真夜と乃亜のはなし2
「好みのタイプ?」
私はこたつに足を突っ込んだまま首を傾げた。
「そう。好みのタイプ」
聞いておきながら、真夜は大して興味もなさそうに反復した。視線は未だ漫画の上だ。
大晦日も近づく今日。珍しく、真夜が私の家に来ている。本当は別の子と遊ぶ予定だったけれど、そっちの予定は断らせてもらった。真夜に今日は別の子と遊ぶからなんて言ったら、相手がひどい目に遭いかねない。
それにしても、好みのタイプとは。ガールズトークには割と欠かせない内容だが、そんなことをなぜ今聞くのだろう。そんな不明瞭な疑問を抱きつつも、私は理想の恋人を思い描いてみた。
「うーん、イケメンで背が高くて、優しい人」
声に出してみて、なんて安直な理想像だろうと自分で呆れる。私みたいなちんちくりんに、そんな素敵な人が振り向いてくれるかはともかくとして。
真夜は顔を上げて、目を細めた。家の中でくらい、マスクをとればいいのに。前髪とマスクに隠れていないのは、いつも人を睨めつけているその目だけ。
「理想高くない?」
「……まあ、そうかも」
私は素直に肯定した。でもまあ、イケメンで背が低い人ってあんまりいないし、性格が悪いイケメンというのも案外少ないものだ。最初の条件さえ満たしていれば、後の二つは当然のように装備している人が多い気もする。イケメンに限れば。
「そういう真夜ちゃんは、どういう人がいいの?」
私は何気なく尋ねた。
「うーん、優しくてイケメンでイケボで頭が良くて、私より背が高い人」
真夜は近くにあったクマのぬいぐるみを引き寄せながら答えた。ある意味では想像通りのわがままっぷりに、私は一種の感心すらおぼえる。
「真夜ちゃんより背が高い、かあ。だいぶ絞られるね」
彼女が自分のスレンダーな長身を誇りに思っていることを知った上で、私は言った。案の定、クマの頭を撫でながら満更でもなさそうに微笑む真夜。
「まあね」
私は漫画のページをめくる。
『お前の好きなところはな、到底俺なんかのものにならなさそうなところだよ』
主人公に急接近して顎クイしながら、脇役の男がそんなことを言う。幼なじみ君には悪いけど、私としては主人公とこいつがくっついてほしいなあと思った。
「でもさあ」
しばらく間が空いたのはなんだったのか、真夜がもう一度口を開いた。
「意外と、自分の理想とは正反対の人と結婚するって言うよね」
バスケットに並べられた塩煎餅に手を伸ばしながら、彼女はクスリと笑う。
「ていうことは私、チビでちょいブスでおバカな人と結婚するのかな」
透明なビニールが指先で切られるのを、私は黙って眺めていた。チビでちょいブスでおバカ。割と、いや結構、私だ。
「最終的に一つだけ選ぶとしたら、優しい人だよねえ。あー、でもブスはともかく臭いのはイヤかも」
何を思い浮かべたのか、彼女は煎餅を片手に顔をしかめる。臭いのはもってのほかだ。私は頷いた。
「そだね」
ついでに、私もお菓子の入ったバスケットに手を伸ばす。キャンディのように包装されたチョコを一つつまんで、ぴっとビニールを剥がして、口に放り込んだ。これ以上太らないように、今日の遅めなおやつはここまでにしておこう。
「あ」
ふいに真夜が時計を見た。つられて視線をやると、時刻は四時三十八分。あたりはすでに薄暗くなり始めている。
「そろそろ帰るわ」
彼女は抱いていたぬいぐるみを半分投げるように元の位置に戻し、慌てたようにショルダーバッグをひっ掴んだ。私もよっこらしょと立ち上がり、玄関まで真夜を見送る。
「じゃあね。あ、初日の出の約束忘れないでね。一日の朝五時半、集合ね」
そう念を押すように言ってから、彼女は帰っていった。あとは煎餅の袋と、放り出されたクマが残るだけ。ゴミぐらい捨てていきなよ、と私は内心げんなりする。
たしかに背が高くて、イケメンじゃないけど美人で、でも全然優しくなくて、むしろ意地悪。
難儀な人を好きになってしまったものだ。クマを引き寄せて抱きしめても、ファブリーズの匂いしかしなかった。
身長は乃亜ちゃんが百四十台後半、真夜ちゃんが百七十少しのイメージで書いてます。身長差〜




