表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

その6・噂の冒険者


 証拠隠滅のため殴る、などという効率の悪いことはやめた。

 ザックの記憶が無くなれば、俺のおかしくなっていた言動を無かったとことに出来るが、あの大規模な魔法を見られてしまった以上大勢の記憶を消すことは難しい。


 ――― 一人一人、殴って回るわけには行かないだろう。


 それに、あのおかしな行動をやらかしてくれたヤツが、このまま大人しくしているとは限らない。


 俺は、クーリだ。

 俺がクーリで、この体も俺の物だ。


 今後もヤツが俺の体を勝手に使うことが出来るのか、確認しないとならないだろう。


 ……どうやって?


 とりあえず、街に行こう。スタンピート殲滅の依頼完了の報告をして、報酬を貰いに行こう。

 歩きながら、原因と対策考えればいいだろう。


「おい、返事もしないで、そのまま行くのかよ!? ……ちょっ、待ってよー!」


 後ろについて来るヤツも居るが……誤魔化した説明をした方がいいか?

 ついて来るなら、後で考えればいいか。


「なぁ、無視すんなよ。」


 無視? それは駄目だ。


 足を止めてザックと目を合わせる。


「説明を今考えている。話は後だ。」

「……今、考えてる?」


 正確には、次に考える、だが大差ないだろう。頷いて肯定する。

 そしてそのまま返事をまたず、目的地に向けて早歩きで歩き出した。


 ―――俺の体を勝手に使っていたのは、何だったのか。

 知ろうとすれば、脳裏に描かれる一度も見たことのない光景。

 高くそびえる建物が理路整然と並ぶ様子や、舗装された道を走る鉄の車と空を飛ぶ鉄の船。

 明らかに、この世の物とは思えない情報が流れてくる。


 知らないはずの記憶に気を取られる俺は、小声を漏らしたザックには気付かなかった。


「……今考えてるとか、誤魔化そうとしてるのが丸わかりなんだが、待ってた方が良いのか? っていうか最初と雰囲気違い過ぎだろ。……今の方が……」





 街に入り、冒険者ギルドに行けば、ギルドマスターの部屋まで通された。

 ザックに手伝ってもらったとはいえ、俺一人でほとんどを殲滅したことは間違いないからな。こんな対応になるのも当たり前だ。


「はじめまして。僕がこのリュエンの街支部のギルドマスターだよ。君が来てくれて本当に助かったよ! そこに座って。」


 中に居たのは、優し気に笑う細身の男だった。

 ギルドマスターになるには最低でも元ランクAは必要なだけあって、物腰に隙は無い。


 指された3人掛けのソファーに座る。

 なぜか、ここまでついてきたザックも一緒だ。


「早速だけど、流石ランクAで”霧氷”の二つ名持ちだね! まさに、歩く自然災害!

 フィールド魔法の使い方にも言いたいことはあるけど……、あの無駄に光る投石魔法とおかしな回復魔法はどういうつもりだったのかな?」


 上機嫌のように言い連ねているが、目は笑っていない。

 ……感心されている、わけではなさそうだ。


 俺が使った訳ではない魔法について言われても困る―――俺の体が使っていたのは間違いないとしても。


「……特に理由はない。」


 ぼそりと誤魔化しにもならない返答しか出来なかった。

 あの状態を、どう説明しろと言うのか。


 それに、()()()()()人的被害もゼロにしたのに、説教をされる意味も分からない。


「へぇ! 流石だね! ()の巻き込まれ注意は、最近では氷結魔法だけじゃなくて光にも注意なんだね!?

 そろそろ二つ名を”共闘注意”に変えた方がいいかな?」


 共闘注意って、流石にそれは酷すぎる……。

 普段は()()()()周りを巻き込んでるつもりは無いのだが、確かに今回は酷かった。

 特にあの目潰しの呪文は、完全に味方側を狙っていた。


 言い訳も出来ずにいれば、ギルドマスターはその恐ろしい笑顔を深めた。


「君の実力は素晴らしいけど、味方を平気で巻き込む魔法の使い方はやめた方が良いと思うよ。でも、今までも言われてるだろうし、僕が言って直るものでもなさそうじゃないか。

 そこでだけど、ザックくんをパーティーにするのはどうだろう?」


 どうだろう? って、急になんだ?


 その笑顔を優しいものに変えたギルドマスターは、話の繋がりが見えずに眉を寄せる俺を無視し、ザックの方を向いていた。


「この支部でパーティーメンバーを募集していたザックくんが居てちょうど良かったよ。どうだったかな?」


「オレですか? 噂通りすげえ強いし、仲間としては申し分ないですね。ただ、ちょっと……かなり変わってるけど……ま、よろしく頼むよ、”霧氷”のクーリ!」


 面白そうに笑いながらこちらに片手を出すザック。

 それを見て、ギルドマスターも「よかったねぇ」と笑っているが、俺は良くない。


「それって、俺に拒否権は……」

「無いね。」


 被せるように答えた目は、笑っていなかった。


「アハハ! 流石に”共闘注意”は嫌だろ? このおっさん、やると言ったらマジでやるぜ?」


 それは―――嫌だった。

 

 諦めて、ザックの差し出されたままの手を握れば、ブンブンと振られる。


 仲間になると言っても、今の俺の中にはよく分からないヤツも居るのだが、大丈夫だろうか。


「俺はザック。ランクBでもうちょっとAに上がるところだ。スキルは”同士魔法フレンドリーファイア無効”。よろしくな!」



 ……同士魔法フレンドリーファイア無効だって? 誤爆しても大丈夫なら安心だな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