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黒魔導士の逆召喚(アンチサモン)  作者: 王立魔法図書館
シンギュラリティ
2/12

§1 世界の終わりの日 降臨

主人公、登場です。

 二◯六十四年 四月一日 火曜日


 これはエイプリルフールの冗談であってくれ。チャンネルを変える。変える。変えるーー。


 すべての局が同じ映像を流す光景に、目を疑った。疑うしかなかった。

 高校生の迅が知る中で世界最強の存在、アメリカの大統領が、黒い翼をつけたコスプレ高校生みたいな奴に泣きながら土下座している。あの大統領はモノマネ芸人だよな。最近話題のあいつだ。そうだろ?


 ただ、コスプレ男のカメラの向こうの俺達を嘲笑うような、あの真っ赤な目は一体何だ。まったく朝から心臓に悪い。


「ハハ、朝から冗談キツイぜ。」


 迅は夢だと信じたくて、この夢から一刻も早く抜け出すためにベッドに戻った。


ーーーーーーーー


「......ぃちゃん、おにいちゃん、おきてーー!」


 そんな悪夢から迅を救ったのは、妹の蘭の声。時計を見るともう10時。まだ四月一日、休暇とはいえさすがに寝すぎか。蘭はとっくに朝ごはんを作り終え、食べ終えたのだろうか。今日はリビングからいい匂いがしない。


「...…ふぁぁ。おはよ、蘭。お腹すいた。」


「おはよじゃないよ!おにいちゃん、蘭たちどうなっちゃうの?」


 蘭がこれまで一緒に過ごしてきた十二年で見せたことのない顔をした。こんな物憂げな、少し艶めいたようなうっすら紅色の頰に、潤んだ瞳。

 ただ、今は蘭の顔色にとやかく言えるような状況ではないらしく、


「蘭たち、黒い羽根のおにいちゃんに侵略されちゃうの?」

「...…え?」


 悪寒がした......これまでにないくらい。蘭も同じ夢をみたのだと信じたかった。

 ただ、微かにリビングから聞こえるテレビの向こうの悲鳴、サイレン、そして銃声。この物騒な立体音響は夢とは信じ難かった。


「とりあえずテレビ見るわ。蘭、おにいちゃんがいるから。大丈夫だから。な?」

「......うん。」


 妹のまっすぐな黒髪を、自分の胸を撫でるように撫で、言い聞かせた。


 精神を強く持て。動じないように。そう決意して蘭とともにリビングに向かった。

 

 ただ、そんな決心は刹那のうちに塵となった。


バン。バン。


 黒い翼の男に向けられる銃口。放たれる轟音。......そして、倒れる()()()


「うっそだろオイ......。」


 反射するのは光だけにしてくれ。

 俺の願いが画面の向こうに届くはずもなく、その漆黒の衣に身を包んだコスプレ男は、時折銃声の響くアメリカ・ホワイトハウス内を優々と後にする。大統領府で侵入者に銃口が向けられ、撃った人が倒れていく。スタジオのアナウンサーが呻くような悲鳴をあげる。エイプリルフールの冗談にしてはキツすぎる残酷な光景。

 それでもやはり、その真紅の双玉はカメラの向こうの俺達を嘲笑っていた。


 当然、血塗れた光景をお茶の間に映し続けるわけにはいかなくなった各局は、映像を録画されたものに切り替える。LIVEの文字が消えたその映像こそ、夢だと信じたかったあの光景。

 廊下の真ん中を堂々と歩き、大統領の前に仁王立ちする黒翼。大粒の涙を流す、"世界最強"、だった男。

 

 とりあえずチャンネルをウジテレビに切り替える。こんなニュース、ウジテレビのアイドル、太秦(うずまさ)ちゃんの声で聞かないと壊れてしまいそうだ。


「ふぇぇ......。え、えと、繰り返します!日本時間で四月一日九時ごろ、く、黒い翼の生えた、十代半ばくらいの身長180cmほどの白人の男がアメリカ・ホワイトハウスに突入し、警備を突破して大統領の執務室へと乱入。大統領の首を掴むや、英語で『魔界と友好条約を結べ』と発言しました。大統領のSPなどが対応にあたりましたが、男を抑えることができずに負傷。警察や軍も出動する非常事態となりました。」


 首根っこを掴まれ、震える大統領。掴みかかったはずが、宙返りするようにちぎっては投げられる屈強なSP達。泣き叫ぶアメリカの長、ポリー大統領。

 

 そして()()()()を残し、颯爽と帰っていく男ーー。


 その動画クリップの一つ一つが、にわかに信じ難い光景だった。目を背ける。背けたその先には、隣で怯えていたはずの蘭。


「黒いおにいちゃん、イケメンだぁ。」


 さっきまでの艶めきは恋に落ちた顔だったのかと言わんばかりに、蘭は目をキラキラさせる。

 さてはこいつ、恐怖感というものはもうなくなったのか。先ほど一瞬で消えた自分の決意が馬鹿みたいだ。まったくお子様は気楽でいい。


 気づけば正午を回っていた。エイプリルフールは4月1日の午前で終わり。画面上の光景は真実であると、地球の自転は今年も告げる。


ーーーーーーーー


 二◯六十四年 四月七日 月曜日


 この日からの一週間、テレビはこの騒動の一部始終のみをただひたすら流し続けた。魔界と友好条約だの、男が日本に来るだの、日本の高校で学生として暮らすだの......もう頭には入ってこなかった。

 ただ俺の、一乗寺迅(いちじょうじ じん)の高校二年生の春休みは、空っぽのまま終わってしまった。


 気がつけば始業式。いつもより気持ち早めに登校して二年A組の面々を確認するも、皆が動揺を隠せない表情を浮かべており、とても高校生の新生活とは程遠い雰囲気を醸し出していた。


ガラガラガラ。


「おはようございます。A組の担任となりました、祇園舞(ぎおん まい)です。よろしくお願いします!」


 なんというか溌剌(はつらつ)というか、焦っているというか。いつもよりテンション高めの舞ちゃんが、このクラスの担任らしい。二十代半ばの美人教師が自分のクラスの担任なわけだ。去年から知っている女性とはいえ、本来はもう少しリアクションすべきだろ男子。

 皆が皆、この程度では驚くまいと肝が据わっている。


「......えっと、皆さんご存知かと思いますが、転校生をご紹介します。入ってください。」


 辛うじてテレビから耳に入ってきた記憶を思い出してしまった。またあの日まで感じたことのなかった悪寒に襲われた。視界は縁から漆黒に染まっていくようだった。最悪の事態を受け入れる覚悟をするには、春休みは短すぎた。


 新生活を告げた二年A組のドアが、終わりを告げる。


ガラガラガラ。


 その真紅の双玉と真っ先に目が合った。入ってきた黒翼の男は、テレビの向こうで見た黒の衣ではなく、なんと我らが新都永田科学技術学園の制服に身を包んでいる。

 ただ、違いといえばそれだけで、その二筋の紅い光は、テレビの向こう側での彼と同じく俺を嘲笑うように刺していた。


「セレネー王国軍総司令官とか、黒翼の悪魔とか言われているものだ。仲良くしてくれ。フフ。」


 なぜだろう......不思議と悪寒は消えた。もう一度広がった視界に映った彼は、漆黒のオーラと裏腹に、疑いなく純粋な好意を向けていた。

ここまでで実質プロローグです!シリアス展開でごめんなさい!次回からは黒魔導士様のトンチンカンなコメディも披露できるかと。

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