その7・増える仲間
強制的にザックとパーティーを組むことになった、俺。
ソロでいたのは、ソロが好きだからという訳ではない。
確かにソロは気楽だが、パーティーを組むことも有った。
俺のような高ランクの冒険者となれば、引く手数多だが……まぁ、合わないということだな。
笑顔でごり押ししてくるギルドマスターの部屋から、押し売りされたザックと共に退出すると、胸がざわめくような不思議な感じがした。
(え、なにこれ? 体が勝手に動いてる!? 声も出ないんだけど、何コレ!?)
やけに楽しそうな声が耳とは違うどこかから聞こえた。
……幻聴だと思いたい。
(誘拐なの!? 王子様なクーリくん助けて! イケメンタイムだよ!)
依頼のためでもなくパーティーを組むことになり、おかしなヤツに体を乗っ取られるし、今日は変な一日だな。
扉の閉まる音に重ねて、深いため息が零れ落ちた。
※
(なんとなく分かってきた! あなた、クーリくんね! 私は……ちょっとよく分からないけど……不束者ですがよろしくお願いします。初めての共同作業は済ませちゃったみたいだね!)
共同作業というのは、魔物の殲滅のことか。
ヤツの思考が流れてきて、「不束者ですが」というのは結婚に係わる言葉で、「初めての共同作業」はケーキを切り分けることなのも分かった。
……なぜ、ケーキを切るのと、魔物の殲滅を一緒にした?
考えていることが分かっても、ヤツの思考回路がおかしすぎて意味が分からない。
しかも、横を歩くザックも話しかけてきた。
「なぁ、結局なんか変だったあの魔法とか、おかしなことも言ってただろ? あれは何だったんだ?」
まだ説明を考えて無かった。
いっそのこと、「おかしなヤツに乗っ取られた」と正直に言おうか?
……俺の正気を疑われるだけだな。
(え、おかしなヤツって私のこと? 私、おかしくなんてないよ! ただ、イケメンなクーリくんが好きになっちゃっただけなの! てへ♪)
……迷惑しか被っていない俺が、それを聞いて喜ぶとでも思うのか?
「まだ考えがまとまってないのか? それとも無視か?」
(私、迷惑かけた? どの部分が?)
―――内と外から話しかけられたら、俺のキャパシティがパンクする!!
奥にあるギルドマスターの部屋から出口に向かえば、クエストカウンターの横を通ることになるが、人があふれていた。
ほとんど俺が片づけたスタンピートだが、間に合わなかった時のための依頼を受けてあの場に集まっていた冒険者が戻ってきているようだ。
人の声が多いから今返事をしてもどうせ聞こえないだろうから、仕方ない。
そう理由をつけて何も答えないまま、外に向けてゆっくり人ごみの横を通ることにした。
しかし、人ごみの中から一人の女性に声をかけられてしまう。
「ようやく会えましたね! わたしはイェルミナと申します。あなたのファンになってしまったので、どうかパーティーに入れてもらえませんか?」
俺の魔法のことだろうか?
フィールド魔法か、治癒の雨か。
どちらも常用している威力も見た目も悪くない魔法だ。
気に入っている魔法を褒められたと思った俺は、思わず歩みを止める。
銀髪で大人しそうな雰囲気の綺麗なヒトだった。
恥ずかしそうに染めた頬を両手で押さえている。
(イケメンがモテるのは仕方ないけど、クーリくんは私のだよ! 浮気しないでね?)
俺とお前の関係は、他人だ!
(お・ま・え、だって! 私達は一心同体だから結婚したようなものだよね、あ・な・た♪)
ヤツの変なツボに入ったらしく、怪しい笑い声をあげて悶えているのが分かる。
正直、関わりたくない。
「ファン? さっきの討伐クエストだろ? どこにファンになる要素があったんだ?」
俺がヤツに気を取られていた間に、ザックがイェルミナに話しかけていた。
酷い言い草だ。
俺の魔法の完成度が分からないのは、ザックに魔法のセンスが無いからじゃないのか?
分かる人には、俺の魔法の素晴らしさは分かってしまうものだ。
「ありましたよ! あれほど素晴らしい魔法を見たことはありません。」
案の定、イェルミナに諫められるザック。
当たり前だ。
「―――そう、あれほど素敵な光の帯―――」
……光の帯?
「――― 一本一本が意思を持つかのように優しく包む治癒魔法、最高です!!」
……そっちなのか?
俺には、あの触手治癒の良さは分からなかったが……。
(分かる人には、あの感動が分かったんだね! 私、イェルミナちゃんと仲良くできそう♪)
あの魔法を思い出しているのか、恍惚とした微笑みを浮かべるイェルミナから物理的に一歩引いたザックにならい、俺も一歩引いた。
ヤツの同類ってことなのか?
今日は変なヤツに付きまとわれる一日なのか……?
気付いた?
クーリくん、私としか話してないの。
クールなクーリくんと会話できる私って、相思相愛だよね♪