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黒魔導士の逆召喚(アンチサモン)  作者: 王立魔法図書館
シンギュラリティ
9/12

§2 戦姫 黒い魔術

遅くなりました!ついに魔術を使用します!

 昼休みが終わり、俺達A組の五時間目の化学は突如自習となった。始業二日目で先生の体調不良とはなんとも気の毒なことだが、立て続けに刺激的な出来事が起こり脳みそがオーバーヒートしていた俺にはちょうどいい時間となった。

 俺は、アリス、凛、劉と連れ立って転校生を図書館に誘った。あちらの世界にも図書館の類はあるらしく、とても興味深そうな顔を浮かべて彼は誘いに乗った。


「ここは歴史書。ここは物語。向こうは技術書か!十分立派だ!王宮の書庫以外にここまで本が並んだ書庫は見たことがないぞ!ハハッ!」


 なんとも上機嫌だ。おそらく、彼の国に印刷技術はない。たかが学校の図書館にここまで喜んでもらえると、人間として鼻が高い気分になる。


ドンッ!


「今日はこの本を読むことにするぞ!」


「おいおい......。」


 積み重なった分厚く古い本の山、その数は優に三十冊を超える。我らが新都科学技術学園の一コマの時間は五十分。異世界出身のチート転校生にも読めて一冊が関の山といったところだろう。


パラパラパラ......。


 席に着いた彼は、手に取った本を一冊、また一冊、ただ端から端までパラパラと捲り、先ほど作った本の山の隣に別の山を築く。彼の紅い瞳は、やはり宝玉のごとく光り輝き、薄暗い図書館の中でまっすぐ目の前の本を照らしていた。

 しばらく呆然としていると、そこにあった数十冊の本の山がそっくりそのまま順番が逆になり、真横に移動していた。


「流石に疲れるな。今日は寝る。」


 呆然とした俺の向かいで本の山で遊んだ彼が、今度はいきなりうつ伏せになって眠りについた。本の山を見つめる。その中の一冊の江戸時代の本が目についた俺は、一つ意地悪を思いついた。


「江戸幕府十一代将軍は誰か分かるか?」


「徳川家斉。そんな簡単なことで我を煩わせるな。静かに勉強でもしていろ。」


「はいはい。」


「それと、その知識はあの女教師の頭ん中にあったぞ。」


 これ以上聞くのは野暮だと思い、俺は諦めたように化学の教科書を開いた。本日の自習の時間はとても有意義な時間となった。


ーーーーーーーー


 自習の時間も終わり、本日の時間割は終了。俺はいつもの四人組と魔界の転校生コンビを合わせて六人組となった新グループで学校を後にした。


「アリス、急なお願いを聞き入れてくれてありがとうございます。」


「シアなら喜んで!狭い家で申し訳ないけど。」


 シアの本日の宿がアリス宅に決まったらしい。彼女達がいつの間にあれほど親しくなったのかは一切不明であるが、あの二人の気が合いそうなのは分かる。強い女同士ーー。こんなことは口が裂けても言えない。


「それは良いな。女、我も泊めろ。」


 昨日からアリス一筋のこっちの転校生が突っかかるのは予想通りである。


「誰がアンタなんか泊めるもんですか!変態!」


「本日は女子会ということですね、アリス。」


「はい!」


「女子会いいなぁ!アリスぅ、凛も泊めてぇ。」


「もちろん!」


 ご機嫌な女性陣を微笑ましく見つめる。

 ふと、そんな俺たちを刺すように見つめる、幾多の視線を感じた。


「これは生きづらい、な、」


「そうだね。」


 当然劉も視線に気がついたようだ。アリスは外見だけならめちゃくちゃ可愛いし、凛だって愛嬌があり、誰にでも優しくて少し放っておけない感じが人気である。そして、突如現れた女神ーーシアが新メンバーとして加わった我々の下校グループが、羨ましいはずがない。


「敵か?消すか。」


「いや同じ高校の制服着てるだろ!」


 そしてこの見当違い。気の休まる暇もない下校である。


ーーーーーーーー

 

 メインストリートに着くと、本日も凛の食べたいものをみんなで食べるタイムが始まる。本日のメニューはこれまた気まぐれで肉まんに決定した。


「これが肉まん......ですか。」


「シアのお口に合えばいいな。あーん。」


「はむ......。」


 シアにべったりなアリスが肉まんの一塊をちぎり、口元へと手を伸ばす。これが異世界間で初めてなされた百合行為であろう。強い女二人とはいえ美少女、尊さすら感じる。恐る恐る口に肉まんを入れたシアが、その美しいエメラルドの瞳を大きく見開く。


美味(びみ)です。味が深い......。辛いのにどこか甘いです。人界の庶民は皆このようなものを食べているのですか?」


「別にいつも食べてるわけじゃないけどねー。喜んでくれてよかった。まだまだあるからね。はいあーん。」


「はむ......。」


 一塊、また一塊とシアの口に肉まんが注がれていく。なるほど、シアの話から推測するに、魔界とやらには調味料の類があまり無さそうだ。おそらくうちの黒い居候も、初めて人界の料理を口にした際はさぞかし驚いたであろう。

