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背面黒板のラブレター  作者: 東源雷頸華
2018年クリスマス
13/20

凛と杏奈のはなし2

 グランドピアノで奏でられる幻想的なイントロを経て、軽快なロック調のAメロへ。同時に私の歌声が合流する。杏奈が好きだと言ってくれた、クリアでまっすぐなミドルボイス。Bメロでマイナーコードを効かせやや雰囲気を落ち着かせてから、いよいよサビ。ここは一気に盛り上げる。腹筋に力を込めたハイトーンで歌い上げ、息つく間もなく次はラップだ。イジメのような早口のリリックを自慢の滑舌で難なくこなす。

 音源の確認を終え、思わず顔を見合わせる。杏奈は満面の笑みを浮かべていた。私も笑う。

「できたーー!」

「やったああああ!」

 どちらともなく叫んで、ハグしながらぴょんぴょん飛び跳ねた。曲が完成するこの瞬間の達成感はクセになる。何回も何回も話し合って、何回も何回もアレンジして、何回も何回も録り直して完成した私たちの曲だ。ひとしきり騒いだあと、私たちは床に座って話し始めた。

「これでクリスマス企画の準備も完璧だね。あー長かった」

 満足げにそう言い、ごりごりと肩を回す杏奈。色白な顔に、うっすらと疲労の色が見える。睡眠を削ってMIXを頑張ってくれた杏奈には感謝しかない。

「でも楽しかった。季節企画とかイベントとか、これから積極的にやっていきたいね」

「うんうん」

 クリスマス企画の告知を出したのが二週間ほど前。季節ものの企画は初めてということで、まだまだ少ないファンのみんなも楽しみにしてくれていた。これなら期待に応えられそうだと、私は今からうきうきが止まらない。杏奈もきっと同じ気持ちだろう。

 バンドとはいえ、まだ高校生である私たちの活動に制限は多い。こんな田舎住みだとライブもできやしない。今の活動の中心は、巷で言われる「歌い手」に近いものだ。カバーはほとんどしないが、時々好きな曲に出会えると歌ったりする。今の所カバーの方が伸びる傾向にあるのは悲しいけど、そこは知名度が足りてないのが原因だと割り切っている。精進を怠ってはいけないのだ。

「あー、明後日までなんて待てないよう。今すぐにでも聞いてもらいたい」

 カーペットに寝転がって足をパタパタさせると、杏奈がクスリと笑った。

「それじゃクリスマスの意味ないじゃん。でもほんと、楽しみだね。凛の歌のレベル、どんどん上がってる」

「え、ほんと?」

「うんうん。声量も安定してるし、高音域もちょっと広がったし伸びるようになってる」

「やったあ、褒められた」

 そう喜ぶ私を横目に、杏奈はひょいと立ち上がってパソコンをいじった。カチカチというクリック音の後に、完成した音源がファイルになって保存される。

「さーて、凛さん」

 杏奈が振り返り、楽しそうにそう言った。赤みがかったこげ茶のミディアムがふわりと揺れる。

「はいっ」

 生真面目な表情を装って答えると、杏奈はぷっと吹き出した。次に何を言うかは、なんとなくわかる。

「イラストも曲も完成したことですし、遊びましょう!!」

「いぇーい!」

「ふーーー!」

 私たちはふざけた歓声を上げて、それがおかしくて二人して笑い転げてしまった。


「こんにちはーっ」

「こんにちは」

「お、凛ちゃんに杏奈ちゃん。いらっしゃい」

 遊ぶと言ったって、こんなど田舎に買い物できるようなショッピングモールもない。ということで、私たちは行きつけの喫茶店にやって来ていた。それぞれダージリンとグリーンティを注文する。緑茶と言えばいいものを、杏奈はなぜだか頑なにグリーンティと言い続けるのだ。ついでにオーナー自慢のパフェもひとつ頼んで、二人でつつくことにした。

「そうだ、やっとクリスマス曲完成したんですよ」

 ティーカップをふうふうと冷ましながらそう言うと、ロマンスグレーのマスターはにっこりと微笑んだ。

「おお、それはおめでとう。アップされるの、楽しみにしてるね」

 この店――カフェ・ジルエットは、「海辺のライブハウス」というキャッチコピーで営業している、いわば歌声喫茶というものだった。私たちがまだ中学生だった頃からのお気に入りだ。数日に一回は地元のアマチュアバンド等の演奏会がある。ギターの上手いマスターは、時々私たちに演奏を聞かせてくれたりするのだった。

「でも、若い子はいいねえ。二人を見てると、俺も老けたなって思うよ」

 マスターはギターをいじりながら自虐的に言った。

「やだなあマスター、そんなこと言わないでくださいよ」

 それを、杏奈がころころと笑って否定する。私はうんうんと頷いてそれを肯定しながら、まだ熱いダージリンを一口飲んだ。

「そうそう、人生百年時代ですよ」

「はは、嬉しいねえ」

 マスターはギターの弦をぴんと指で弾いた。私にはなんの音だかわからないけれど、明るくて陽気な音色だ。確かめるようにいくつかのコードを鳴らした後、アルペジオが始まる。街でよく耳にする、楽しげなクリスマスナンバー。

「あー、私もギター持ってくればよかった」

 杏奈がぽそりと呟いた。ギターの生演奏をBGMに、海辺の町で過ごすクリスマス。悪くないかもしれない。

「いつかさ、ここで歌わせてもらいたいよね。二人でさ」

 私は外を見ながら答えた。交通量の少ない国道を、錆びた自転車に乗ったおじいちゃんが通り過ぎていく。

「そうだね。伴奏はピアノとギター、どっちがいい?」

「どっちもだから、二回。つか打ち込みもあるじゃん、三回やらないと」

「打ち込みにしたら私のやることないんだけど」

「タンバリン?」

「しばくぞ」

 杏奈はそう言って苦笑した。細められるチョコレート・ブラウンが綺麗だと思った。このフレーズ、歌詞に使えそう。

「杏奈」

「なあに?」

 いきなり名前を呼ぶ私に、不思議そうな顔をする杏奈。

「メリークリスマス」

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