前に…えー、お兄さん?」

「なんだ」

「こんな暗い中でしかも客の前でサングラスは非常識やしませんかねぇ。表情もあってこその会話でしょう?」



成人したころからセザータはサングラスを、イベータは決して胸元を開けない服装をしていた2人はゆっくりと顔を見合わせ、イベータが頷き男達に話し出しました。



「スラム街の話より先に…我々の話からしましょうか」

「すまないがそんな時間は無いんだよねぇ」

「まぁ、そう言わずに。冥土の土産にでも聞いてくださいよ」



早く話を終わらせたい男に対してイベータはゆっくりと口を開きました。



《人には、絶対に他の人に言えないような秘密を持ってるもんです。

その秘密が、セザータのサングラスと、俺の胸にあるんですよ。


我々が成人した頃ね、我々は時々妙な感覚に襲われました。何かに飢え苦しむような…身体が何かを欲するような感覚を。


それが次第に強くなって、二人とも制御がきかなくなってきたある日、両親が死にました。

両親は身体中の血を抜かれて、まるでミイラのような姿で死んでいたんです。


それを見たり聞いた人達は吸血鬼の呪いだなんて噂をしてました。

両親が死んだ夜、我々二人は今までにない感覚がありました。

空腹が満たされた時のようなあの満足感。2人して喜びました。



あの苦しさから解放された! とね。



もうそろそろ何が言いたいか分かってきたんじゃないですか?

そう。両親を殺したのは我々です。


実の両親を殺しました。

セザータは母親を。俺は父親を、刃物で首を掻っ切った。

それだけです。


じゃあ何故血が抜かれていたのか…それこそが俺達の秘密です。》





「ここから先の秘密は、身をもって体験して欲しいなぁ。セザータ」

「そうだな。刃物は安いフルーツナイフで充分なんだよ。俺達の秘密はこの血ノ刻印だ」



男達の腕や足を切りつけた後、

セザータはサングラスを外し、イベータは一番上まで閉めていたシャツのボタンを数個外し血ノ刻印を見せつけました。

そして刻印が光りだし、男達の傷から刻印にかけて無数の血の糸が出てきたではありませんか。


刻印に血の糸が繋がった瞬間からみるみる男達は痩せこけていき、最後には骨と皮しか残っていませんでした。



「久々だったけど、やっぱり気持ちがいいねセザータ」

「こういう害悪な人間を殺すのもまた気持ちがいい」



そういって二人とも不敵な笑みを浮かべたあと、そっと身だしなみを整え、死体を誰にも見つからない場所に捨て、子供達の眠る部屋へと行きました。



「またこいつらを脅かす奴が来たら…その時は…」

「分かってる。いくらでもやってやる。守る為にこの力を使おう」






そうしてその街には時々、政府の人間などの行方不明者が出ましたが、それに2人が関わっているとは知らない子供達は今日も本屋を手伝い、学び、大きくなって2人の元から自立した子も居たそうです。









はてさて、この2人は血ノ刻印の力を正しく使えていたのでしょうか。

使う人によって矛にも盾にもなるこの刻印…

貴方は欲しくなりましたか?

守りたい人がいるのならば、使っても良いのかもしれませんね。


この物語はここまで。



貴方も、誰かにとって守りたい人を脅かすような発言をしたら寝ている内にミイラになっているなんて事も…あるかもしれませんねぇ。







おー 怖い 怖い 。






それでは、ゆっくりおやすみなさいませ。


良い夢を。






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