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背面黒板のラブレター  作者: 東源雷頸華
2018・19年末年始
17/20

真夜と乃亜のはなし2

「好みのタイプ?」

 私はこたつに足を突っ込んだまま首を傾げた。

「そう。好みのタイプ」

 聞いておきながら、真夜は大して興味もなさそうに反復した。視線は未だ漫画の上だ。

 大晦日も近づく今日。珍しく、真夜が私の家に来ている。本当は別の子と遊ぶ予定だったけれど、そっちの予定は断らせてもらった。真夜に今日は別の子と遊ぶからなんて言ったら、相手がひどい目に遭いかねない。

 それにしても、好みのタイプとは。ガールズトークには割と欠かせない内容だが、そんなことをなぜ今聞くのだろう。そんな不明瞭な疑問を抱きつつも、私は理想の恋人を思い描いてみた。

「うーん、イケメンで背が高くて、優しい人」

 声に出してみて、なんて安直な理想像だろうと自分で呆れる。私みたいなちんちくりんに、そんな素敵な人が振り向いてくれるかはともかくとして。

 真夜は顔を上げて、目を細めた。家の中でくらい、マスクをとればいいのに。前髪とマスクに隠れていないのは、いつも人を睨めつけているその目だけ。

「理想高くない?」

「……まあ、そうかも」

 私は素直に肯定した。でもまあ、イケメンで背が低い人ってあんまりいないし、性格が悪いイケメンというのも案外少ないものだ。最初の条件さえ満たしていれば、後の二つは当然のように装備している人が多い気もする。イケメンに限れば。

「そういう真夜ちゃんは、どういう人がいいの?」

 私は何気なく尋ねた。

「うーん、優しくてイケメンでイケボで頭が良くて、私より背が高い人」

 真夜は近くにあったクマのぬいぐるみを引き寄せながら答えた。ある意味では想像通りのわがままっぷりに、私は一種の感心すらおぼえる。

「真夜ちゃんより背が高い、かあ。だいぶ絞られるね」

 彼女が自分のスレンダーな長身を誇りに思っていることを知った上で、私は言った。案の定、クマの頭を撫でながら満更でもなさそうに微笑む真夜。

「まあね」

 私は漫画のページをめくる。

『お前の好きなところはな、到底俺なんかのものにならなさそうなところだよ』

 主人公に急接近して顎クイしながら、脇役の男がそんなことを言う。幼なじみ君には悪いけど、私としては主人公とこいつがくっついてほしいなあと思った。

「でもさあ」

 しばらく間が空いたのはなんだったのか、真夜がもう一度口を開いた。

「意外と、自分の理想とは正反対の人と結婚するって言うよね」

 バスケットに並べられた塩煎餅に手を伸ばしながら、彼女はクスリと笑う。

「ていうことは私、チビでちょいブスでおバカな人と結婚するのかな」

 透明なビニールが指先で切られるのを、私は黙って眺めていた。チビでちょいブスでおバカ。割と、いや結構、私だ。

「最終的に一つだけ選ぶとしたら、優しい人だよねえ。あー、でもブスはともかく臭いのはイヤかも」

 何を思い浮かべたのか、彼女は煎餅を片手に顔をしかめる。臭いのはもってのほかだ。私は頷いた。

「そだね」

 ついでに、私もお菓子の入ったバスケットに手を伸ばす。キャンディのように包装されたチョコを一つつまんで、ぴっとビニールを剥がして、口に放り込んだ。これ以上太らないように、今日の遅めなおやつはここまでにしておこう。

「あ」

 ふいに真夜が時計を見た。つられて視線をやると、時刻は四時三十八分。あたりはすでに薄暗くなり始めている。

「そろそろ帰るわ」

 彼女は抱いていたぬいぐるみを半分投げるように元の位置に戻し、慌てたようにショルダーバッグをひっ掴んだ。私もよっこらしょと立ち上がり、玄関まで真夜を見送る。

「じゃあね。あ、初日の出の約束忘れないでね。一日の朝五時半、集合ね」

 そう念を押すように言ってから、彼女は帰っていった。あとは煎餅の袋と、放り出されたクマが残るだけ。ゴミぐらい捨てていきなよ、と私は内心げんなりする。

 たしかに背が高くて、イケメンじゃないけど美人で、でも全然優しくなくて、むしろ意地悪。

 難儀な人を好きになってしまったものだ。クマを引き寄せて抱きしめても、ファブリーズの匂いしかしなかった。

 身長は乃亜ちゃんが百四十台後半、真夜ちゃんが百七十少しのイメージで書いてます。身長差〜

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