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その4・有名な3つの呪文


 後で自分クーリくんに言ってもらうカッコいいセリフを考え始めてすぐ、周りが騒がしくなった。

 何事かと思えば、スタンピートが来るところだった。

 

 街を守る城壁の周囲を広がる平原の奥の森から、立ち上がる土煙が猛然と近づいてくるのが分かる。


「分かってると思うけど、森から出てきたところから頼むぞ。半分よりこっちに入って来たら、そこからは下に居る奴らで食い止めるから、その前に出来るだけ減らしてくれ。

 ……大丈夫だよな?」


 心配そうなザックが、小声で聞いて来る。

 問題無いと伝えたのに、心配性だ。


「私を誰だと思ってるの。クーリくんだよ、任せて!」


 私はクーリくん! 冒険者ランクAの魔法剣士!

 私は私であって、私にあらず!

 戦闘はイケメンなクーリくんのオートモードなのだ!!

 

 不思議なことに、ザックはとても心配そうにしていた。






 私はクーリくんの戦闘モードを心待ちに、土煙が迫ってくるのを眺めていた。

 迫ってくる土煙は、平原の半分をそろそろ越える。


「おい、まだ攻撃しないのか!?」


 ザックが小声で急かしてきて、周りの冒険者たちの視線も刺さってくる。

 そんな状況で、私はこう答えた。


「まだ大丈夫なんじゃない?」


 クーリくんが動かないってことは、まだ大丈夫だよね!


「大丈夫じゃないんだよ!! ……人違いだったのか。ああ、俺が間違えたばっかりにマズい状況だ……!」


 クーリくんが動かないから大丈夫なハズ。

 初めの一回以降は自分わたしが戦わないといけないという無茶振りを、私の王子様で騎士様なクーリくんがすると思えない。……今は、私だけど。


 ザックが頭を抱えたのを横目で一瞥し、前を見る。


 近付いてきたため、魔物の識別ができるようになってきた。

 どれも1m以上は有りそうな、獣や虫のような魔物の群れだった。

 その内訳としては、虫が8割かな?


「なんか、虫多くない?」

「……虫型魔物の繁殖時期だからな。森から溢れた分がスタンピートになって移動するんだ。

 こんなことも知らないなんて……お前、逃げた方がいい。」


 キリッと顔を引き締めたザックに見つめられた。

 カッコつけた表情をしても、クーリくんの方が断然イケメンだった。


 そんなザックの事よりも、私の頭は一つの有名なセリフに埋め尽くされていた。


 獣型もいるが、1mを越える虫の魔物が集団で迫って来ている。

 しかも、その中にはダンゴムシのようなフォルムの魔物も居た。

 これを殲滅しなければいけないと言われれば……一回だけなら、いいよね?


 私は誘惑に負け、右手を前に伸ばした。

 テレビの前で殿下のセリフをまねたように、あのセリフ呟く。


「薙ぎ払え」


 呟いただけで決して大きな声ではない。


「はぁ!?」


 隣で大声を上げられて、ビクッとなる。


 敵が迫る中でふざけたから、怒った?

 でも、私はクーリくんのオートモード待ちで暇だったから仕方ないよね?


 ……あれ、異世界なのに日本の有名アニメのセリフが分かるの?


 不思議に思い、横のザックを見れば、上を見上げていた。


 私のセリフに反応していたわけではなさそうだ。


 その視線を追いかけると、私の真上に両手を広げたサイズの魔法陣が浮いていた。

 魔法陣は発光し、その光を収束させたビームを魔物めがけて打ち出す。


 横に線を引くような一撃。

 視界にあふれる爆発の光と音。

 先ほど思い浮かべていたあのシーンと瓜二つの光景だった。


「マジかよ……。」


 呆然とする隣からの声に気を良くした私は、あの一撃にも怯まず向かってくる巨大虫たちに向けてもう一度繰り返す。


「薙ぎ払え!!」


 自信をもって叫べば、先ほどと同じ一撃が繰り出された。


 スゴイ! 私、魔法使えてるかも!


 ドヤ顔で周りを見れば、2度の爆発の光で視界がおかしくなったのか目を押さえている人が散見された。


 おかしい。目つぶしの呪文は別にある。


 あのセリフは特に有名だと思う。

 呟くアプリは入れて無かったけど、入れていたら私もサーバのダウンに貢献していたと思うほどだ。


 そう、あの目つぶしと滅びの有名な呪文……!


「バ○ス!!」


 調子に乗った私は、心のままに呪文を唱えた。

 浮かんだ魔法陣を確認し、静かに目を閉じる。


 直後、瞼越しにも分かる先ほどの比ではない光が辺りを包んだ。

 光が消えた後に上空をみれば、まだ消えずに浮かぶ魔法陣から大岩が魔物の居る方に向けて射出されていた。

 防衛ラインである半分のこちら側にも飛んでいるけれど、自然落下する島を表すついでの攻撃ということなら、その再現度は及第点かな?


「す、スゴイのは分かった! 分かったから周りを見てくれ! 治癒は出来るのか!?」


 横にいたザックに肩を掴んでゆすられ、集中力が切れたのか岩を射出する魔法陣が消えた。

 防衛ラインの内側といっても、半分地点まで着いていなかった人間側に岩は当たってはいない。

 

「目がぁ! 目がぁああ!!」

 と、死にそうな声を上げている人が大量にいるのは、そういう魔法を使ったから仕方ないよね?


 ………はい、ごめんなさい。仕方なくないよね。


 治癒か。治癒のシーンと言えば、ダンゴムシフォルムの虫が傷を治していた。

 王の蟲のセリフというのは思い出せない。

 ただ、あのシーンはこんな曲だった。


「らん、らんらら、らんらーらん♪」


 私が歌い出せば、目を押さえて転がる人達の下に魔法陣が広がった。

 その魔法陣から金の触手が伸びて、傷ついた人を癒して……。


「イヤー!! 触手!!」

「やめろー! 来るなぁーー!!」


 癒してるんだよ?


 感動的なシーンなのに、その反応は酷いと思う。

 なんだかがっかりするのと同時に、意識が朦朧としてきた。



 落ちかけた意識の中で気付く。

 そうか、あのシーンで有名なセリフは「その者、蒼き(以下略)」だったのか。

 間違えちゃったな……。


 やっぱり、他人のセリフを丸パクリして魔法を使おうしたのがいけなかったかも……。



ハッ! 音痴だったから、感動のシーン再現できなかったのかも!?


……っていうほど、音痴じゃないハズ……。

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