 また俺の考えは彼に読まれてしまったのだろうか。


「あちらには塩と油しかないからな。剣姫が驚くのもわけない。」


「あら、その名前で呼ばないで欲しいのですが......悪魔くん?」


「貴様こそな。」


 転校生コンビが口を開くたびにビリビリと空気が割れるような心地がする。色で例えるならば白と黒。二人の気が合わないことはよく分かった。


「ねえ悪魔くん、なんでシアのこと『けんき』って呼ぶの?」


「だから貴様もその呼び方を改めろ......。あの女、シア=セレネーはセレネー王国の第二王女でな、長女が歌姫と呼ばれるのに対して剣の姫、剣姫と呼ばれている。」


「じゃあシアは剣の腕前がすごいということだよね?」


 劉がシアに尋ねる。シアは口に入っていた肉まんを飲み込むと、静かに口を開いた。


「ええ。これでも王都の剣術大会では三年前から毎年優勝しています。」


「シアすごい!」


 アリスがシアに羨望の眼差しを向ける。シアがここまで一人の人間に夢中になっている様子は初めて見た。


「まあ我が出ていない大会で優勝と言われてもなぁ。」


「ならば出ればよいではないですか。」


 相変わらず二人の視線は激しく痛い。まさに犬猿の仲である。


 その刹那、もう一つの線が真横を刺したような気がした。俺はその線をとっさに辿った。


カランカラン。


「迅、よく気がついたな。今度は間違いない。」


「こんな街のど真ん中で......?」


 俺たちの数メートル先に金属の小さな塊が転がっていた。ついに見慣れてしまった、銃弾が弾かれる光景が今度はメインストリートに広がっていた。銃弾は随分と遠くに転がっている。銃声は聞こえなかったが、銃弾の転がった先に煙がうっすら立ち昇っていた。

 シアが立ち上がる。


「二時の方向に五人......狙撃手ですか。」


「今更殺し屋なんて雇って殺せるとでも思ったのか?笑わせてくれる。おい貴様ら、下がれ。」


 ギロっと紅い光が二筋差した。やはり彼の前では気が抜けない。一緒に買い食いをするクラスメートが一瞬にして侵略者の顔つきになった。


「私もやります。」


 いつの間にか右手に海のように美しく、青く光る細剣を握ったシアが一歩前に出る。


「要らぬ。いいか剣姫、教えてやる。我と貴様は招かれざる客だということだよ。」


「誰のせいでそういうことになっているのかお分かりですか?」


「ああ。その詫びと、そして貴重な人界の書物を読ませてもらった礼だ。魔術というものを見せてやる。」


 そう言ってシアを制すると、こちらもいつの間にか制服から着替えていた黒衣から出した両手、そして両翼を目一杯開いた。強い向かい風が俺たちを襲う。


バリバリバリ......。


 向かい風がさらに強まり、黒衣の下の地面が割れる。気のせいだろうか、視界にも亀裂が入ったような気がする。


ギュッ。


 黒衣の先の目一杯伸ばした両手を握りしめる。


「グハァッ。」


「アッー!」


 煙が立つ方向から響くいくつかの悲鳴。何が起こったのか分からない。視界が更に割れる。


「彼が黒翼の悪魔と呼ばれる所以(ゆえん)、それはあの翼、そしてあの魔術です。空間を支配する禁忌の力ですよ。」


 クルリと黒衣を翻し、その真紅の双玉はこちらを指す。割れた視界が元に戻っていく。


「黒魔術。四大元素を超越した力だ。」


()()()......。相変わらず貴方の魔術は見ていてよく分からないものです。魔術をお見せするなら、四大元素を扱って見せた方が見栄えがよかったのでは?」


 シアが苦笑する。その右手の先に剣は既になく、ヒューヒューと小さな渦巻きが舞っていた。さっきまでの上品に笑う美しいお姫様と同じ人とは思えない、幾度と見たあの嘲笑うような背筋のスッとする笑みと全く同じ笑みを浮かべていた。


「綺麗な顔が台無しだぜ?プリンセス。」


「まったく......。嫌味にしか聞こえませんね。」


 渦巻きが解け、紅い光がスッと引く。シアが振り返り、アリスにいつものように頰を緩めて微笑みかける。


「さあ、帰りましょう。」


「えっと、うん......。」


 突然非日常的な光景に巻き込まれ、刹那のうちに日常に帰るーー。こんな光景、簡単に受け入れることができないのが正常な反応である。


 ただ一人、凛だけはすぐにいつものテンションに戻り、三人はパジャマパーティの会場となったアリス宅へ向かった。本日も夜はまだ長い。

まだ謎に包まれていますね、魔術。

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